第14話 なかなかやる気が出なくて
テスト1日目の夜。俺は2日目のテストの勉強のやる気が死ぬほどでなかった。
はぁ……やばいなぁ。今がいちばん頑張んなきゃ推薦取れないのに……はぁ……
何とか勉強机に向かい、シャーペンを持つ。明日の教科は英語と国語だ。
「あぁ……! もう無理! やる気出ん!」
今日の花蓮の感じを見てから、俺の何かがどうにかなってしまったようだ。びっくりするくらいにいつも通りの花蓮。
「……散歩でも行くか」
時間は午後8時。夕食も食べ終えている。
「お母さん。ちょっと散歩行ってくる」
「え、あ、そう。遅くなる前には帰ってくるのよ〜」
「うん。多分30分くらいで帰ると思う」
「そう。行ってらっしゃい」
お母さんに軽く伝え、運動靴を履き、玄関の扉を開いた。開けた瞬間少し冷たい空気が俺の体に触れる。
もうすぐ6月。夏も近いがやっぱり夜は少し肌寒いな。
俺の家があるマンションの4階から階段で降り、自動ドアを抜け外へと出た。
散歩って言ってもどこ行こうかなぁ……まぁ、適当に歩くか。
俺はとりあえず花蓮の家とは逆の方向へと歩き始めた。ただ真っ直ぐ歩き進める。何も考えずぼーっとしながら歩いた。
「あ、ここは」
たどり着いたのは大きく長い川の土手だ。俺は川へと繋がる土手の階段に腰を下ろした。
川の方は暗くてあんまり見えないが、人はチラホラ居た。カップルもいればなんか怖そうなヤンキーもいる。
「嫌なことあったらすぐここに逃げてたなぁ」
小学校中学校と気が病むことはよくあった。そんな時良くここに来ていた。昼も夜も。1人でぼーっと川を眺めていた。
あぁ……なんか泣きそう。思い出すだけで……はぁ。バカ。
「でも、いつもここにいると……花蓮は来てくれたよな」
俺が大体親に何も言わず外に出た時は90パーセント位の確率でここにいた。だからいつも花蓮がそれを聞き付けると走ってむかえにきてくれた。
それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。正直、それ目当てでこの土手に来ていたって言っても過言では無い。
まぁ、だとしても。俺が本当に気持ちがマイナスになった時、花蓮はいつもそばにいてくれた。何をしてくれたとか、助けてくれたとか、そんなことはあんまりなかった。でも、ただそばにいてくれたんだ。
「考えても無駄か。帰って勉強しよ」
ピロピロ
咲さんからだ。
都竹咲:明日テスト終わったら私の最寄り駅集合でもいいかな
るい:おっけい! お昼はどうする?
都竹咲:るいくんはどっちがいいですか?
るい:じゃ、1回荷物置いたらすぐ向かう。なんか買って一緒に食べよ
都竹咲:分かった! 待ってる!
帰りながらする彼女との何気ない会話。俺は思う。きっと咲さんもずっと俺のそばに居てくれる。そんな気がした。
彼女と会話していると自然と笑顔になってしまう。こんな事今まで無かったのに。
「よし。なんか元気出た! 帰って勉強して寝て咲さんと会うぞ!」
この時の俺は微塵も思っていない。お家デートがどれほど高いハードルなのかということを。
──────
2日目のテストが終わり、その帰り道のこと。
「……琉生? 何そんなソワソワしてんのよ」
「そ、ソワソワなんてしてねぇよ! べ、別にふ、普通だし……」
「琉生……もしかして……」
「……!」
花蓮の感は鈍い。大丈夫だ。大丈夫だ……安心しろ……!
「今日の英語ミスったんでしょ! 難しかったもんね〜琉生ダメだったか〜私は行けたけどなぁ〜」
「はい? なに見当違いなこと言ってるんですかー? 自分英語と数学が得意科目なんですけども!」
「んき! 何よそれ! このソワソワマンが!」
「おい! やめろその呼び方!」
確かに、俺はソワソワしていた。なぜなら今日。2回目のデートにして俺は咲さんのお家にお邪魔させてもらうのだから。
もはやあれを1回目と呼んでいいのかも分からない。
「じゃ、明日ケアレスミスないようにね〜」
「うるさい。花蓮こそ公式忘れんなよ」
よし。一旦落ち着け俺。最近情緒が激しいからな。大丈夫大丈夫。
俺は一度家に帰り、荷物を置いた。そして数学の教材と筆箱をトートバッグに入れ、再度家を出た。
「なんかお土産とか持っていった方がいいのかな……あった方がいいよな……」
一旦、俺はダッシュで家の近くにあるショッピングモールへと向かった。そこで、とりあえず定員さんにオススメを聞き、カステラのお菓子を購入し、電車に乗った。
ふぅ……落ち着け俺。大丈夫。もし咲さんのご両親がいたらしっかり落ち着いて挨拶すれば大丈夫だ。昨日調べただろ。寝る前。暗記物は寝る前がいいんだ。
ピロピロ
都竹咲:今駅ついたよー! 待ってます!
るい:さっき電車乗ったから後五分くらいかな。ごめん待ってて
この会話の後に変な見たこともない動物が了解! と掲げているスタンプが送られてきた。
……あと1駅。よし。ここまで来たらもうやるしかない。男琉生、見せるぞ。
「終点〜終点でございます」
電車をおり、改札口へと向かった。
この駅意外と広いな……2つくらい線が通ってるんだな。えっと確か東口……こっちか。
案内板を見ながら東口へと向かうと、改札があった。その改札を出て直ぐにある柱の前で咲さんがキョロキョロしながら待っていた。
よし、第一発声は元気よく……
俺が勢いよくICカードを改札口にタッチした。その時だ。
ぴんぽーん
改札が閉まり、タッチした場所は赤く光っている。こ、これは……残高不足!?
「あ、琉生君! ここだよ〜!」
「あ、ご、ごめん、さ、咲さん……」
「あ、ゆ、ゆっくりでいいよ」
何たる失態! 恥ずかしい! お嫁行けないっ!
俺は後ろの人にペコペコ謝りながら足りない分をチャージし、改札をぬけた。
「ご、ごめん待たせちゃって」
「ううん。全然。来てくれてありがとね……ふふふ」
「ど、どうしたの……?」
「焦ってる琉生君……可愛いね」
「か、可愛くなんてないよ! は、恥ずかしかったんだからぁ……」
「ふふ。まぁ、行こ。お昼なにか先買っていこっか。エヌドナルドならあるけど……琉生君いい?」
「うん。咲さんがいいなら」
こうして初手からミスりまくりの俺と咲さんは某ハンバーガーチェーン店へと向かった。
ピロリピロリ
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「ちょっと混んでるし一緒に頼んじゃおうか」
「う、うん。る、琉生君から注文していいよ……」
なんだろう。さっきとは全然違う雰囲気の咲さん。まぁいいか。
「ダブルチーズバーガーのMセット1つで。飲み物は……コラ・コーラで」
「え、えっと……わ、私は……」
何をそんなにモジモジしているのだろうか。お金でもないのだろうか。よし、ここは男たるもの奢って見せようか!
「咲さんの好きな物頼みな。一旦俺が払っちゃうから」
「す、好きな物……えっと……ビックバーガーのLセットで……! ドリンクは……メロンソーダで!」
そういう事か……なるほど……可愛いな……
「以上でよろしいですか?」
「咲さん? もういいの?」
「フリフリチキンもひとつ……」
「合計1540円になります」
俯きながら外に出る咲さんを商品を受け取り追いかける。
「咲さんって……よく食べるんだね」
「や、やっぱり食べる女の子ダメですか!?」
「あははは!」
「わ、笑わないでくださいよ……!」
「ごめんごめん。全然ダメじゃない。むしろ……」
可愛い。そう言おうとした時。一瞬言葉につまる。
「……可愛い」
「……ん? むしろなんて言いました?」
俯いていた顔をチラッ、とこっちに向け覗き込む彼女。
ちっせぇ声しか出なかった! やばい! ダサすぎるって!
「か、可愛い……よ?」
「か、可愛い……ですか……」
頬を赤らめ、さっきまでこっちを覗いていた顔をまた伏せる咲さん。左に同じく俺。
「家……こっちです……」
「う、うん……」
付き合うってこんな難しいのか……
そして、こんな
大好きな幼馴染を振ってから始まるラブコメ 〜学校で1番の美女に告白されたからとりあえず付き合ってみたが、実は幼馴染と両思いだったらしい〜 @hashi__yuu
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