第3話 冒険者ギルド
カーポートの町は比較的大きい町だ。と、言っても地方都市と呼べる程ではない。前世で言うと、田舎の村人が、今日は街に買い物行く。と、言って、やや大きめのショッピングモール何かがある感じの規模。まあ、便利な地方の町だ。
そんな町の冒険者ギルドに、村で作った海産物の加工品を卸している。
冒険者ギルドに何故、加工食料を卸しているかと言うと、基本的に冒険者ギルドが、町の酒場を仕切っている。なので、個別に卸すよりかは手っ取り早く、現金化もスムーズだ。
確かに個別対応をすれば、儲けはやや上がる。但し、卸したと同時に必ず現金化が出来る保証ない。
所謂、掛け販売だ。月末締めの〇日払いという感じに纏めて現金化される事が多い。
そうすると村に持ち帰る現金の額が多くなり、盗賊の美味しい仕事場になってしまう。なので、多少儲けは減っても安全マージンを取って都度都度、現金化の方がいい。面倒事はなるべく避けたい。
私はギルドの前に荷車を停め、ギルドの扉を開く。
時間は昼を少し過ぎた頃だ。
カラン、カラン。
扉に取り付けて有る、ベルがなる。
ギルド内に居た冒険者達が、一瞬鋭い視線をこちらに向ける。入って来たのが、顔なじみの私だと分かると、直ぐに視線を戻す。
この時間にギルドいる冒険者はまばらだ。
大体の冒険者は、まだ、依頼の最中だ。なので、此処にいる冒険者達は、今日は依頼を受けず、昼間から飲んだくれている者か、受けた依頼を速攻片付けて飲んだくれている者。もしくは朝一の依頼を取りっぱぐれて、微妙な依頼を受けるか受けないか悩んで飲んだくれている者。まあ、基本的に飲んだくれている者しか居ない。
よし、平常運転だ。それを確認し、納品受付に向かう。
「マリベルさん、今日の品物を持ってきました」
ギルド職員のマリベルさんに声をかける。
「あ、エリカちゃん。今日もご苦労さま」
やや、老け顔だが、目鼻立ちがくっきりしていて、整った顔しているマリベルさんが、じっと私を見つめながら、
「あー、今日も可愛いらしい。可愛らしいから、お姉さん、チューしてもいい?」
「カラかわないで下さい。はい、今日の納品リストです」
「えー、お姉さん、カラかってなんかないわ。本気よ、ホ・ン・キ」
そう言いながら、自分の的私の手に絡めてくる。
いつも通りのややネットリした対応には、何時も言葉を返す事にする。
「マリベルさん、お姉さん、お姉さんって言ってるけど、身体はお兄さんでしょ」
マリベルさんは、見た目と中身は完全に女性だが、身体は間違い無く男だ。そして、重度の男好だ。
よく、マリベルさんの見た目に騙された流れの冒険者が、悲鳴を上げながら、宿屋から飛び出してくる。
なので、百合的思考は持ち合わせておらず、私にキスすると言っているのは冗談の範疇だ。
「もう、そんな冷たい事言わないで。確かに付いているけど、身も心もお姉さんなのよ」
「身は違うでしょ。そんな事より買い取りお願いします。今日は量が多いんですから」
「はーい、分かりましたー」
そう言うと、マリベルさんは、停めてある荷車に向かい、納品リストと品物のチェックを始めた。
「それじゃあ、あとお願いします」
私はマリベルさんに声をかけ、空いている席に腰掛ける。
「すいませーん」
私の呼び声に、厨房から見知った顔でてくる。
「エリカなのにゃ、いらっしゃいなのにゃ」
なのにゃ……。このとある層に深く刺さりそうな語尾の少女はエルザ。ギルドに併設してある酒場でウェイトレスをしている、猫耳獣人だ。
因みに語尾は種族的特徴だそうだ。
本当か? エルザ以外の猫耳獣人にあった事がないので真意はわからない。
別にこの世界に極端に獣人が少ないと言うわけじゃないけど、こちらの地方では珍しい。基本的に獣人は寒さを嫌う。なので、冬のあるこの地域より、南の温暖な地域で暮らしている事が多い。
もちろん、王都には、冬が有ろうと、それなりの数の獣人が住んでいるだが、地方の都市にも満たない町に好き好んで住む獣人は滅多にいない。
昔、エルザに直接聞いた事があったが、意味有りげな表情をして、秘密にゃ。と、言われた。
まあ、リンカの事だし、大した理由ではないだろう。無論、異世界あるあるで、奴隷の獣人という事はない。
この国には一応奴隷制度はある。しかし、だからと言って獣人奴隷が多いというわけではない。
奴隷は人だろうが、獣人だろうが、一定数いる。奴隷になる理由は様々だが、理不尽な奴隷狩りはあまりない。それなりに理由があり、奴隷に身をやつしている。
「やあ、エルザ。注文いいかな?」
「了解にゃ、なんにするにゃ?」
「じゃあ、岩イノシシの香草焼きと、きのこと菜っ葉のサラダ、あと、エールをもらおうかな」
「エールを注文するという事は、明日は仕事休みかにゃ?」
「そう。明日は休み」
私は次の日が休みの時は、ギルトで食事をする際に酒を飲む。前世でも酒は好きだったし、今世でも適度に嗜んでいる。
この国では、飲酒は二十歳になってから。と、法律はない。大体、仕事に就き始める頃には、皆、飲んでいる。
「そうなのにゃ。じゃあ、ゆっくり飲んでゆくといいにゃ。注文はすぐに用意するにゃ」
「よろしくね」
エルザはいそいそと厨房に戻り、私の注文を通し、そのまま、エールの準備を始めた。
「エリカちゃん、清算終わったわ」
マリベルさんが、納品物の清算を終え、こちらにやってきた。
「はい、今日の取引の代金。小金貨4枚と銀貨5枚」
「ありがとう、ございます。マリベルさん」
いつも売り上げの約1.5倍。まずまずだろう。カルトンの上に置かれた、代金を
さっと数え、間違いがない事を確認し、革袋にしまう。
「今日は、このまま帰るの?」
「いえ、明日休みなので、少し飲んでから帰ろうかと」
「あら、羨ましい。私も早く仕事を終えて、一杯飲みたいわ」
そう言うと、マリベルさんは、受付に戻って行った。
「お待ちどうにゃ。まずエールにゃ」
マリベルさんと入れ替わりに、エルザがエールを持ってやってきた。
「ありがとう、エルザ」
「料理はも少しかかるにゃ。それまで、これでもつまんでおくにゃ」
エルザは所謂、お通し的なナッツをテーブルに置いた。
「じゃあ、もう少し待ってるにゃ」
厨房に戻るエルザを後目に、エールを一口飲む。
前世のようにキンキンに冷えてはいないが、苦みとコクが効いて、それなりに旨い。
つまみのナッツも塩気が効いていて、エールが進む。
あっと言う間に一杯を飲み終え、追加注文をしようとした時—―――
「俺がクビってどう言う事だ!!」
ギルド内に怒鳴り声が響いた。
前世を大往生した爺さんは、村娘に転生した。 ゴロウマル @tamakichi08
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