Fate Ⅲ 生贄
第17話 ライブ
「金美! こっちだよ!」アキの張りのある声が届く。
ライブ会場前に落ち合った三人は、金美含めて全員大学生だ。
大学はそれぞれ違うが高校の同級生でよくライブハウスに足を運ぶ仲間だ。
「誘ってくれてありがとう。サクリのライブ初めてなんだよねぇ、楽しみ!」
金美のテンションは上り調子だ。それは友人のエミも同じ心境であった。
「そっかぁ、でもよかったね。ウチら皆サクリ聞いてて。インディーズだから中々聞いている人いなくてさ、SNSで同志探しているくらいだもん。今日はワンマンではなくて対バンだから曲数少な目だけど楽しもう!」
エミの言葉に右手の拳を上げた金美は、桂との別れを少し後悔したが、友人たちとの談笑でそれは小さく丸くなっていった。
みんな個性的で可愛く見えてくる。
十九時開演。
隣町の雑居ビル地下二階のライブハウス【エンブリオ】のチケットは未だ紙で
受付で金美は左手首のアップルウォッチをを
スタッフからまだスキャンできる設備がないことを告げられ、ある種の時代錯誤を感じた。
黒のレトロな内装はバンドマンのポスターや写真等で溢れている。
公演予定表を見ると金美たちの目当てのバンド【サクリファイス】は後での三曲構成。
セットリストは代表曲「サクリファイス」をトリに敷いている。
「バンド名と同じタイトル曲って何かスゴいね」
金美は素直な気持ちを伝える。
「うん、そうだよね。ちなみにこのバンド、後半ヘドバンとかで疲れている中でバンギャ一人を曲の終わりあたりで指名してくるの。それでステージに上げさせて「お前が今日の生贄だーっ!!!」みたいな感じでメンバーとオーディエンスとで叫ぶの。それでメンバー四人と一緒に両手繋いでステージ上で挨拶できるんだよ。コレ目当てで来ている子、結構いるんだよね」
アキの解説に金美は小さな疑問を呈する。
「あ、えっと、ごめん。ちなみにバンギャってさ、ヴィジュアル系バンドの熱心な女性ファンって意味で合ってる?」
「そう、それで合ってるよ! 結構前の方の子が生贄にされるからさ、みんな前三列は死守しないとだよ、気合い入れないとね」
エミは腕の力こぶをつくって見せる。
「生贄ってヘンな意味じゃないんでしょ? ただステージに上がれるだけなの?」
金美は興味津々だ。
「普通はそこで終わりなんだけど、SNS上で聞いた話では実はそこから先があるらしくて、ライブ後にメンバーとの打ち上げに参加出来ちゃう時もあるんだって。噂だけどメンバーに気に入られているバンギャは打ち上げも参加出来やすいんじゃないかって話。選ばれたらメッチャ羨ましいよねー」
「それを生贄って呼んでいるわけなんだよね。あくまでパフォーマンスの一環ってやつ。響き悪いけど、バンギャ側からしたらどうぞ生贄にしてくださいーって感じ。あはは」
「それで動員増えているんだ。ざっと見た感じ百五十くらいいるよね。インディーズにしちゃ多くない?」
金美はざっと眺めて概算する。
「これからもっと増えると思うよ。アタシこの演出上手いと思うもん。フツーにバンドやってても差別化出来ないと生き残れないっしょ。てか、ぶっちゃけ対バンライブでも、殆どがサクリ客だと思うよ。アタシ、対バン相手どこか知らないし。えっへへ」
アキはおどけてみせる。
「対バン相手からしたら嬉しいんじゃない? やったー、動員増えたーって思うかも知れないけど、殆どがサクリ側の客だからオメーらの客じゃねーんだよって言ってやりたいよね。そういうバンドはワンマンやってさ、実際の現実を知ればいいんだよ。あ、始まるよ!」
エミの言葉が終わるや否や会場の照明が落ちていく。
金美たちは最前列を取れなかったものの、何とか五列目を確保できた。
ライブ中にもみくちゃにされて離れ離れにならないように、それぞれ手を繋いでライブに臨む。
最初のバンドのメンバーが
会場の真ん中の方から「キャ――ッ!!!」という黄色い歓声が支える。
声量的には体感で観客全体の五分の一くらいだろうか。
やはり、殆どがサクリ客なのか。
最初のバンド【ジアースクライズ】は五人バンド。
ギター二人と思いきや、キーボードの登場で音の幅を利かせようとしている。
アッシュグレイ髪のボーカルが大声で煽り出す。
「おうおうおう、オメーら、みんな俺たちの生贄にされに来たのかぁー?」
会場から笑いが起こる。
「違いまーす!」という素直な返事も聞こえて来るから掴みはオッケーだ。
対バン相手がサクリファイスということを受けて控えめなのか笑いを誘っている。
「アッハハ、ウケるぅー。自虐的ぃ」
アキが笑いながら手を叩く。
「オモロいねー」
金美も続いて声をあげて笑う。
ベースの最低音域の同音弾きから始まり、ドラムがそれに甲高いスネアを被せ、ギターのリフが展開される。
会場の熱が高まり始めると、それに合わせるかのようにボーカルがシャウトする。
「聞いてくれ、メナストフォビア!!!」
大きな歓声が沸き起こる。
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