第2話:魔王 ~知希、魔界の扉を開く~
なぜだろう。新しい教科書って何だかわくわくする。何度もページをパラパラと見る。人が見ていないと匂いを嗅いだりする。しかし実際1学期の授業が始まり、3時限も経つとほぼ興味は消失。「この現象には何か名前がありそうだなぁ」とつらつら思いつつ、6時限、集中力の乏しい知希にとって長すぎる一日目の授業が終わった。
英語の先生はまぁまぁ面白かったな。わかりやすくて雑談・豆知識も面白い。さて、一応部活説明会に行ってみようかな。講堂に着くと運動系・文化系それぞれの部活が順に発表していった。これまでに獲った賞の数々を誇る部もあれば、メンバーの個性をアピールする部、「トモダチいっぱいできるよ!」的な部、様々だ。武蔵寺高校は吹奏楽部や合唱部は有名だったが、それ以外に珍しく「室内楽部」もあった。全部活の紹介が終わり、講堂の外に出ようとすると、チラシを持った先輩たちがわらわら詰めかけていて、とたんに囲まれてしまった。
「君!背が高いね。バスケットどうだい?」「いや運動全くやってこなかったんで・・」「大丈夫大丈夫。そのタッパがあればすぐにみんなに追いつけるよ。絶対役に立つって。桜木クラスになるのも夢じゃない!」「ごめんなさい」
室内楽分の人はいないかな。文化系の部活は、運動系の比べたら、勧誘は控えめだ。
「きみぃー!音楽は好きかい?」とっても大きな通る声。振り返ると顔の基本形が「笑顔」な感じの、少し茶色がかっているさらさら髪の先輩らしき人が知希の顔を覗いてくる。「はい好きです」「そうかそうか~!わしは佐田。よろしく!クラシックは?マーラーしってる?」「はい、交響曲1番とか5番とかめちゃ好きです」「それは素晴らしい!うちの部室は音楽聞き放題だよ~」「え、そうなんですね。何の部活なんですか?」「合唱部。」「・・・」知希は戸惑った。昔から歌は大の苦手なのである。だが笑顔先輩の明るい声と人柄のエネルギーに引き寄せられて、半ば諦めつつ連れて行かれた。
「新人さんが来ったよ~~!!」恥ずかしい止めてくれ~、と思いながら恐る恐る部室に入る。都内でも有名な合唱部ともあって、部室にはもうかなりの新入生が集まっていた。黒板には「合唱部へようこそ!~歓迎ミニコンサート~」
背は低いがショートヘアの少し色黒の健康そうな女の子が挨拶する。
「新入生の皆さん、合唱部へようこそ!今から皆さんの入学をお祝いして、合唱部より歌のプレゼントをします!わたしは部長の生田爽(いくたさわ)です。」
NHKのアナウンサー?と思うほど滑舌が良くスムーズ、響きの良い美声が印象に残った。
挨拶の間に1枚のプログラムが配られる。全部で3曲。1曲目は「春に」。知らないなぁ。作曲者は木下牧子。2曲目は「COSMOS」おお、これは知っている。中学生の時にピアノ伴奏を担当した曲だ。そして3曲目「新しい歌」。「新しい」?「歌」?作曲者は「信長貴富」。信長?インパクトある苗字だなぁ。俺も「秀吉知希」に改名しようかなぁ・・。
「それでは演奏致します。最後までお楽しみください!」
うたを失したキリン @singing_giraffe777
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