第4話 リベルタン

「あの、お二人の名前と所属は?」


 わたしも朝耶ともかも返事をしない。


「さっきから、私ばかりが質問されて・・・尋問を受けてるみたいじゃないですか?」


 尋問してたんだけどね。


「それにしても、この強化服パワードスーツはすごい運動性ですね。あの化獣のプラズマ火球を難無く躱せるなんて、宇宙圏の強化服パワードスーツより高性能なんですね」


 ルーク少尉が、わたしの強化服をなめ回すように見ている。触るな!と注意してあるから、手を伸ばそうとはしない。素直な青年だ。



 真実を言えば、強化服パワードスーツの性能が高いのではない。装着する、わたしのポテンシャルが引き上げられているのだ。

 2年前、わたしは手足を失う事態に直面した。今の手足は人造のモノ。そして、この手足を造ったのが朝耶である。

 化獣の外装甲や内骨格を構成する水晶質の物質は、人体の神経組織と相性が良いらしい。化獣の内骨格を流用すれば、人体の神経線維の電気信号で反応する義手や義足が造れるはず・・・朝耶は、それを実現させた。

 朝耶の造った義手と義足はパーフェクトと言えるかも知れない。失う前の自分の手足と何ら違和感なく動いている。手足を稼動させる電流を増加すれば、出力や反応速度も上がる。重量のある火器を使えるし、運動性・機動性も高くなる。

 わたしの強化服パワードスーツが他と違う点は、義手と義足に電力を供給する補助バッテリーが付加されていることだけ。



 時刻が正午に近くなった頃、食事のために装甲車を停めた。

 ルーク少尉も入れた3人で、車の外に出た。レトルトのカレーを食べた後、缶コーヒーを開ける。


「あ・・・」


 タブを開けた後、缶が手から落ちた。左手が痺れてる。

 造り物である以上、定期的なメンテナンスは必須。特に強化服パワードスーツを装着して負荷をかけた後は調整が必要だ。わたしは朝耶をちらりと見る。

 朝耶は、装甲車後部からトランクを持ってきた。トランクを開くと謎の機械やコードが入っている。

 朝耶が、わたしの軍服の胸元からファスナーを下ろして肩からはだけさせる。肩から胸や乳房、上腕部が露わになった。


「し、失礼します!」


 ルーク少尉が慌てて後ろ向いて、わたしを見ないように装甲車に閉じこもった。


「くくく・・・意外と純情だね」


 わたしはルーク少尉の反応を面白がったが、朝耶は無反応で数本のコードを引き出している。

 義手の表面はコラーゲンスポンジの人工皮膚になっており見た目は人体の腕と変わらない。上腕部の外側に3つの小さな水晶が埋め込まれている以外は。

 3つの水晶の側には小さなコネクタがあり、そこにトランクの機械から伸びるコードが接続された。5分ほどビリビリとする感覚が続き、それが消える。


「大丈夫、痺れはとれたわ」


 左腕のコードを抜かれてから、軍服を整える。



「15時にN501か。かなりの回り道になるから、急いで帰っても都市国家ポリスに着くのは明け方ギリギリね」


「ここで降ろせば、予定通りに戻れるだろう」


「ルーク少尉に、徒歩でN501は無理でしょ?足の火傷もあるし」


「味方に捨て置かれた兵士だろう。野垂れ死にしても誰も咎めないさ」


「わたしが咎めます!」


 わたしの上官は、朝耶を『神に最も近いリベルタン』と呼んでいる。リベルタンは、不信仰な放蕩者と言う意味らしい。

 ルーク少尉を捨てて行こう、と言うのはきっと本気だ。

 神に近いなら、それなりの慈悲を示せないのだろうか?

 失われた人体を再生できるのは、神の技に違いない。でも、それだけならせいぜい『神のマネをする猿』だ。

 いや、猿でも尊敬はしてるけどさ。

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