第48話 魂の還る場所、レ・ユエ・ユアン
はるか過去。超古代の時代に、とある学者の男が居た。世界では科学技術を主流に文明が発達しており、人類は最盛期を迎えていた。そして、国と国、部族、宗教といった様々な間柄で、争いは常に絶えなかった。
先進国の片隅で生まれた、とある学者の男は、友人達と小さな研究所を営んでいた。彼らは〝リウ〟と呼ばれる力を利用した、動力開発に関する研究を行っていた。〝リウ〟は、生き物の〈魂〉が持つ莫大な動力(エネルギー)をもとに、あらゆる文明機器に活用されている力だ。
リウは、数百年前に生物の死に伴って〈魂〉が身体から離れ、還っていく
もちろん、〈魂〉を動力源として使用する事自体に、当初は反発もあった。だが、一つの〈魂〉が持つ動力量が他と比較にならないほど巨大で、数千年単位で使用可能である点。またレ・ユエ・ユアンにある〈魂〉を使用しても、当時の生物の出生数や個体形成には影響が無かった事。リウには毒性も副産物もなく環境的にも影響がない事などから、徐々に浸透していった。
そして今日では、リウを利用した自動走行の空中移動車両、三次元映像(ホログラム)衣服や、住居製品などが盛んに製造されている。医療や芸術方面まで波及し、人の寿命は数百年を超えた。〝リウ〟による無から有を生み出す技術は魔術とも呼ばれて、戦争兵器にも使用された。
研究所はある時、リウを利用して雨雲を発生させるという、ささやかな農耕装置を開発した。水不足に苦しむ地方に向け、手助けになればという思いは、そこそこの売り上げと使用した小数人からの感謝に繋がった。当人たちはそれで充分、満足だった。だが天候を左右する発明があったことを、どこからか本国の軍部が聞きつけ、研究所に押し入った。軍人たちは研究所の仲間を人質にとり、流用して兵器使用できる形にしろと命令したのだ。研究者の男と、僅かに残された仲間は、苦しみながらも兵器を開発した。
〝雨〟が早速戦場で使用されると、これまでの戦争の趨勢をひっくり返すほどの、絶大な効果を生んだ。飛行機も爆撃機も全てを溶かし去ってしまう天候兵器。研究所が造った兵器から、軍部によって更に改造を加えられていた。敵国に多大な被害を及ぼした事から、他国でも開発され、戦争に使用されるようになる。しだいに〝雨〟に手を付けられなくなり、世界中に広がってしまう事態となった。人々はこれまでの技術を総動員して何とか対策を図りながら、赤い〝雨〟に溶かされる恐怖に怯えて暮らした。
学者の男は、自らが創り出してしまった〝雨〟の罪を償うため、仲間たちと共に模索した。この兵器から逃れて再び安心して暮らすにはどうすればいいのか。彼らはついにその方法を発見した。天候兵器内で毒素を発生させているリウに、反対の性質を持たせたリウを接触し、毒素を消滅させるというものだ。この技術はすぐに普及し、〝雨〟そのものの排除には至らずとも、危険性は消えた。兵器によって脅かされていた人々を救った学者の男は、英雄として称えられた。
死をもたらす〝雨〟から人々を救った英雄の名が知られるようになり、赤い〝雨〟が降る光景が当たり前になった頃、世界にある異変が起きるようになる。新しい生命の誕生。出産。喜ばしいその瞬間、生まれたばかりの子供の身体が一部分欠損している、という事案が急増したのだ。出産前に胎内の様子を確認しても、その時は欠損など全く見当たらない。まるで生まれた途端に、手や足が誰かにもぎ取られてしまったかのように。
天候兵器の功績から、研究機関の責任者を任されていた学者の男は、調査を始めた。医療や遺伝の原因ではない。答えが行き着いたのは最初にリウが発見された場所。魂の還る
全世界の研究者がこの問題に立ち向かい、解決法を探ったが、それは二〇〇年を経ても見つからなかった。しだいに、一部分の欠損どころか、そもそも新たに命を身ごもる事すらも無くなっていく。この世界の生命は緩やかに、絶滅への道を辿り始めた。
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