第7話 連携

 2騎の強化服歩兵パワードインファントリーは、左右からサラマンダーを挟み込むことで正面にしか撃てないプラズマ火球の攻撃を受けないように戦っていた。

 どちらが上官の機体か、正直わからない。無線での連絡が取れないので、左右から挟撃すると言う最低限のフォーメーションを維持するのが精一杯なのだろう。

 ベテランらしく動きに無駄のない方の機体に近づいて、声をかける。


「助太刀、いる?」


 わたしの方を見て、左手でサインを作った。しかし、宇宙圏の軍隊のサインはわからない。


「協力に感謝する。何をすればいい?」


 サインが通じないと判断して、すぐにスピーカーに切り替えて声で対応してきた。

 自分たちの戦力でサラマンダー相手には、どうしようもない自覚はあるのか?

 それなら最初から手を出さなければいいものを・・・と言いたかったが、それは飲み込んだ。


「正面、胸部を狙いたいの。できるだけサラマンダーの首を、左右に大きく振らせて!」


 サラマンダーと正面で睨み合ったら、左右の肩口からプラズマ火球を撃ち込まれる。緑系になって連射速度が上がっていたら、わたしでも躱せない。

 サラマンダーによそ見をしてもらって、隙を突いて胸元へ飛び込む。


「了解した。自分は機構派遣軍第1分隊マクスウェル・フラナガン大尉である」


「生憎、名乗る名前はないの」


 フラナガン大尉はレーザー剣で、サラマンダーの背中を攻撃しながら反対側の強化服歩兵パワードインファントリーにハンドサインを送る。

 わたしは戦闘地点から少し距離を取って、サラマンダーの隙を伺うことにする。



 このサラマンダーは、朝方に戦ったのと同じ固体だ。もしかしたら、半日の間、宇宙圏の強化服歩兵パワードインファントリーにストーキングされていたのか?

 それなら同情する。わたしだってルーク少尉との会話で随分疲れさせられたし。



 フラナガン大尉は、なかなかの戦闘上手のようだ。

 レーザー剣では水晶質の外装甲には効果を上げられない。外装甲と外装甲の隙間にレーザーの刃をあて、その下にある化獣の素体組織をレーザーで焼く。致命の一撃は与えられない分、数を稼がないとならないのだが・・・。

 バーニアの制御が巧みで、お手本のようなヒットアンドアフェイ攻撃を実践している。

 もう一人はユン少尉だっけ?ルーク少尉と同じレベルの新兵だろう。動きもぎこちないが、化獣を怖がって距離を詰められないでいる。近接戦用のレーザー剣が何の役にも立っていない。

 フラナガン大尉の反対側で、チョコマカ動いて気を引くだけの仕事のようだ。



 高出力レーザー砲は充電切れ、弾薬ストックは使い切ってしまったのは確実だな。

 レーザー剣だけは、強化服パワードスーツのソーラーシステムでエネルギー供給されているから使用できている・・・そんなところだろう。


「こんな装備で、少数だけの部隊を地表に降ろすなんて・・・」


 ああ、そうか。新開発された兵器の実戦テストだったんだっけ。

 新兵器が想定通りの性能を発揮していたら、サラマンダーを倒せていたかも知れない。もし駄目なら・・・部隊丸ごと捨て駒にするつもりだったのかも。



 サラマンダーは、ユン少尉よりもフラナガン大尉を主敵と捉え始めた。チョコマカしているだけで囮役を果たせなくなったユン少尉が、何とか役割を示そうと必死の覚悟でサラマンダーに近づく。

 鈍いフットワークの強化服歩兵パワードインファントリーを、格好のターゲットと判断したのか、サラマンダーはユン少尉の機体へ頭部を回転させる。

 サラマンダーが肩のプラズマ照射器官をユン少尉へ向けるより一瞬早く、強化服パワードスーツのバーニア全開で、わたしはサラマンダーの胸部正面に飛び込めた。

 胸部中央の鎖骨部分よりやや下・・・人間で言うなら胸骨角きょうこつかくのあたりだろうか。左手に持ったロケット砲を、そこに向けて装弾数3発、全弾撃ち込んだ。

 至近距離で炸裂するロケット弾の爆風で、強化服パワードスーツの左椀部が破損。バイザーに警告メッセージが表示されたのは無視!

 ロケット弾の爆風に押し戻された機体を、もう一度バーニア全開で胸部中央へ向かわせる。

 ロケット弾の炸裂で、サラマンダーの胸部中央に穴が空いて水晶質の内骨格が見えている。その肋骨の隙間めがけて、右手で高周波ブレードを突き立てた。

 視界が白い光に包まれて、背中に痛烈な衝撃。背中の痛みで声が出ないが、通常に戻った視界の中でサラマンダーが崩れ落ちるのが見えた。

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