第13話 テスト終わりは悩みがち

「えーっと、今日はこれで終わりだ。あと2日間テストあるからすぐ帰って勉強しろよーー。じゃ、解散」


「いやぁ、何とか一日目を終えたな琉生」


「そうだね。明日は国語と英語だっけ?」


「そうそう。んで、最終日は数学だけ。ほんとに激アツ」


「うんうんアツアツだな」


「あぁ、でもあの社会の問5。最後めっちゃ悩んで変えちゃったけど……」


「確かあそこは1が正解だったよ」


「うわぁ! 変えちゃったぁ! 馬鹿野郎!」


 こうして、一日目のテストは終了した。正直、手応えあるかないかとかどうでもいい。俺の頭の中には2人の女性のことでいっぱいだった。


 はぁ……テスト集中できなかった……まぁ、分からないってなった問題はなかったし大丈夫かな。


「おーい、龍ーー。部活のグループ見た?」


「いや? 見てねぇけど……げ、今日ミーティングあんのかよ」


「らしいよ〜。夏の大会に向けてだってさ。まだ残ってる3年生謎に張り切ってるよね〜」


「ま、仕方ねぇよ。すぐ準備するからちょい待ってて。一緒に行こ」


「おっけーいトイレ行ってるね」


「……てことですまん。今日も少し勉強しようと思ったけど無理っぽいわ。先帰って大丈夫」


「うん。じゃ、頑張れよサッカー少年」


「おうよ!」


 そう言って龍はすぐに荷物をまとめ、女子トイレのある方へと向かって教室を出ていった。

 なんだかんだ龍は部活を頑張っている。1年でレギュラーだし、夏の大会まで3年生が引退しないと言うまぁ、なんというか弱い学校らしからぬ話だが、それでも必死に部活へと参加している。


 そんな彼を少し羨ましいと思う反面、昔の自分と重ねてしまい嫌な気持ちになる事もある。あ、龍が嫌いとかそういう事じゃなくてな。中学の時の俺も色々あったんだよ。


「あ、琉生まだ居た。今日はもう帰る?」


「うん。龍が部活のミーティングあるらしくて。花蓮は?」


「もちろん直帰。一緒に帰ろ」


「あぁ。すぐ準備する」


 花蓮を目の前にするとやっぱりモヤモヤする。ただ一緒に帰るだけなのに。いつも帰っていたのに。当たり前のはずなのに。友達のはずなのに。


 俺は速やかに帰りの準備を済ませ、花蓮と一緒に学校を後にした。


「いやぁ〜やっぱテストって何回受けても疲れるよなぁ〜」


「そうか? 俺は授業より断然楽だけどな」


「何よそれ自慢? あんまりかっこよくないわよそれ」


「自慢じゃないわ! 自信に満ち溢れてるんですよ」


「私が自信ないみたいな言い方やめなよ!」


 たわいない会話をする帰り道。心做しか、最近の中ではいちばん気楽に花蓮と話せている気がする。花蓮が友達として話してくれているからだろうか。


 好きって……なんなんだろうな。なんで人は他人のことを好きになるんだろう。俺は花蓮の事が好きだった。それもかなり。今でも覚えてる。好きになったあの日。


「そう言えばなんで琉生は高校で部活入らなかったの? 上手かったじゃんバスケ」


「あはは……ちょっとね。トラウマってやつかな」


「あのこと引きずってたのかぁ。なんかごめん」


「いーや、いいんだよ。花蓮は気使わなくて」


「さすがに使うよ私でも。あの時私……なんもしてやれなかったし」


「ううん。それでもいいんだ。それに花蓮は……昔っから十分してくれてたよ」


「……ん? なんか言った最後」


 ──────


 これは小学校2年生に上がった頃の話だ。中学じゃなくて小学だぞ。


「おい! 高嶺! 昼休みボール片付けてなかったのか! 田中から聞いたぞ」


「え、いや僕は……その……」


「自分で使ったボールは自分で片付ける。何度言ったら分かるんだ。次やったら連帯責任でこのクラスのボール遊びは禁止です!」


「「「えーー」」」


 僕は外でボール遊びなどしてなかった。1人でぼーっと校庭の端っこで座って空を眺めているだけだった。

 でも、週に2、3回こうやって俺がボールを片付けてないことになる。まぁ、いわゆるいじめだ。さっき出てきた通り田中ってやつ主犯でいじめれていた。


 俺は小さい頃から明るい性格ではなく、あんまり友達が作れなかった。自分から話しかけることも出来ないし、話しかけてもらっても大した反応ができなかった。


 それで俺は小学校一年の二学期、親の都合ですぐに転校することになった。なんだかんだ俺も頑張って人話すことに努力し、周りと馴染めるようになった頃だった。両親には沢山謝られた。別に謝ることじゃない、と初めは思っていた。


 でも、大きくなってから分かった。その謝罪は正しかったのだと。


 転校初日。俺は人見知り爆発。既にグループはできており、どこにも入れずにいた。何人かは話しかけてくれたが、上手く返すことが出来ず、ひとりぼっちになってしまった。


 こうして三学期、田中の標的となる。そして運が良いのか悪いのか。3クラスもあるのにまたまた田中と同じクラス。こりゃ最悪だ。仕舞いには担任の先生からは出来の悪い生徒、とか思われていた。


 正直あの頃のことはそんなに覚えていない。辛かったけどお姉ちゃんがよく遊んでくれたおかげでそこまで病んだりはしなかった。


 まぁ……辛かったよ。

 でもやっぱり、いじめは止まらない。


「おい高嶺! 今日も宿題忘れたのか!」


「いや……持ってきたんですけどランドセルに入ってなくて……」


「それは忘れたってことだろ。次忘れたら別のプリント追加だからな」


 この頃からだ。勉強が嫌いになったのは。提出したはずのプリントが無くなる、なんて事は珍しくなかった。


 そして月日は経ち、夏休みが終わり、新学期。9月1日。重い腰を上げて登校したその日は、俺の運命を変えた。


「えーっと、今日から新しく転校してうちのクラスの一員になる塙花蓮だ。みんな仲良くするように」


「塙花蓮です! よろしくお願いします!」


「席は……あの空いてる席だ。今日からよろしくな」


 転校してきた花蓮の初めての席は……


「私花蓮! 君は?」


「る、琉生……」


「琉生君かぁ……いい名前だね!」


 この時、俺は初めて友達ができた。


「ねぇ琉生! 今日の算数のプリント分からなくて……写していい?」


「い、いいけどバレたらすごく怒られるよ……」


「大丈夫。怒られるのはすごく嫌だけど、バレないようにするから!」


 花蓮が転校してから数日が経ち、驚くことに家が隣と知ってからはより花蓮は積極的に話しかけてくれるようになった。初めは宿題写させてくれるマシン、とか思ってるんだろうなとか思っていたが、割とそんなこともなかった。


 でも、当たり前のようにいじめは続いた。


「はぁ……高嶺! 今日もプリント出て無いぞ! どうなってるんだ!」


「あ、いや……今日は……今日も出しました……」


「何言ってるんだ! 出てないからこうやって怒ってるんだろう!」


 今思えばすごい技術だ田中。俺の宿題プリントだけ毎回抜き取るなんてな。


「出し……ました……どうして……毎日出してるのに……」


「お、おい高嶺! 泣けばいいってもんじゃ……」


 泣いてしまった。初めて学校で、教室で泣いてしまった。理由は無い。溜まりに溜まったものが溢れ出しただけだから。


 俺の後ろからくすくすと笑う声が聞こえる。きっといじめっ子たちだろう。あぁ……恥ずかしい。ムカつくけど……俺は何も出来ないし……


「先生! 琉生君はちゃんとやって来てたよ! 私見た!」


「……花蓮?」


「お、おい塙。それってどういうことだ」


 席から走って教卓の前まで来る花蓮。涙を拭いながら彼女を目で追う。


「……私写させてもらったんです。琉生君のやつ……だ、だから多分先生が無くしちゃったのかあの田中とか言うやつがよく琉生君に意地悪してるの見るから……」


 ここから先はあんまり覚えていなかった。あんなに怒られたくないと言っていた花蓮が写したことを根拠に助けようとしてくれた。田中の名前も出していじめのことを報告してくれた。まぁ、その後花蓮も写したことめちゃくちゃ怒られてたけど。


「だから琉生君は悪くないよ先生!」


 あぁ……俺。この子のこと……


 ──────


「じゃ、また明日ね」


「おう。またな」


 好きとは。その謎は解けずにいる。

 俺は今、咲さんを好きになろうとしている。いや、もう好きに片足突っ込んでいると言っても過言では無い。でも、花蓮の事も……


 ピロピロ



 都竹咲:明日良かった私の家で勉強しませんか?



 咲さん……俺……どうすればいいんだよぉ……

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