第66話
GW。俺は連休を使って再びマッチング病院に向かっていた。
もちろん渡会さんの運転である。
再びというのは、四月に一度受診したのだが、ものすごくシリアスな顔をされたのだ。
俺自身、原作破壊に邁進している自覚があるため、心当たりしかなかった。
もしかすると慎一郎氏に相応しくないとデリート&リセットされるのでは? それこそ、デスなノートのように心不全を食らってしまうのでは?
そんな風に思えてきて、それまで震えて眠っていたのだ。
原因不明の死因はだいたい心不全で処理されると聞いたことがあるのだ。
だが、どうやら死に至る病ではないようでホッとした。
実際、俺の診断書を見た親父殿と母上殿は妹二人を連れて去年からの予定通り家族旅行に行ったのだ。
酷いのである。
いや、酷いのは俺の体型か。
だがしかし、俺も漫然と過ごしてきたわけではない。筋肉量を増やし、代謝を上げて、いつでも痩せれるような身体作りに取り組んできた…はずだったのだ。
BMI値も違うはずなのだ。
そんな事は他の人には伝わらないが、お医者様ならわかるはず…なのだが、どうもメタボリックシンドローム用の治療みたいなものを受けることになってしまった。
デトックス的な何かや運動をさせられるらしいが、アルコールやタバコ依存ではないのだ。
正直バックれようと考えていたのだが、「お医者さまの言うことをしっかりと聞くのよ」と母上殿に言われてしまったため無理である。
しかし、保険適用はBMI値が35からだったと思うが…お高いのではないだろうか。
子供なら大丈夫なのだろうか。
まあ、旅行代と思うことにしようか。
しかし、泊まり込みでの治療らしく、そんな事あるのだろうかと少し不安になる。
そもそも病院に泊まるなど物凄くイヤなのだ。
しかもここは元々廃病院だったらしいのだ。最近リニューアルしたらしいが、公金でも引っ張ってきたのか、院内は割と綺麗だ。
もしかすると天華のところのお爺ちゃんだろうか。
できる政治家なんだろうな。
受付で名前を告げ、待ってる間、ロビーをぐるりと伺ってみる。
爺様や婆様が和気藹々と話してるのはほっこりするのである。
政治家の仕事は公的なところを潰すことじゃないし、寧ろ増やすことが肝心だ。その為に中央に送り込んで金を引っ張って来させるのだ。
その為に選んでいるのだ。
例え全国的に蛇蝎の如く嫌われてても、当選する奴はそれに長けているのだ。
まあ、選挙とはぶっちゃけ市中への未来のお金の支出額を決めている奴を選んでる、と知れば、若者も行くと思うのだが、「良くする」とか「未来に」とか、建前と言うのはいつの時代も厄介である。
それはともかく、お歴々の服装だ。優しい壁色に似合わない黒服はやめて欲しい。いくら漫画世界とはいえ、病院で不吉すぎるし縁起が悪すぎるじゃないか。
スクリーントーンは別として、白黒漫画では限界があるのかもしれないが。
「……」
目につく傷んだ床の大きな傷、そして鼻につく病院特有の薬品の匂い。ふと思い出すのは先月の保健室での出来事である。
ラレラとラレオのマッチング、いや原作における強制力である。
神田の変化に安堵していた自分が情け無い。
表向き平和に見えていたこの日常は、罠であり釣りだったのだ。
邪神の笑顔が思い浮かぶ。
NTRの肝は感情の落差なのだ。ほのぼのとした幸せな日常からの180°反転──焦燥や混乱、苦悩、裏切り、恐怖、そして喪失。
それらの感情の揺さぶりこそが寝取られの醍醐味なのだ。
強いラレオなど、邪神は描かないのだ。
くそぉッ! その後のラレオが見たいっていうのに!
違った。
くそっ! あれだけ頑張っても手に出来たのはこのメタボ判定だけとはな…。
所詮は創造主の手のひらと言うことか。
このままなら大丈夫だと思っていたのだが、やはりそうはならないのだ。
これは長年温めていた計画を、予定通り実行せねばなるまい。
それにはまずはここをデブのまま乗り切らねばならない。
補給経路は確保している。渡会さんだ。ちょっと早いウーバー的なお願いをしているのだ。
それにしても泊まるとかマジ最悪である。
◆
『……』
『……』
名前を呼ばれ、診察室に案内されたのだが、先程から先生は黙ったままだった。
いや、先生なのかもわからない。
前回は男の先生だったのだが、今回は違う。違うと思う。
そんな事はあり得ないだろうが、変なのだ。
なぜならカーテンで隔てられていて、太ももの半ばくらいから下の足しか相手は出ていないのだ。
しかも生足である。つるりとした真っ白な膝に赤身が差していて眩しいのである。
脚だけで判断はできないが、察するに随分と若い女医だ。膝に年齢が出るのがこの世界でもデフォなのだとするなら、だが。
流石にご開帳してはいないが、こちらが産婦人科の先生といったポジション具合に驚愕する。
いくらエロ漫画世界と言えど、なかなか無茶な導入だと思うのだが、聞くのも変だろうからと黙っている。
いや、一応聞いておこう。
『あの…』
『ごめんなさいね。これは風邪で仕方なくよ』
先に言われたのである。風邪かぁ…。確かに変なボイスなのはわかるが、カーテンデカすぎである。
『えっと』
『そ、それじゃあ検尿してもらおう…かしら』
『さっきしましたけど…』
『全然足らないのよ』
絶対嘘である。ではあの紙コップの、内側のラインはいったい何だと言うのだ。
おそらく溢したのだろうが、ミスならミスで言って欲しい。俺は命に関わらない限り医療ミスには寛容なのだ。そもそも病院に入った時点で相手のテリトリーなのだ。まな板の鯉なのだ。
足掻いても無駄である。
文句を言うのは家族に任せるのだ。
しかし、困ったな。前回もそうだったが、そんなにオシッコは出ないのである。
『ではその水を飲んでください』
『わかりました』
俺の横にある銀色の三段ワゴンには紙コップがあった。変な色の飲料水を最初から用意されていたのだ。
怪しいったらない。
だが俺はわかっている。
思えば遠回りしてきたものだ。周りはネトラレラとラレオばかり。唯一ラッキースケベが起こるのは危ない橋の家族のみ。
だが、その家族も隣のDV系ネトラレラもいない。
そして目の前には産婦人科が如く仕切られたカーテン。
そして変な色の水。
そして俺に未だ訪れていない男の子の日。
これで何もなかったら詐欺である。
つまり、めくるめくエロ展開を俺は期待している。してしまっている。
ナースはあまり得意ではないが、この際気にしない。
世界が推してやまないジャパニーズAVドラマの無限の可能性を信じているし、相手が大人なら別に大丈夫だ。
むしろ歓迎する。
全力で高校生を演じてみせるつもりだ。
さあ、行かん、夢の桃源郷へ。
祝福のネトラレラ 墨色 @Barmoral
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