第2話 街道
近隣の町までは、川沿いの道をひたすら進めば到着する。流石に現代日本の様にアスファルトで舗装はされていないが、村から町へと続く唯一の街道なのそれなりに整っている。
ちなみに、この世界には魔物と呼ばれる生物はいるけど、ここいらにいる魔物はそうそう人里の近くに現れない。基本的に深い森や険しい山の中を根城にしていて、そこで食料などを得て暮らしている。つまり、態々人の居る所に来なくても食うに困らない。だから来る必要がないのだ。
まあ、頻繁に魔物が出るのような場所では村や町は発展しない。つまり、現在、村や町がある場所は、長い月日を経て発展してきた場所となるので、魔物による被害は少ない。絶対に無いとは言えないが、町へ商品を運搬する際に護衛を連れて歩かなければならないなんて事は無い。
魔物以外では盗賊の被害も考えられるが、運んでるものは町へ卸す海産物。こんな荷を襲い奪っても、たいした儲けにならない。生魚にしてみれば直ぐに売り捌がなければ腐る。奪った魚を売る所はこの近くでは、村が魚を卸ている町しかない。当然、町の人間も村人ではない、見ず知らずの人間の持ってきた魚は買わない。町に魚を卸す事が可能なのは、位置的に考えてもうちの村だけなので、簡単に足が付く。
卸したあとの代金を強奪すると言うのも考えられるが、一回の取引で動く金の額は大した事は無い。その大した額でない金を奪った事で、町や村から盗賊刈りを派遣されるのは、割に合わない。彼らも、それを生業にして生活をしているからコスパの悪い事はなるべくしない。
そんなこんなで村から町に行く街道は比較的に安全なのだ。まあ、とは言え、少女一人が荷車を引いて、町まで商品を卸しに行くと言うのは、私位しかしない。これも丈夫だから出来る事だ。
村を出て、町まであと半分といったところで、暫し休息をとっていると、町の方から、一台の馬車が破ってきて、私の側で停まった。
「おー、エリカの嬢ちゃんじゃないか」
「あ、ロベルトさん」
御者台から声をかけてきたのは、行商人のロベルトさん。ガタイが良く商人と言うより、どこか傭兵の様な彼は三月に一度のペースで村に塩を買い付けにやってくる。
「今から町かい?」
「はい。ロベルトさんは村に行くんですよね?でも今回は少し来るのが早くありませんか?」
何時ものペースより、一月ほど早い村への訪問。こういう時の彼は何か儲けの気配を感じている時が多い。
「ああ、ちょと王都での塩の需要が高まりそうでね、早めに買い付けておこうかと思ってな」
「へー、そうなんですか。もしかしてあれですか?王都での近くで魔物の大量発生でも起こりそうなんですか?」
魔物の大量発生。と、言ってもあちらこちらから、魔物が湧いて出るなんてことは無く、普段いる生息地から、何らかの原因で移動してくる事を言う。この移動して来た魔物がキャパシティを越えると、人間の生活圏迄押し寄せてくる事がある。所謂、スタンピードと言うやつだ。だから、そうなる前に適切に間引いて安全を確保する必要がある。
「嬢ちゃんは、相変わらず鋭いな」
間引いた魔物は様々な素材になる。それこそ肉なんかも食用になる。なので、大量に魔物の肉を得られる時は腐らせない様に塩漬けにして保存をする。
王都で塩の需要が高まっているという事は、近々、大量に魔物の肉を確保する機会があるという可能性が高い。
「単なる、消去法ですよ。色々な可能性を考えて、一番合理的なものを残しただけです」
「いやいや、色々な可能性を考えて答えを導き出すだけでも凄い事だよ。只の村娘では中々出来ない。どうだい?俺と一緒行商に出ないかい?嬢ちゃんなら一端の商人になれるぞ」
ロベルトさんは、ちょくちょく私に商人にならないか? と、誘ってくる。単なる社交辞令では無く、結構本気で。
「褒めてくれるのは有り難いですけど、今のところ商人になる気はありませんよ」
商売は前世で散々やったので、今世では別の生き方をしようと思っている。今のところは。
「つれないな〜。でも、俺は諦めないぜ。いつか嬢ちゃんと一緒に行商の旅に出る!」
「はい、はい、気が向いたら考えます」
んー……。この話題が出ると若干思うのだけど、ロベルトさんは私にやや惚れてるんじゃないかと?
年の差で言えば13歳。この世界では15歳で結婚するのもおかしくは無いし、そういった意味で歳の差も余り関係がない。
因みに、今世での私の性自認は女性だ。10歳迄、前世の記憶が無く育ち、記憶を取り戻した時も、前世の人格に書き換えられたと言うわけじゃない。
前世と今世の人格と記憶が上手いこと混ざり合い、新しい人格になったと言う程でないけど、色々と辻褄が合う様になっている。
なので、身体と性自認の不一致は無い。但し、恋愛対象が男性か? と、言うと今のところ分からない。
何故なら、私は今世で未だ恋愛感情を持った事がないから。これが、人格のブレンドによって引き起こされた事なのか、たまたまそういう事に疎い性格なのかはわからないが、今の所、自分の性的嗜好は不明だ。まあ、対して困らないから問題では無いのだが。
「ところで嬢ちゃんは、今日は村に戻るのかい?」
「ええ、基本的にそのつもりですけど」
「なら、今夜も勝負だ」
ロベルトさんは、腕をぐっと曲げ、力こぶを見せてくる。
「別にいいですけど、勝てませんよ、私には」
ロベルトさんは、村に来るたび、私に腕相撲勝負を挑んでくる。勿論、私の全勝だ。
「男には引くに引けない戦いがあるんだよ」
「まあ、いいでけど。それじゃ、私、そろそろ行きますね」
立ち上がり、荷車を掴む。
「おう、道中気を付けてな」
「ロベルトさんも」
月並みな挨拶を交わし、私とロベルトさんはそれぞれの目的地に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます