第2話 瘴《ショウ》の章
「ふぅ──」
どういった経緯で奥戸家が奥森を所有するに至ったかは定かでは無い。だがいつの頃からか奥戸家は奥森からの穢れを断絶する
祖父である
「久しぶりに来たけど……」
雪人が声に出しながら奥森──地蔵山の方を見、「……狂ってるよなぁ」と呟く。二股に分かれた道の右、地蔵山へと続く
──地蔵
地蔵が道なりに
狂っている。
地蔵の連なりに規則性は見いだせず、倒れた地蔵や薮の中に放り投げられた地蔵。首のない地蔵や憤怒の表情の地蔵も散見され、
狂っている。
「なんで代々こんな狂ったことしてるんだか……」
雪人が電子タバコのスティックをデバイスから抜き取り、携帯灰皿へ吸い殻を捩じ込む。もはや火を使わなくなった電子タバコであるのに、
雪人も呟いたようにこの
(空気が重い……。こっちにいる時はなんだかんだ雰囲気が怖くて入ったことはなかったけど……)
重い。
地蔵
(六年ぶり……か。約束の時間までまだあるしな……。
雪人がこの地を訪れるのは六年ぶりである。六年前、雪人は高校を卒業するとともに、勘当も同然に奥戸家を追い出された。実は雪人は母、
卒業の一年前、高校二年時から母の態度まで変わっていた。まるで
だが思い返してみれば、あの勘当劇は仕組まれたことのようにも思える。何故ならば、母の態度の急変と時を同じくして雪人の前に現れた親戚、
それまで雪人は奥戸幸之介を実の父だと思って過ごしていたのだ。そこへ降って湧いたような連れ子という事実。さらには母の態度まで急変し……。
多感な時期でもあった雪人は高校卒業とともに、訳も分からず伯父である佐伯敏文を頼って東京へ出た。
そこで出会ったのが
その鷹臣が常々言っていたのだ。
だがある時、鷹臣が言った「実は奥戸家や奥森のことを色々と調べているんだけれど……、君は追い出されたと思っているが、それは違うかもしれないよ」という言葉。もちろん雪人は「どういう意味だ?」と問い返す。それに対して鷹臣は「僕もはっきりしたことは分からない。何せ父が何も教えてくれないからね。だけど一度だけ父と叔母、つまり君の母だね。
なんでお前まで関わってしまったんだ。もう全て話してしまってはどうだ。それが出来ないならせめてお前も逃げて──
これを聞いた雪人も、もしかすれば
では何故逃がしたのか──
何から逃がしたのか──
伯父に聞いてもその件に関しては口を噤み、答えは分からない。だが母が
助け出したい。
その後、何度となく母に接触しようとはしたが父と兄がそれを阻み、六年もの時間が過ぎていた。
(だけどなんだってまた急に会ってくれるなんて……。もう一人友人を連れてきてもいいっていうのもそうだし……いい鹿肉を用意しとくって上機嫌だったのも訳が分からない……)
そんな没交渉から六年。事態は急に動くこととなった。兄、幸一から連絡が入ったのだ。兄は電話口で「父が雪人に会いたがっている」と言ってきた。もちろん雪人も馬鹿ではない。そんなことがあるはずはないと思ったが、ここで受け入れなければ母の状況は変わらない。
(俺一人だと心細かったけど、鷹臣が来てくれることになって助かったな……)
カサリ。
(……にしても本当にここは気味が──)
カサカサ。
カサリ。
いつの間にか
「はは……、何を怖がってるんだよ俺は……」
恐怖心を紛らわすように雪人が声に出して呟く。が、一度芽生えた恐怖心はなかなか消えてはくれない。それどころかじわりじわりと雪人の心を侵食し、あの言葉が脳裏を
曰く──奥森には鬼女が住む
曰く──奥森では子が消える
曰く──奥森では血が溢れる
曰く──奥森こそ地獄である
──と。
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