第16話 父との対局
桂の実家は古い日本様式を取り入れた瓦屋根の和モダンの建築で、引戸に格子を取り入れた玄関は空間的な演出を施している。
玄関の上がり
「桂! お帰り! 昨日は泊まりだったの?」
内心ギクッとして「ただいま、お母さん」とだけ答えて着替え始める。
「もう、心配していたんだから、連絡ひとつくらいしなさいね」
「ご、ごめん、お母さん。今度はちゃんと連絡するから」
「桂、戻ったか」
渋い声が居間から聞こえてきたと同時に、黒の浴衣姿を帯で整えながら桂の顔色を伺う。
「ただいま、お父さん」
「お前、女できたろ? カラコン入っているじゃないか」
父親の【
「そ、そんなんじゃ、ないよ。金美のところに行っていたんだ。そこでカラコンもらって付けているんだ」
「金美ぃ〜?」
思い出すのに少し時間がかかって思い出したように語を継いだ。
「あぁ、金美。久しぶりにその子の名前聞いたな。元気にしているのか?」
「元気だよ。金美の通う大学のキャンパスに案内されてご飯食べていたんだ」
「そうだったの。よかったわね。あそこの大学はレベルが高くて環境が素晴らしいからね。人気も高いし、桂も入れたらいいわね。それにしてもカラコン付けていると少し顔の雰囲気変わるわねぇ」
「それで今の今の時間までイチャイチャしていたってわけだな。俺との対局差し置いて」
「いやいやいやいや、そんなんじゃないよ。遅れてごめん。でも対局は忘れてなかったよ」
「まぁ、チョット休んでからにしたら? 疲れたでしょ?」
「全然平気だよ。あ、もう準備してある」
和室に将棋盤と駒が既に配置されている。
時間測定用の黒のチェスクロックが先手後手用に二台用意されており、それぞれ一手三十秒でセットされている。
父親は桂との対局を心待ちにしていた様子が
「着替えたら浴衣か
父親は足早に和室へ入っていく。
「部屋着ではなにぶんテンションを維持できんからな。はっはっはっ」
父親の将司は現役のプロ棋士九段。特別門下生はいないが、唯一の将棋相手が息子の桂であった。
将司は息子がプロ棋士になって欲しいとの願いから奨励会への入会を推したが、桂はこれを拒んだのだ。
何度も将司は桂の説得を試みたが、結局父の方が折れた。
母親の恵はこれを咎めることなく見守り、息子の自由を尊重したのだ。
桂は冷蔵庫から麦茶を取り出し、軽く潤してから紫紺の浴衣に着替え、羽織を脇に従え座についた。
十五時半過ぎ。
陽射しは和らいだものの、
「ルールは待ち時間三十秒の早差し。一手終わるごとにチェスクロックを押すこと。駒落ちなし。先手は桂、お前からだ」
正座。精神を整える。
一呼吸の後、一礼し、対局開始。
落ち着いた手つきで駒音高く、初手▲
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Fate Ⅱ 虹彩 完
Fate Ⅲ 生贄 へつづく
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