第18話:小春の正体。
終わってしまえば、夢のような話だった。
人間からしてみたら、ありえない話だったんだから、九尾の狐を見たのは
人間の中で一平太と藤兵衛と若旦那しかいないわけで、この一連の事件を誰かに
話したとしても誰も信じる人はいなかったかもしれない。
今回の一件で一平太には、疑問に持ったことがひとつあった。
それは小春が二匹の狸を、お兄ちゃんと呼んだことだった。
一平太の疑問は、小春は人間なのか?って疑いが芽生えたこと。
神通力なんか使ったりできるし・・・。
でも、それはなかなか小春には聞けなかった。
小春は雲外鏡に腹いっぱいメシを食べさせてから信州の山奥に送って行った。
一平太は小春はこのまま帰って来ないんじゃないかと心配した。
(小春にしたって、自分が二匹の狸に向かってお兄ちゃんって言ったことを
俺に聞かれてるって知ってるだろうからな・・・)
(とうぜん俺に、疑われたかもしれないって思ってるだろうからこのまま
信州から帰ってこないんじゃないか・・・)
もし、そんなことになったら一平太としては複雑っていうか・・・
物事の疑問を解かないまま、あやふやになったら小春とは離れ離れになって
しまうのは不本意なことだった。
二三日しても小春は帰ってこなかった。
「帰ってこいよ・・・小春・・・」
「もし、万が一、おまえが狸だったとしても、俺は受け入れる覚悟はできてるぜ・・・ 」
「おまえが人間の姿でいてくれるなら、俺はこれからもおまえと一緒に笑って
いたいんだ・・・なあ小春 」
「絶対、帰ってこいよな・・・」
次の日も小春は帰ってこなかった。
一平太はもう小春は帰ってこないんだろうなって覚悟した。
(いなくなるんならせめて、さよならくらい言ってくたってよかったのによ・・・)
そんなこと思っていた矢先、小春の兄、吉右衛門狸が長屋を訪ねてきた。
「ごめん・・・」
吉右衛門は、いつもの侍の格好をしていた。
「あ、小春の兄貴さん・・・」
「この前の高岡藩の上屋敷の前の時と九尾の狐の時はお世話にあいなりやした」
「いやいや、なんの・・・小春に怪我でもさせたら兄弟として親に合わす顔が
ないですからな・・・ 」
「それに一平太さんに、もしものことがあったら小春が悲しみます」
「で、今日は何の用時で?」
「実は、あんた俺たち兄弟が狸って分かっただろ?」
「へい、見ちまいましたからね、この目で・・・」
「ってことは・・・小春も狸だって知ってるわけだよな」
「まあ、うすうすは・・・」
「でさ、俺が聞きたいのは、小春が狸だって分かってあんたどう思ってる?って
話だよ」
「どう思ってるって・・・言われても・・・」
つづく。
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