遠くへ行った友人

嘉幸

遠くへ行ったの

 私ね、海外に行くのよ。

 綺麗な海があるの。

 きっと砂も綺麗だわ。

 貴女にお手紙書くわね。

 綺麗なポストカードを送るわね。

 大丈夫。忙しくても一言は絶対に書くから!

 貴女もちゃんとお返事書いてね。絶対だから。約束よ!


 旅立つ前に彼女が眩しい笑顔でそう言った。

 嬉しそうな笑顔に私も嬉しくなって「うん!」と何度も頷いた。高校生にもなって何だか恥ずかしい気もするが、繋いだ手が離れていくのにやっぱり寂しくなってポロポロと涙が溢れてしまう。気がつけば友人も笑いながら泣いていた。


 結局最後は2人でくすくす笑い合って、やっぱり大泣きをした。

 



 彼女から届くのは、綺麗なポストカード。


 忙しいのか、走り書きで書かれた「元気?」と言うメッセージ。


 毎回たった一言だけだけど、それは内気な私に寂しさを蹴飛ばす勇気をくれている。


 快活な友人が海に向かって走り出すのを想像すると、すぐに頭に浮かんできて、何だか面白かった。


 はるか遠くにいる友人は、元気だろうか。




 大学生になった。

 初めての一人暮らしで、寂しくてテレビをつけた。

 テレビの中で芸能人がライフハックと可愛いグッズを紹介する。


 あれ?

 どこかで見たことのある可愛いポストカードが紹介された。


『今大注目の海外風ポストカード!はじめから海外風のスタンプが押されており、切手も貼らなくて良いので楽ですね」

『ほんまですね!めっちゃかわいい!』

『これ、海外行ってん〜って言えますや〜ん』

『この商品の目玉はサブスク式で、初めに購入して全部に文字を書きますやろ?ほんで決まった相手に手紙を送ってくれる代行サービスですねん。めっちゃええでしょ〜』

『今時メールじゃなくてポストカードっちゅうのがええですね』


 

 今日もポストカードが届いた。そこには、友人の字で「毎日楽しい?」の一言。

 くるりとひっくり返すと綺麗な海の写真。

 テレビのものと全く一緒だった。



◇◇




『チーン』

 

 無機質な部屋に、金属が震える音が鳴る。


 黒い縁のついた額に収まった笑顔の友人がいた。

 本人はもうここにはいない。


「ごめんなさいね......あの子ったら。病気が悪化してもう長くないから......どうしても貴女には、元気な自分を覚えてて欲しいからって......迷惑、かけたくないって......連絡、しないでって......うっ......ううぅ」


 友人の母親の啜り泣く声が耳をすり抜けていく。にっこり笑った写真の中の友人が、嬉しそうに私を見ていた。





 今日も友人からポストカードが届いた。

 綺麗な空と、小さな鳥が写っている。

 裏返すと、小さく震える文字で「しっかりご飯食べなよ」なんて。


 ペンをとって返事を書く。

 笑った友人を思い出して「貴女もね」とペンを走らせた。

 この手紙は、きっと代行サービスのもとに届いて、友人の家にたどり着くのだろう。




 目を閉じて、青い海に、コテージ。白い砂浜を走る友人を思い浮かべる。

 素敵な笑顔の友人へ。

 


 私は今日も友人に騙されてあげるのだ。

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遠くへ行った友人 嘉幸 @yoshiyuki2206

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