第34話 最終話
(フッフッフッフこれで……あの狂暴な夫も亡くなった。だが、私には神崎家の血を引く直樹がいる。それなのに……こんな二束三文の不動産を財産分与だと——ッ!バカにするんじゃないわよ。フン!)
実刑判決を受けた美枝子は犯罪者だ。犯罪者神崎美枝子は名前を封印して、実家の姓を名乗っていた。それは例え、ちっぽけな不動産と言っても運営して行かなくてはいけない。犯罪者は大きな汚点だ。
今現在は山崎美枝子である。
(息子直樹が、あんな年増の水商売女里美との間に娘沙織が出来てしまい誠に残念な話だが、犯罪者となった私の息子にはあの程度の女で上等と思って諦めるしかない)美枝子は渋々2人の交際を認めた。
★☆
それではあの史上稀に見る恐ろしい事件、一家4人放火殺人事件の真実に迫って行こう。
1992年10月某日午前0時半ごろ、愛知県T市の民家から出火し全焼。現場からこの家に住む夫神崎茂さん44歳と妻恵子さん42歳夫婦、更には長女めぐみちゃん16歳と長男剛君10歳の殺害された遺体が発見された。
沙織は事件の起こったあの日、兄茂夫婦の家に引き取られていた。お医者様が言うには沙織は茂の娘である可能性もある。こうして…お医者様に言われた言葉を唯一の望みと考え沙織を大切にしていたのだ。
「赤ちゃんの頃の血液判定は性格とは言えません。成長した時にもう一度検査しましょう」
(例え浮気をした憎き里美の娘であっても、それも……何も甥っ子の高校生直樹に手を出すとは最低の女だ。あんな女裸一貫で叩き出してくれるわ!それでも…半分は里美で半分俺の血を引いている可能性も捨てきれない。沙織だけは大切にしよう)
あの日沙織は両親で社会人の直樹と妻里美が、仕事で手が離せないので茂の家に引き取られていた。里美は以前は仕事を辞めて茂のお手当で生活していたが、浮気がバレて沙織の養育費だけでお手当はゼロになってしまった。だから働かざるを得なくなってしまった。だがホステスではなくス-パ-のパ-トとして働き出した。それは…直樹の強い勧めで働き出したのだった。別々のス-パ-だったが、直樹は大学卒業と共に大手ス-パ-に就職した。
★☆
それではあの日の事件を回想してみよう。
”ピンポン“ ”ピンポン”
「おう!入って来い!」
「伯父さんありがとう」
あの日も沙織を預けにやって来た直樹。家の中に通された直樹だったが、相変わらず皮肉交じりの罵声にウンザリの直樹。
「全くガキのクセしやがって、盗人猛々しいとはキサマの事だ。フン!全く——ッ!」
「それって……こっちが被害者だし……無理矢理……迫られ……」
直樹は父亮に生き写しのハンサムボーイだった。オジサン化した茂とは天と地の差だ。愛人里美が美しい直樹に魔が差しても仕方がない。
「パパ……パパ……おとうたん……あしょんで」
最近まで一緒に生活していたので茂を慕っている沙織は、2人が言い争っているのもお構いなしに、茂パパに甘えたくて仕方がない。
「おうおう可愛い沙織フッフッフ…パパのところにおいで!」
幾ら憎い里美と直樹の娘だったとしても、茂は沙織が可愛くて仕方がない。
★☆
あの日茂と恵子は夕方近所のスーパーに買い物に出掛けた。それは…沙織が眠ったからだ。
だが、沙織は暫くして目が覚めた。地下室からいつものように声がした。今までは小さ過ぎて地下に降りる事も出来なかったが、階段伝いに地下に降りた沙織。
すると……ある部屋から言葉とも取れない妙な声が聞こえた。そこにはガラス張りになっている部屋が有った。丁度沙織の目の位置からガラス張りになっていた。
赤ちゃんでもいるのだろうか?何か危険な事が起こった時に、直ぐに助けに行く為なのだろうか?
だが、その時……沙織は今まで見た事もない奇妙な子供がいる事に不思議に思い、目を丸くして見入った。そこにはいつも一緒に遊んでくれる優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんが、その奇妙な子供に笑顔で話し掛けていた。
(一体あの人たちは何者?)子供ながらに普通ではない見た事も無い奇妙な人たちに只々驚くばかり。
よく見ると男の子は鼻水を垂らし、よだれを垂らし、目は焦点が合わず片方の目は潰れているように見える。そして犬のように「ウオ——!」と吠えている。一方の女の子は狂っているのか(知的障害が有る)辺りを徘徊している。それなので危機感を感じた両親によって鎖に繋がれているようだ。
すると…いつも遊んでくれる、お兄ちゃんケン君とお姉ちゃんリサちゃんが休憩でリビングに上がって、いつもの様にお茶とおやつを食べに行った。
沙織はとっさに姿を隠した。それはここは立ち入れない場所らしいと子供ながらに直感したからだ。何か奇妙な……初めての世界に好奇心で一杯だ。
(今までこんなお兄ちゃんとお姉ちゃん見た事が無い。どうしたんだろう?)
お姉ちゃんたちが、上に上がったのを見計らって、その奇妙な部屋に入った。するとその男の子が片言で言った。
「そこの鍵……そこの鍵……取って!」
鎖に繋がれている奇妙な人たちを可愛そうに思った沙織は、言われるがままに鎖で繋がれて、カギを取ることが出来ない距離にあるテーブルからカギを取り渡した。
するとその時、その不気味なお兄ちゃんがカチャカチャと鎖を外して部屋を出て、リビングに上がって行った。本人たちは必死だ。こんな部屋に閉じ込められて自由を奪われ何の楽しみも無い。
こうしてあの日事件は起きた。この障害者の2人がこの家の剛君16歳とめぐみちゃん10歳だった。
★☆
実は…両親は障害を持って生まれた2人の我が子が不憫で、どうしていいか分からなかった。それでも重度の精神障害と重度の奇形が2人に見つかり、家では面倒見切れないので施設に預けた。
だが、施設での生活は余程辛いらしく、面会に行く度に泣かれるので、お金は腐る程有る神崎家なので、家で介護士を雇って面倒を見る事にした。
やがて、年齢と共にお友達が欲しいと意思表示をするので、普通の子供達の様に学校に行けなくても、お友達の様に接してくれるお友達を必死で探した。
そこで考えたのが、親のいない養護施設の子供達だ。
2人を引き取り使用人兼子供のお友達として、一緒になり勉強を教えてくれたり言葉を教えてくれたりしていた。だが、障害が相当重度で、奇声を発するので近所の手前、地下室の防犯設備の整った部屋で世話をさせる事にした。
こうしてあの日事件は起きた。子供達はこんな地下室での生活に我慢出来なくなってしまった。
覆面を被った男がドタドタと家に入り込んで来てとあったが、実は…覆面を被るには理由があった。剛は当時16歳だったが、精神障害に加えて目が片方無くて口は三口で裂けていた。幾度か手術を繰り返してはいるが、まだ時間はかかる。本当は鬱陶しいので被りたくないのだが、年頃でいつも勉強を教えてくれるリサちゃんが好きなので、知的障害はあるが、それでもリサちゃんに精一杯良い所を見せたい。自分の醜い姿を見られたくない。多分……人と違うということを分かっているのかも知れない。こうして自分の好きなウルトラマンの覆面を被っていた。
神崎家*長男剛君16歳 長女めぐみ10歳
使用人*リサ16歳 ケン10歳
それでは沙織の証言を辿ってみよう。
優しく微笑み、世話をしてくれる日常が映し出されているが、その2人が兄弟なのか分からないまま時は過ぎて行った。
だが恐ろしい事件は容赦なく襲い掛かって来た。家で沙織1人では心配だから近所か親戚のお姉ちゃんとお兄ちゃんが、沙織の子守をしながらお留守番をしていたのだろうか、そこのところは全く分からない。
3人で穏やかな時間を過ごしていたのに、次の瞬間覆面を被った男がドタドタと家に入り込んで来て……その時必死になってその優しそうなお兄ちゃんとお姉ちゃんが訴えているが、子供過ぎて沙織は何も分からない。するとお姉ちゃんがありったけの力で押し入れかどこか、暗くて狭い場所に沙織を隠した。
沙織は子供過ぎて何が何だか分からない。こっそり隙間から見ていると逃げ惑うお兄ちゃんとお姉ちゃんの姿が確認されたが、まず真っ先にお兄ちゃんの方が刃物で滅多刺しにされている。そして動かなくなってしまった。
一方のお姉ちゃんは必死に逃げ惑っているが、捕まり服を乱暴にはぎ取られている。その……あまりにもお姉ちゃんの切羽詰まった顔に、子供ながらに感じた狂った時間に、お姉ちゃんを助けようと声を張り上げようにも声も出ない、怖さで完全に時が止まり足が一歩も動かない状態に追いやられ、何が起こっているのか、その時は子供過ぎてこの事態を把握する事は全く出来なかったが、只いつもの優しいお姉ちゃんが狂ったように泣き叫び、恐怖で気も狂わんばかりの眼差しで、もう諦めに似た死期を予感したのだろうか、そこまで精神状態を追い込んだにも拘らず、そんな最期を悟った目をした姉の口を一気に塞ぎ、お姉ちゃんに重なりむちゃくちゃに上下運動をする姿が目に入った。
その時は想像を絶する悲惨な状態にある事は分かるのだが、それが強姦されているという事など全く分からなかった。今なら分かる。あの狂気にも似た眼差しは想像を絶する痛さと、苦しさと、悲しさで、死期を予感していたからに他ならなかった。そして…あれは紛れもない優しいお姉ちゃんが強姦されていたのだという事を、大きくなってから理解できた。
だが、その覆面の男が怖くて息をひそめていた沙織だったが、余りの狂気の現状に疲れ果てて眠ってしまった。
どれだけ時間は経過したのだろうか、暗くて狭い場所で目を覚ますと、にこやかな夫婦とおぼしき2人の男女が帰って来た。
その時だ。息をひそめていた男は帰って来た夫婦とおぼしき2人に、凄い剣幕でまくし立て何かを要求していたが、その要望も満たされると、一気に2人の夫婦とおぼしき男女を刃物で滅多刺しにして息の根を止めた。おびただしい血が辺り一帯飛び散って、死に逝く無念の叫び声と悲惨な断末魔の最期となってしまった。
これが沙織が3歳の時に経験した一部始終だ。3歳の記憶というのは余りにも曖昧なものだ。
だが現実はこうだ。
閉じ込められていた解放感から解き放たれた剛は、興奮が収まらない。頭に血が上り、血が激流して体が異様に血を欲した。
台所の出刃包丁を取り出し、おやつを食べていた使用人ケンに向かって一直線に突き進み何回も突き刺した。興奮した剛は血が欲しくなった。そして…もっともっと血しぶきが見たくなった。
「こんな……ところに……閉じ込めやがって……ウオ——ッ!ガガガ我慢できない……死ね!ああああ嗚呼アアアア……死ね!死ね!死ね!嗚呼…血…血が欲しい…嗚呼…」
「ガブリ」
ケンの頸動脈にかぶり付いた剛。するとプッシュ―――ッと、血が吹き出した。
「ギャギャ―――――ッ!」
「嗚呼……美味しい」
逃げ惑うケンとリサ。
「キャ――――ッ!剛君ヤメヤメテ————!タタ タスケテ————————!」
「ウウウ……ウオ——ッ!死ね!ああああああああああ!」
「キャキャ――――――――――ッ!」
だが、今度は溜まりに溜まった欲望を抑えきれなくなってしまった。こうしてリサを強姦した。
「リサ好き……リサ……リサ……リサ……ウウウウッ……ウッフッフッフ気持ちいい」
「ワアアアアア……お願いヤメテ————ッ!」
そして出刃包丁で複数回刺して動けなくして血を吸った。
「ガブリ」
「プッシュ!」
暫くすると両親が帰って来た。
「剛どうしたの?食事の時間でもないのに…リサちゃんに言葉沢山教わろうね。可愛い坊や」母恵子のいつもの優しい言葉。だが、剛は血が欲しくてそれどころではない。
「血が…血が…欲しい…嗚呼…我慢出来ない!」
そう言うが早いか、一気に出刃包丁を振り回し、先ず父茂目掛けて出刃包丁を振り下ろし、動けなくして頸動脈に嚙みついた。
「ガブリ」
「ギャギャアアア-―――――――ッ!」
そして…今度は母恵子にも出刃包丁を振り下ろし動けなくして頸動脈を噛みつき生き血を吸った。
「ガブリ」
「キャ―――――————————————————————ッ! 」
※(吸血病)ヴァンパイアフィリア:人獣問わず、血液を好む症状を示す病気のこと。自傷行為により自らの血液を飲む人もいれば、付き合っている人から血液を提供してもらうというタイプの人もいる。 自分の血液に飽き足らず、犯罪に走って血液を追い求める者もいる。
近親相姦の両親の間に誕生した子供達は、何かしら忌まわしい、不吉なものとして意識されている。近親相姦は人類の多くの文化でタブ-視されて来た。生物学的理由としては、血が濃くなって遺伝子の多様性を獲得できず、ウイルスや病気に勝てない病弱な子どもができたり、高確率で障害のある子どもができる可能性があるといわれている。
それでは、火災はどうして起きたのか?
実は…お茶を沸かしていたリサだったが、リサとケンそれに両親2人が逃げ惑う中、色んな物を投げて逃げ通そうと懸命になった。こうして誤って紙や油がガスに引火して全焼してしまった。
最後に……剛とめぐみはその後どうなったのか?
実は…剛とめぐみは焼け跡から焼け焦げで見つかったが、2人には刺された形跡が無かったので犯人と疑われた。早速刑事は通いの介護士に問い質した。すると介護士の話では両親は2人をとても大切にしていたとの事。という事は重度知的障害児の犯行とは違うとの見解に至った。
また証拠となる凶器も見付からず、剛とめぐみの遺体が焼け過ぎて返り血を浴びた服などのルミノ―ル反応も出なかったので、迷宮入りとなった。
それから2人はどういう訳か、鎖に繋がれた状態で発見されていた。それは…介護士にトイレから帰って来たら厳しくカギをかけるように教えられ指導されていたので、剛もそれが習慣になっていた。介護士に怒られるので、目的を果たして地下室に戻って鎖の鍵を掛けた。
当然鎖につなぐと言う事は狂暴な一面も有ったという事だ。だが、最近は介護士にはそんな狂暴な素振りを見せなくなっていた。
それだけ介護士が怖いという事だ。最近は落ち着いているので介護士はそんな一面がある事を刑事に伝えていなかった。
そして…最後の1人沙織は運の良い事にどういう訳か、奇跡的に助かった。それは…恐怖と熱さで我慢できずにこっそり逃げ出していたのだ。
★☆
100有余年余り前の、混血児エリと軍人藤本省吾の純愛が時代を超え、形を変えこの様なおぞましい形となって今世に露呈した事は、誰が想像出来ただろうか?あんなにも純粋な恋だったのに……。
人間の愚かな過ちが繰り返されて、やがて……怨念となり、今世に不幸を呼び起こしてしまったのか?不幸の連鎖が重なり近親相姦で結婚していようなどと、誰が想像出来た事だろうか?
茂と恵子は異母兄弟とは全く知らずに夫婦の契りを結び、最終的には一家諸共死ぬ羽目になってしまった。
終わり
神の子狂幻想 tamaちゃん @maymy2622
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