第64話 それから三か月後

 非常に遅くなりまして誠に申し訳なく。

 仕事納めしたり、実家の大掃除の手伝いしたり色々とありまして。


 とりあえずこの章のラストまでのプロットはまとまったので、何話かまとめて更新します。

 よかったら年末年始のお供にしてやってください。


 当面は書け次第更新してく感じになりそうです。

 来年もよろしくお願いいたします。 



 星野達との提携から三か月がたった。

 最近はブラックドックの狩りのために今は宇都宮に通っている。


 宇都宮のダンジョンは郊外のゲームセンターの駐車場に現れている。

 店にとっては迷惑極まりないかと思ったが、なんでもゲームをしつつ配信もするような配信者もいるらしくて、そこまで客足に影響はしなかったらしい。

 ダンジョンのことを少し知ってしまうと、そんないい加減なことでいいのかって気もするが……


 とはいえ、八王子のように街中ど真ん中に現れないのは幸いだったとは思う。

 町中のダンジョンは怖いとかそう言う以前にそこを通れなくなるから邪魔になる。


 それに人が少ない郊外は、ダンジョンに入る時に人目に付きにくい。

 俺はさほど面が割れてないからまあいいとして、蘭城さんと長壁さんは目立つ。

 目撃されると色々と騒ぎになりかねない。


 

「よし、これで終わるか」


 22階層でブラックドッグを3体倒してドロップアイテムを回収できた。

 今日の成果としてはこれで十分だろう。


 新しいバッテリーを搭載した車は国内外で予約が殺到中らしく、ドロップアイテムの需要は増している。

 とはいえ、ブラックドッグはそんなにゾロゾロと出てくるモンスターじゃない。取れる数には限界がある。


「……はい、師匠」

「すみません……今日もお役に立てませんでしたわ」

「あれを倒せれば4体撃破だったのに」


 蘭城さんが申し訳なさそうに言う。

 長壁さんも元気なさげだ。倒す寸前まで追い込んだブラックドッグを取り逃がしたのを気にしているんだろう。

 二人の後ろに浮かんでいる録画用のドローンも心なしかモーター音が小さい気がするな。


 改めて戦って分かったが、ブラックドッグは不利になったら割とすぐ逃げる。

 それに、かなり逃げ足が速い。


 アカデミアで戦ってる時は、目標以外のモンスターは逃げるならそれはそれでよかった。

 というか深追いしてまで倒す必要はなかったから気にしなかったが、意識的に倒そうとすると結構面倒くさい。


 基本的には初太刀でどれだけダメージを与えられるかが重要っぽい。

 粘って深追いするとか、俺と長壁さん、蘭城さんの三人で挟むように戦えば倒せるかもしれないが、獣と同じで手負いのモンスターは危ない。

 それをやるのは少しリスクがある。


「まあいいさ。次は倒せる。帰り道も油断しないで行こう」

「はい……がんばります!」

 

 少し元気を取り戻したように長壁さんが言う。

 

 ここは22階層だ。

 帰り道はドロップアイテムを転がしてあるからさほど危険はないが、それでも入り口までは遠い。

 帰りつくまでは安心できない。


『剣の主よ。お前は良き武人だが、師としては聊か過保護に過ぎるな』


 二人を見ていると、蟒姫ボゥチーの声が頭の中で響いた。

 言わんとしていることは分かるが。


「だが……死んだら意味がないだろ」

『それはその時のことだ。戦の場に出るのならそれを避けることは出来ぬ』


 蟒姫ボゥチーが言う。

 こいつはなんというか……戦いに関してはシビアというか厳しい。天目とかにくらべるとかなり武人風だ。


 修羅場を潜らないと強くなればのは確かなんだが、そこで死んでは意味がない。

 自分の命は究極的には自己責任でいいが、他人のものとなるとそうもいかない。他人を指導するなんて考えてなかったから塩梅が難しい。


『その甘ちゃんな所もこいつの良い所さ』


 天目がフォローしてくれた。


 

 かなり警戒しつつ地上に戻った。

 ゲーセンの駐車場から少し離れた広い荒れ地に開いた小さな出入口だが、周りには誰もいない。


 すでに空は暗くなっていて、道路には白い街灯が光っていた。

 遠くから車の音とゲームの音楽が小さく聞こえてくる。

 

 空地の近くの道端で木林がいつも通りに黒塗りのSUVで待機してくれていた。

 装備を解いてドロップアイテムを渡すと、木林が大事そうに箱に仕舞ってトランクに入れる。。


 後部座席に座ると、いつも通り右に長壁さん、左に蘭城さんが乗り込んできた。

 助手席にはわざとらしく荷物が置かれている。


「草ヶ部さん、今日は如何でしたか?」

「ああ、問題なかったよ」


 今のところ鈴木とかの組織から邪魔が入ると思ったが、そういうことはない。

ポーションの時のように露骨な妨害も入っていない。

 出して良さが認められればなんとでもなる、という星野の言っていることは今のところ正しい。


「あの連中が静かなのはなんでなんだろうな」

「草ヶ部様に恐れをなしたに違いありませんわ」

「……だといいんだが」


 其処までや楽観的にはなれないが。

 ただ、何度か誘いのつもりで独りで深層に潜ってみたが、追手がついてはしなかった。

 このまま何事もないならそれに越したことはないんだが……動きが無いのはそれはそれで不気味だ。


 そんなことを考えているうちに車が高速に乗った。

 あとは座っているだけなのは楽だな。高級車って感じのシートは座り心地がよくて眠くなる。

 

「明日は草ヶ部様、衣装合わせですわ」

「師匠も見に来てくださいね。真っ先に師匠に見てほしいですから」


 長壁さんと蘭城さんが言う。

 ……そういえばそうだった。一日のんびりするつもりだったんだが。


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借金の形に深層でドラゴンと戦っていたブルーカラーのオッサン、何の因果かニンジャマスターと呼ばれ美少女配信者の師匠になってしまう~俺のチャンネルなんてものは無いが、他人のは定期的にバズっているらしい~ ユキミヤリンドウ/夏風ユキト @yukimiyarindou

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