第6話 執着

 14時15分頃。わたしたちはヘリが着陸する予定の小丘の近くにいた。

 地平線の向こうに閃光が見えた。嫌な予感がして、カメラの画像を拡大する。

 サラマンダーと宇宙圏の強化服歩兵パワードインファントリーが交戦していた。強化服歩兵パワードインファントリーは2騎。ルーク少尉を置き去りにした部隊だろう。


「僚機です!フラナガン大尉とユン少尉の強化服歩兵パワードインファントリーです」


 ルーク少尉は声を弾ませた。仲間が無事だったことを素直に喜んでいる様子だ。

 いや、見捨てられたことを恨んでないのか?


「逃げろ!」


 珍しく、朝耶ともかが大声をあげる。滅多なことで感情を表に出さない朝耶が慌てる事態、それは最悪の状況だった。

 普通、サラマンダーの外装甲はアンバーホワイトか薄いグレー。しかし、このサラマンダーのそれはライムグリーンになっている。

 化獣は、活動を活発化する時には太陽光の吸収効率を上げるため、外装甲の色合いを変える。緑系の色はかなり高稼動な時に限られる。

 宇宙圏の強化服歩兵パワードインファントリーは、サラマンダーを本気で怒らせてしまったようだ。



「援護したいです。私に、あの強化服パワードスーツを使わせて下さい!」


 あの強化服パワードスーツは、わたし専用にカスタマイズされてる。それでなくとも他人用に調整された強化服パワードスーツを、それ以外の者が動かせないのは常識だ。ルーク少尉の馬鹿さ加減にいらついてしまう。


「何とかサラマンダーの動きを止めてくるわ」


 朝耶に伝えて、後部の格納庫へ移動する。


「私が行きます。強化服パワードスーツを貸して下さい!」


 わたしの強化服パワードスーツの前に立ち塞がるルーク少尉。その胸ぐらを掴んで力尽くでどかせた。想像以上のわたしの腕力に目を白黒させているが、説明とか説得とかする気持ちの余裕はない。



 サラマンダーと2騎の強化服歩兵パワードインファントリーが交戦してる場所から、600メートル程度距離を取って戦闘を観察する。

 今回は、朝のようにサラマンダーの前に出て注意を引くようなマネはできない。外装甲を緑系にしている化獣は、運動能力も10~20パーセント上げている。前に出た途端に、踏み潰されるかも知れない。

 サラマンダーの背中の外装甲の一部が砕けて、そこから発光する粒子が流れて出ていた。

 化獣は、他の生物のように血液やリンパ液を循環させてエネルギーを身体各部に運搬しているわけじゃない。もっと直接的に過電粒子を循環させているらしい。

 組織を破壊されると行き場を失った過電粒子が、熱を光に変えながら大気に吸収される。

 発光する粒子は化獣が血を流しているのと同じ。このサラマンダーは手負いの状態だ。


「宇宙圏の開発した高出力レーザー砲が、効果があったのかしら?」


 しかし、2騎の強化服歩兵パワードインファントリーはレーザー砲を撃つ様子はない。左右に展開してサラマンダーを挟撃する位置を確保しながらレーザー剣でチマチマと攻撃しているだけ。当然、そんな攻撃が外装甲を貫けるはずもない。


「もしかして、レーザー砲のエネルギーを使い切っちゃったの?」


 その可能性は高そうだ。それなら、レーザー砲をさっさと捨てて身軽になればいいと思うが、新兵器だから回収も命令されてるんだろうか。



 どうやって、サラマンダーの動きを止める?

 化獣にも急所と言える部分はある。肋骨に守られた、胸郭上部付近にコアのような器官があって、何らかのエネルギー変換を行い、過電粒子を全身に送り出しているらしい。

 この、コアのような器官に打撃を与えれば動きを止められる可能性はある。

 右手に超高速で振動する高周波ブレード、左手には携帯式のロケット砲を持つ。

 義手と義足へは最大出力で電力を供給する。この状態だと補助バッテリーは15分くらいでエンプティーだろう。


「さて、行きますか」


 何でこんなコトやってるのかと疑問が脳裏をよぎる。宇宙圏の住民たちは嫌いだ。その先遣部隊のような機構が、勝手に化獣にちょっかいを出しただけ。勝手に戦死するも野垂れ死にするも、わたしたちには責任はない。


「ちぃ」


 思わず舌打ち。

 人間であろうとする「こだわり」だと思う。わたしの身体は、半分くらいは化獣の組織から造られてる。そのこだわりを捨てたら、自分が化獣と区別できなくなりそうな気がする。

 多分、それだけだ。

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