前世を大往生した爺さんは、村娘に転生した。
ゴロウマル
第1話 村娘
異世界人転生。もうだいぶお腹いっぱいのテーマになりつつあるけど、まだ、まだ、人気のあるジャンルだ。皆、一度は夢に思う。ここではない何処かへ、転生特典なんか貰って、俺TUEEEとか、前世の知識を使って文明発展とか、ハーレムとか……。
そんな、妄想を垂れ流し、結局そんな摩訶不思議な事は起きず、淡々と現世を送ってゆく。まあ、人生そんなものだ。もちろん私自身もそんな妄想を一度も思った事は無い! とは、言わないが、基本的にまずまずのいい人生を送ってきたので、この世界に生まれ、そして死んでゆく事に後悔はない。享年96歳、大きな病気も無く、家庭にも仕事にも恵まれ、満足の行く人生だった。正直、人生に後悔は無い。
大勢の家族と友人に見守られながら、私の、永野遼一の人生は幕を閉じた……。はずだった。
アライム王国の東、海沿いにある小さな村、オベレイト。主な産業は漁業と海産物加工。特に見所のある観光スポットも、重要な街道の中継地という理由でもない、極々、一般的な小さな漁村。その村の漁師、マグリット・エーカーとエリー・エーカの一人娘、エリカ・エーカー15才。これが、今世での私の名前と立場だ。
前世の記憶が戻ったのは5年前の誕生日、別に頭を打ったとか、突然眩暈をもよおしたとかはなく、10才の誕生日の朝、目を覚ましたら、何の前触れなく思い出していた。自分の前世が日本で大往生した、永野遼一という一人の男だという事を。
そして、死後、エリカ・エーカーとして生まれ変わり、10年の月日が過ぎた事も。
あの日から5年。前世の記憶を取り戻した私は、特に変わった事はしなかった。
いち村娘として、平々凡々に過ごしてきた。まあ、それがそうだろう。エリカ・エーカーとして、異世界に生まれ変わったとしも、転生特典してチート能力を貰ったわけない。特別な能力を持たない田舎の村娘の人生なんてものは平々凡々に決まっている。12才までは家の手伝いをしながら、村の教会で読み書きそろばんをならい、13才から本格的に仕事に就く。
貴族や豪商の子供なら、王都や主要都市にある、高等学園に通い、勉学に励むのであろうが、平民にそんな余裕はない。まあ、ゲームや小説などは、平民の娘が奨学金を貰って貴族の通う学園に特待生として入学。と、いう事もあるのかもしれないが、現実はこんなド田舎で優秀な成績を収めようと世に出ない。TVやラジオ、ましてやインターネットもないこの世界で、ド田舎の優秀な人材が世間的にバズる事はまずない。せいぜい、近隣の村や町で噂される程度だ。なんので、それ以上の結果を求めたければ、能動的に動いてチャンスを作り、ものにしなければならない。とはいえ平民の高等教育が一般的ではない世界。家族も本人も金の稼げない勉学よりも、仕事に就いて、少しでも家にお金を入れる事を是としている。
私は正直、勉強はできた。記憶を取り戻す前も、そこそこ出来ていたが、記憶を取り戻してから、96年間のアドバンテージがあるのだから、12才までが習う、読み書きそろばんは出来て当たり前だった。さすがに、それだけでは張り合いがないので、教会の書庫で歴史や文学の書を暇をみては読み漁っていた。やや宗教染みた本は多かったが。で、そんな私の事を周りの大人たちは村の神童と呼んでいたが、所詮、村のレベル。とりわけそれで、何か大きく変わったわけでもなく、私は13才から村の共同加工場で魚の加工と町への運搬の仕事に就いた。
そらから2年、私は何の代わり映えのない生活を村で過ごしている。村で捕れた魚を干物に加工し、町まで運んで、取引先に卸す。刺激は少ないが、穏やかな生活。
折角、異世界ライフ。もっとイケイケドンドンでやればいいじゃないと思う人もいるだろう。まあ、でもそれは、日々の生活に鬱屈していた者や、道半ばでトラック転生した人間ならそうだろう。只、私は違う。それなりに満足した人生を96年間もすごした人間だ。つまり前世で生きることに満足した。かと言って今世の人生を適当に生きようというわけではない。単純にイキリ転生者の様なムーブをしたくないだけ。そもそもイキリ転生者ムーブしようにも特別なチート能力はない。そして、特別な身分というわけでない。そんな村娘は基本的に平々凡々に生きてゆくのが、世の常だろう。だから、私は第二の人生を平凡な村娘として真っ当に生きて、幸せになろうと考えている。
「おはよう。アリサさん」
そんなこんなで、今日も今日とて、職場である、村の共同加工場に出勤。
「ああ、おはようエリカ」
加工場のまとめ役、アリサさんに挨拶をして、裏手から荷車を持ってくる。
「今日は昨日よりも量が多い。少し大変だけど、よろしく頼むよ」
「了解。まあ、私にとってはあのくらいの量、たいして問題じゃないけどね」
「そりゃそうだ。しかし、そんな華奢な身体なのにあんな力が秘められているのにはいつも驚かされるよ」
「まあ、先祖返りってやつだから」
そう、私、エリカ・エーカーは華奢な見た目なのに力が強い。どれくらい力が強いかと言うと、前世のTVで力自慢がダンプカーを必死に引っ張ってるのそ想像してもらいたい。あのダンプカーを比較的楽に引っ張れる。それと身体が頑丈だ。
鉄パイプでフルスイングされても、まったく問題ない。
異世界チート能力? と、勘違いされそうだが、そういうわけではない。この力と頑丈さは父方の血筋のせいだ。なんでも、父方の血筋には古の巨人、ギガントテックの血が混じっていて、まれにその能力を色濃く残す、子孫が生まれるそうだ。
なんだが眉唾ものだが、実際に自分がそうだから、嘘とも言えない。まあ、色濃く残るのが、巨大化とかじゃなくてよかった。
と、いうわけで、私はその血のおかけで、異様に頑丈な身体と力をもっている。
で、私はこの能力は加工品の運搬に生かされている。と、いうか、この能力があるので、運搬の仕事をしている。
私は、早速、加工された商品を荷車に積んでゆく。
アンナさんの言う通り、今日は昨日の倍くらいある量だ。
町までは、私の足で半日程度。馬車を使えば、その半分以下で行けるが、馬車は足の速い生魚を町まで運搬するのに使っている。
「よいしょっと」
腰を入れ、荷車を引く。雲一つない爽やかな朝。今日も変わり映えのない、異世界での私の日常の始まりだ。
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