勇者への道

砂月かの

【勇者への道】


『クッ、……こんなところで倒れるわけにはいかない』


『俺は、世界を救う勇者になるんだ』




◆◆◆


目の前に現れたモンスターに、俺はひとり立ち向かう。

ようやく手に入れたつるぎを両手で掴み、俺は敵の隙を狙う。


「動きは単調だが、こちらが仕掛ければ、瞬時に避けられ、反撃を喰らう」


どうする?

と、俺は緩やかに動きながら見つめてくるモンスターに、冷や汗が止まらない。

初めて対峙するモンスターであり、俺は情報が足りないことを悔やむ。村人たちから何か情報を得るべきだったと、今更後悔した。

それでも逃げることはできない。

俺は左足を後ろに引き、地を蹴って突進する。


「やぁぁァー!」


剣を大きく振って、モンスターに切りかかった。



―― バシュ ――



手応えがあった。

振り下ろした剣は、モンスターの体をわずかに切った。


「やったか?」


渾身の一撃だ。俺は倒したかと振り返り目を開く。そこには、まるで嘲笑うかのように傷口を回復するモンスターの姿があったからだ。

剣で切ったはずの部分は、胴体と融合しながら元へと戻っていく。

完全に元の姿に戻ったモンスターに、俺はゾッとする。

一部にダメージを与えただけでは駄目だ、確実に仕留めないと倒せない。そう、一撃必殺が必要なのだと、奥歯を噛む。


「部分的に切り落としてもダメだ。弱点を付かないと……」


仲間が入れば、きっとフォローもあり、倒せたかもしれないが、俺は一人だ。この状況を乗り越えなければ、勇者になどなれないと分かっている。

引き止める人たちを振り切って、俺は勇者になると宣言してきたからには、こんなところで負けるわけには行かない。



『お前には無理だ』

『危ないことはやめて』

『お前は、絶対に勇者になれない』

『無茶はよせ』



誰もかれも、俺には無理だと引き止めた。

だが、俺は苦労の末、この剣を手に入れた。世界を救うための剣だ。


「俺は、絶対に負ける訳にはいかない!」


再度剣を強く握り、俺はモンスターに凄みを利かせる。

その気迫が伝わったのか、モンスターは左右に動き始めた。

お互い、次で決着をつける覚悟だ。

モンスターの瞳が漆黒の闇を生み、俺は白い歯を見せて、『倒す!』と意気込む。

討伐に失敗すれば、大負傷するだろう。一瞬の気の緩みも許されないと、剣を握る手がわずかに震える。


「……ゴクッ」


溢れ出る唾を飲み込み、俺は覚悟を決めた。

両者が地を蹴ったのは同時。


「ウォォォ――ッ!!」


雄叫びとともに、俺は剣を横に構えて真っ二つにしてやると、突き進む。



―― バシュゥゥゥ ――



剣が肉を切り裂く感覚を伝える。

このまま力押しで、モンスターの体を切り裂こうと、俺は精一杯の力を剣にこめ、


「ヴお、ぉぉぉっ――ッ! 切れろぉぉ!」


と、叫んだ。

モンスターの体が2つに割れる。それを確認し、怯んだところを俺は追い打ちをかけるように、剣を持ち替え、大地を思っきり蹴り飛ばして、頭上へとジャンプする。


「再生など、させるものかぁぁ!」


剣先を真っ直ぐにして、俺はモンスターの上から切りかかった。



―― ブシュゥー ――



弾力のあるモンスターの体は、上下左右に切り刻まれ、肉片となる部分が顔にかかる。

そして、モンスターはそのまま消滅した。


「はぁ、ぁ、……やったのか?」


荒くなった呼吸を整えながら、俺は呟く。

振り下ろした剣が地面に刺さり、モンスターの体液だけがわずかに残っていたが、姿はなく、ようやく終りを迎えたことを知る。


「俺は勝ったんだ。やったぞ、ついに倒すことができた」


モンスターを倒し、俺は両手を上げると盛大に喜ぶ。

すると、どこからともなく聞き覚えのあるメロディが流れる。











『テッテッテテ レベルがあがりました』


天の声が聞こえ、俺はスライムを倒したことで、レベル2となった。


「思った以上に強敵だった。村で休ませてもらおう」


傷ついた体を癒やすため、俺は家に帰ることを決めた。

お小遣いを貯めて購入した剣も、手入れする必要があると、布で拭ってから鞘に収める。


『勇者の道は、遠い』


そう感じながらも、日々精進していこうと心に決めた。



** おしまい **




――――――――――――――

あとがき

最弱モンスターとの戦いを、ボス戦風に書いてみたら、ちょっとカッコよく見えませんか?

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勇者への道 砂月かの @kano516

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