第27話 いつかはバレること

あれからどれくらい時間がたったのでしょうか。

互いに譲らない間合い、距離感…そんな中、たった一回が間合いが開きました。


足が土をえぐるような音を奏でたあと、互いに呼吸を入れました。


「その身体で全部いなすか…。」

「ふぅ…、ぎりぎりですけどね。」


私はそのように答えました。

まだ筋肉等が体についていないため、軌道を変えれる範囲に限度があったためです。

その返答に彼は面白くなさそうな表情を浮かべて言い放ちました。


「全力を出してれば既に俺は終わってただろ。何故そうしない…」


…確かにそうです。

手段を選ばなければ終わらせることが出来ます。

なら全力を出していないのか?それも違うのですよね。でも今はこう答えるのです。


「終わったらお答えします。」

「そうか。」


手合わせ中は必要のない感情なんて要らないのです。

ただ一手相手を知る、それだけですからね。

そして、次で終わるのだという確信もありました。

何故なら間合いを取るということは…。


「…悪癖ですね。」


身体をずらすと背後から突きが飛んで来たので、すかさず彼の腕を掴み背負い投げで地面に叩きつけました。


「ごほぁっ!!」


私の今生身で出せる全力を彼にぶつけると、地面に叩きつけられた身体とともに大地をもえぐるような衝撃を放って小さな亀裂を走らせました。

ふむ…今でこのくらいですか。


私は衣服についた土埃を手で払った後、彼に近づきしゃがみました。

彼はさほど苦痛な表情を浮かべてないあたり、死線をくぐり抜けてきたと言うことでしょう。

…でもこれ以上やる意味はないですね。


「…降参しますか?」

「切り札使ったんだ。骨も何箇所か折れたし……俺の敗けだな。」


彼は力を抜いて敗けを宣言しました。


◇◇◇


現在、平原でポツンと立った複数のテントの前、3名ほどの団員と私が焚き火を囲っているなか私がいるせいか周囲に微妙な空気がただよっていました。

うーん、それはそうですよねー。

殺し合いの後に「はい、仲良くしましょう。」なんて無理な話です。

わかってはいるのですが…。


「フィニーにあの子連れてきてもらう方が早いですしね。」


私は小さな声でぽつりとつぶやきながら、オレンジ色に光り、燃え上がる焚き火の中に枝を投げ入れていました。


「…なんで見逃したの?あなたたちを殺そうとしたのに。」


静かな沈黙の中、すでにフードに身を包んでいない綺麗な女性が私に声をかけてきました。


「う〜ん、仕事だとわかっていたからでしょうか。剣や防具は盗賊にしては綺麗すぎますし、備蓄も十分に保管してあるようですしね。」

「へぇー…見た目以上に賢いのね。」

「あははー…ただ判断がつかなかったんですよね。王族の命令か、貴族の命令かもしくは他からか…なら話し合いに持ち込む方が都合よかったのです。」


私の返答に彼女は驚いたような表情を見せました。

確かに彼女にとっては私は子供ののような容姿をしてますし驚かれて当然でしょうね;


「がっはっはっは!子供のくせしてなんて思考してやがるんだ。」


後ろから大音量の笑い声が聞こえたと思うと、ドスドスと重量感のある足音を立てながら巨体の男性が歩いてきました。


「ダンバ!夜中だから小さく喋りなさいって言わなかった?」

「レンザ、任務は失敗したのだから気にしなくても良いだろ?」

「それでもよ!…ごめんね。コイツ遠慮というのがないから。」

「いえいえ、気にしないでください。」


私が返答すると同時に彼は拳を顎に当てながら私の方を観察するように見始めました。


「しかし〜、その身体であの身のこなしは色々と逸脱しているな。一体どのような原理なのだ。」

「あ〜…、目と感覚が慣れてたんですよね。いえ、慣らしたといった方が正しいのでしょうか。」

「目と感覚をか?」


村のある方を見ながら語りました。


「詳細はまだ語れませんが…。ここ数日は軽めに神狼と手合わせをしていたんです。簡単に言えば…だけなんですけどね。」


私の言葉に二人は絶句しました。

あれ…変なこと言ったでしょうか。


「私変なこと言いました?」

「あなたは…、神狼とはどう言う関係で?」


あ、あ〜…そう言えばフィニーは私や友人以外あんまり興味なかったんでしたっけ;ん〜どう返事しましょう。


「彼女とは恋人みたいなものだな。」


…いきなり空気読まない言葉が飛んできたので背後を見るとフィニーとセイナがいました。さっきの言葉にびっくりしたのか、セイナ含めたその場にいた全員フィニーや私の方を見て固まってますね。


「…フィニー、否定はしないけど良く空気読まないって言われない?」

「良く言われる。」


即答しちゃうんだもんなー。


「すまん、それを前持って言ってくれ。危うく俺ら死にかけたことになるんだが。」

「無理だろ。我らは対立していたのだからな。」

「…それはそうだな。」


◇◇◇


団長も来て、全員落ち着いたタイミングで私とフィニーは自己紹介を始めました。


「私の名前はナツメでこっちは神狼のフィニーと言います。たぶん…神狼の本名知るのはここにいる初めてじゃないかな?」

「む?そうだな。我は種族名で言われることが多いからな。たしか…テレジアスウルフだったか、よくフェンリルと間違われるがな。」


テレジアスウルフ

エアウルフの進化系列で森林で活動するウルフで風と雷を操る力に長けている。

知能が高く集団行動をして外敵から身を守っており、そのボスにテレジアスウルフが多かった。

エルフとは友好関係にあり、狩猟の手伝いをしたりとかするらしい。


「ただ別に神名もあるのだがな。そっちは好きじゃない。」


神名とは神様が仕事の役割として付けるものなのだが、勝手に付けられたためあまりフィニーは好きではないと言らしいのです。


「それだったら役職と考えればいいんじゃないです?」

「ふむ…。」


必要だから役割があると考えれば気にならないと思いますけど…そういえば神名は聞いてませんでしたね。後で聞いてみましょうか。

焚き火を囲って軽めに自己紹介しているとチェンバーがふと口を開きました。


「ナツメといったな。俺らに喋ってないことがあるんじゃないか?」

「そりゃあー、うっかり喋ると暗殺者に私が狙われるのですよ。」

「…じゃあそれ以上は聞かないさ。」


彼がため息をつくように息を吐くと焚き火を注視し始めました。

私はその様子を見て少しおかしくなりクスクスと笑いしました。


「あなたは優しいんですね。でももう喋れないわけではないのです…準備もできましたしね。あとは、王都側が準備ができたら公の場に晒されるでしょう。」

「公の場?」

「はい。」


私は立ち上がり服についた草の葉を叩いて落とした後、語りだしました。


「フィニーは良くも悪くも嘘はつけませんから必然的に絞られてしまうのです。『私が誰なのか』を…ケイブを知ってる理由も自ずと、わかると思います。」

「…なぜだ?」

「フィニーが言いましたよね。『恋人みたいなものだ』と、ただ少し訂正するならー…ですね。」

「確かにそうだな。」


その言葉を聞いて何かに気がついたのか、レンザは額に手を当てたあと表情がみるみる変わっていきました。


「あ!…えぇ、嘘でしょ…?」

「ん?レンザどうしたんだ。」


その様子からして尊敬するような…恐怖するようなどっちつかずの表情をしていました。おそらく女性だからこそあの絵本の話が好きなのでしょうか…読んでると私の正体に気がつきますよね。


「こほん…では改めまして」


私は咳払いをして改めてもう一つの名を言い放ちました。


「元暴食の魔神の契約者、そして異世界の英雄と呼ばれていた一人。ナツと申します。」


名乗ったと同時に私は足をクロスさせ、胸に右手を置いて優雅にお辞儀をしました。

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暇する羊は狼と夢を見る~幸福探しのスローライフ~ 氷白糖 @koorikurosatou

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