<第1章>第1話:アイネクライネ ~天才チキとAI少女~
「アナタイチネン?」
急に声を掛けられて知希は戸惑った。「アイネクライネ?」
「アナタ、イチネン?」眼鏡をかけた小さな女の子が畳み掛ける。制服を見てようやく理解した。「おう、一年。君も?」「ミチワカラナイ」「あ、お、OK、校門まで一緒に行こうか。」「アリガト」
最寄り駅から、なだらかなカーブを描く路を辿っていくと校門が見えてくる。校舎にあまり特徴はないが、通りから学校全体が見渡せる。校内に桜が咲き誇っているのが綺麗だった。いよいよ高校入学式へと赴くのだ。
「よう、チキ!」
後ろから声がして振り向く。ハイタッチを求めてきたが、反射的に手を高くあげ届かないようにした。同じ中学校だったKだ。
「なんだよ!また背の高さ自慢するのか、てめぇ!」。
知希は「チキ」というあだ名があまり好きではなかった。「チキン=弱虫」を連想するからである。「え、あれ?もう連れがいるのかよ!」「ちげーよ!駅でたまたま会っただけ。」そういえばカタコトの女の子の名前を知らない。「君、同じ一年だよね?名前は?」「ワタシアイ」。Kが割り込む。「アイちゃんか。よろしく!」。Kはハイタッチしようとしたが「アイ」は完全無視した。
東京都立武蔵寺高校入学式。体育館に集まり着席する。春風知希(はるかぜともき)は同じ1年生の面々を見渡して、改めて高い倍率を潜り抜けてきたことを実感した。校長挨拶。「入学誠におめでとうございます。えーわが校には長い伝統と歴史が・・」。知希はこの時点で耳を傾ける集中力を失い、自分の空想の世界に入っていった。予想以上でも以下でもない入学式が終わり、クラス分けに従ってぞろぞろと慣れない感じで自分のクラスに向かった。
黒板に指定された自分の席に座る。一番後ろの窓際だ。自由に妄想の世界に入るにはうってつけの席。ラッキー。あっ、アイちゃんだ。同じクラスなのか。アイちゃんはドアからまっすぐ直進で入ってきて停止、90度くるりして黒板方向ををしばし見たあと、今度は180度くるりして、廊下側の席まで直進して着席した。何だか挙動が機械的。いや奇怪的というべきか・・。などと考えていると、担任らしき女性教諭が入ってきた。
「みなさんご入学おめでとうございます!私はこのクラスの担任で、数学を教える亀江夏花です。「亀江」かめえと書くんだけど、「かめい」と読むので間違えないでね。「夏花」は「なつか」と読みます。・・おーいみんなぁ、晴れの記念すべき日なんだからそんな暗い顔しないー!これからよろしくね!」
とても「亀」とは思えない活発な感じ、しかし「夏」らしくオープンで明るい笑顔と声が印象的な先生だった。
「これから少しオリエンテーションをして今日は解散。明日は6時間授業と、授業後に部活の合同説明会があるから、まだ決めてない人もぜひ見てみてね」
部活・・。中学では帰宅部だったので高校の部活についてあまりイメージが湧かなかった。まぁ、説明会聞いてから決めるか。
♬キーンコーンカーンコーン。この学校は変二長調か。前の中学校は味気ないハ長調だったなぁ。
クラスは若干ざわざわしていたが、まだ皆はお互いの様子見の感じで、アイちゃんのことは少し気になったが、人見知りな知希はそのまま帰宅した。
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