最終話:小春よければすべてよし。

「どう思うって・・・言われても・・・」

「もしかして・・・あっしの小春への気持ちを確かめに来なすったんですか? 」


「あんたに見限られたら小春があまりに不憫だからよ」

「小春はあんたに手柄を立てさせようと必死でがんばってきたんだ」

「今回のことで自分の正体が狸だってバレてもな・・・」


「小春はあんたを初めてみた時から想いは一途なんだよ」

「俺も最初は人間となんか関わらないほうがいいと思ったんだけどな」

「小春の気持ちは一番に大切にしてやりたい」

「だからよ、こうなっちまうと、あんたの気持ちが大事なんだよ」


「あっしの気持ちは・・・」


一平太は何も手につかず、奉行所にも博打場にも番屋にも顔を出さず小春の帰りを

ひたすら待っていた。

探しに行くったって当てはない。

だから待つしか一平太には、ほかにすべがなかった。


「小春がいねえと飯も美味くねえ・・・」


そんなことを漠然と思いながら夕方、晩飯を食っていた時だった。

もう帰ってこないと思っていた小春が突然帰って来たのだ。


「ただいま」


「えっ・・・小春?」


一平太は、驚いて持っていた箸を落とした。


「小春・・・おまえ・・・どこまで行ってたんだよ」

「もう帰ってこねんじゃねえかと思ってたぜ」

「よ〜く帰ってきてくれたな」


「ごめんね・・・雲外鏡を送って行ったあと私のおばあちゃんに会いに

行ってたから・・・」

「帰ろうかどうか迷ったからね、これからどうしたらいいか相談に行ってたの」

「自分の思うままにしなさいって・・・おばちゃんが・・・でも日頃お世話に

なった人にちゃんとお礼も言わず、黙って消えるのはよくないって、そう言われた

から・・・」


「私も一平太さんに、さよならも言わないで去るのは辛かったから、帰ってきち

ゃった」


「でも、長居はしないから・・・」

「一平太さん、もう知ってるわよね・・・私の正体」


「ああ、知ってるよ・・・でも長居はしないってどういうこったい?」

「いてくれないのか?」


「私が狸だって一平太さんに知られたら、いるわけにはいかないでしょ」

「だから私はまた楠の祠に帰ることにしたの・・・」


「一平太さんといられた毎日はほんとに楽しくて幸せだったよ」

「だからちゃんとお礼言わなくちゃね・・・」


「今日まで、ありがとうね・・・一平太さん」


「私は楠の祠で、大好きな一平太さんのことを一生思い続けて生きてくから」


「なに、バカなこと言ってんだよ 」

「ここにいてくれよ小春」


「で、なきゃ俺が生きていけねえよ」


一平太の目から涙があふれ出た。


「おまえの吉右衛門の兄貴さんにも俺は、きっぱり言ったんだぜ」


「え〜お兄ちゃん来たんですか?」


「ああ、俺のおまえに対する気持ちを確かめにな・・・」

「はっきり俺の気持ちを言ってやったぜ」


「これからも小春と一緒に生きていきたいってよ」

「小春が狸だからって、俺の気持ちが変わったりなんかしねえ・・・」


「俺は小春が好きだ」

「だから、これからも俺のそばにいてくれ」


「いいの、私、狸なんだよ」


「そんなこたあ関係ねえよ・・・人間だろが狸だろうがよ、俺にはそんなこたあ、

どうでもいいんだよ」


「俺には小春が必要なんだ、小春が大事なんだよ・・・」

「な、長居しねえなんて言わずに俺と一緒にいてくれ、お願いだから」


「一平太さんの心はもう私から離れたかと思ってた・・・」


「なに言ってんだよ・・・離れるわけねえじぇねえかよ」


「分かりました・・・」

「私がいないと一平太さんが困りそうだし・・・情けない顔してるし」


鼻水でずるずるになってる一平太を見て、小春はクスクス笑った。


「じゃあ、神社の祠に帰るのはやめることにします」


「あ〜よかった・・・小春〜・・・」


そう言って一平太は、すぐに小春を引き寄せて抱きしめた。


「あはは・・・一平太さんったら」

「これからも、よろしくね一平太さん」


「おう、苦労かけるかもしれねえけど絶対幸せにするからな、小春」


「それって矛盾してない?」


「いいの、いいの・・・苦労するからこそ、本当の幸せってものが見えてくる

んだよ、小春・・・」


「一平太さん・・・」


めでたく収まりましたね、一平太と小春が別れなくて本当によかったんじゃ

ないんでしょうか。


ってことで、岡っ引きと狸娘の迷コンビの活躍は、これからもまだまだ

続きそうですね。


おしまい。

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小春日和 ・不思議草子。〜残像のゆくえ・満月の攻防〜 猫野 尻尾 @amanotenshi

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