第5話 祟り神

 ルーク少尉にN501ポイントに関して確認する。大型ヘリが着陸できる平らな小丘、周囲からの視認性も高いから集合地点として最適。


「それまでアナタの部隊が化獣を刺激してないことを祈るわ」


「はい」


 ルーク少尉は申し訳なさそうに頷いた。ご自慢の新兵器が駄目だった自覚はあるようだ。


「僚友をあっさり見捨てるなんて、どう言う部隊なの?」


「私は・・・ダヴィンチ・コロニー出身ですから・・・」


 わたしたちは『宇宙圏の連中』と一纏めで呼んでいるが、その内部では暗黙の階級が根付いているらしい。古くから存在したコロニーは他天体の資源を独占して裕福になり、そうでない新設コロニーは貧困を抱える。

 ルーク少尉の出身地ダヴィンチは30年前から移住が始まった新しいコロニーで、まだ経済的な基盤がなく他コロニーから支援がないと成り立たない。


「コロニー連合の軍人は、安定した公務員ですから。志願者も多いんです」


 次々と入隊者がいるから、新設コロニーの新兵は消耗品扱い。それでも軍人が安定した公務員・・・今日、何度目かのため息をつく。



「でも・・・こうして、お二人と出会えて、私は良かったと思ってます」


 それはそうだ。あのまま捨て置かれていれば確実に死んでただろう。


「だって、地表にも戦ってる人たちがいるのがわかったんですから!」


「はあ?」


 思わず、間抜けな声をあげてしまった。ルーク少尉は何か興奮しているようだけど、何が嬉しいのかわからない。


「化獣を駆逐して、母星を人類の手に取り戻すために戦う。所属する組織は違っても、同じ目標をのために命を賭けて戦う同士がいたんですから!こんなに力強いことはありません」


 馬鹿馬鹿しい。多分、今日一番大きなため息をついたと思う。

 もしも、3体くらいの化獣が同時に都市国家ポリスを襲ったら、一日でその都市国家ポリスは灰燼に帰すだろう。対して、宇宙圏が化獣の襲撃は受ける可能性はまずない。

 宇宙圏の連中は、化獣を『害獣』に見立てて退治したいのだろうが、わたしたちに取っては化獣とは『祟り神』だ。なだめすかして災厄を遠ざけるしかない。

 安全圏から「取り戻す」なんてキレイ事とはワケが違う。


「気持ち悪いから、勝手に同士にしないで」


 思わず、否定の言葉を吐き捨てた。


「え・・・何故ですか?宇宙圏と地表圏が協力すれば、必ず・・・」


「じゃあ、化獣を駆逐できたとして、その後どうなるの?」


「え?宇宙圏と地表圏が、また一つになって・・・」


「ふーん」


 わたしはルーク少尉の話を聞くのを止めた。



 N501へ向かって装甲車を走らせている。ハンドルを握っているのは、わたし。朝耶ともかは助手席に座って、ルーク少尉は後部の荷物の隙間に腰を下ろしてる。

 ルーク少尉の足の火傷は応急処置をしたが、自力で歩かせるのはキツそうだ。


「お二人の名前は・・・?」


 わたしも朝耶も返事をしない。


「あの・・・お二人は、恋人同士なんですか?」


 ルーク少尉には、わたしの四肢が朝耶の造ったモノであるなど一切教えてない。

 彼の目には、いきなり朝耶がわたしを脱がせて、それにわたしが応じたように見えたかも知れない。すぐに後ろ向いたから、左腕にコードを繋いだ作業も知らないはず。

 それはそれで面白いから否定しないでおこう。朝耶が、わたしの身体を隅々までよく知ってる男性なのは事実だし。


「せめて、偽名でも・・・」


 無視。

 しばしルーク少尉も沈黙する。しかし、結局口を開くのはルーク少尉だ。


「本部に戻ったら、お二人に救助されたことを報告します。宇宙圏と地表圏で協力するよう、必ず上部を説得します。その時には、一緒に戦って下さい」


 ルーク少尉が頭を下げたのは、バックミラーでわかった。

 わたしも朝耶も返事をしなかった。

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