第26話 毒蜥蜴の暗殺団

四日前

毒蜥蜴の暗殺団

暗殺業を主目的とし、貴族の毛嫌いする人物を消していくことを生業としている集団で、俺はその団長をしている。

チェンバーという名前があるが、今は団長と呼ばれることが多い。

外見は長身の細身で片目には縦傷が頰まで続いており、長髪の紺色をしている。


「がっはっはー、聞いたか団長。光の柱だってよ!」

「うるさいぞ。仕事中だダンバ。」

「でもよー。神狼も動いたんだぞ?一大事だろ。」


赤レンガで作られ机と椅子しかない部屋で話しかけてきたのは長年の仲間であるダンバ。

俺よりも少し高い長身の筋肉質でスキンヘッドのおっさんで顔も渋いのだが、体格に対して素早く一瞬で相手の背後をつける技術を持っている。

予備はあったのだが黒装束のサイズがなかなか合わず最高級品の素材なため、用意するのに苦労したのは良い思い出だ。


「それに前団長も行っていただろ。何がきっかけで死線になるのかわからないってな。がっはっは。」

「はぁ…、しかしこの依頼どう思う?」

「あ?どうってそりゃ…やりやすい以来だとは思うぞ?」


とある貴族から渡された依頼は昨日夜に逃走した11歳のセイナ・アルベールを暗殺し、魔本を回収するという内容であった。その文だけである。

一見簡単そうに見える…。しかし魔本の部分に引っかかるのだ。


「…前団長からの教えを覚えているか?魔本には厳重の注意を払えと。」

「あれか?意味わからないよな。魔本なんてそこら中にあるだろ?」


そうだ。普通の魔本は図書館に腐るほどあるのだ。

そのため魔本を回収するという内容は一見簡単そうに見えたのだが…、どうも俺の勘が警告をしているように思う。


「…選択を間違えれば死が待っている…か。」

「あら、あの胡散臭い占い師の内容ね。気にするだけ無駄じゃない?」


静かにドアを開けて一人の女性が入ってくる。

今は王都で目立たないように一般できな衣装を見にまとっているが、その佇まいから只者ではない赤髪の女性が入ってきた。

名前はレンザという。


「レンザか…、新人の方はどうだ。」

「四人のうち二人は脱落。でもその二人は筋がいいからすぐにでも仕事が出来そうよ。あと貴族様からプレゼントがきたの『役立つ奴隷を貸す』だそうよ。」

「なんだと?」

「しかも、あの奴隷すごいわよ。隠密は完璧で千里眼持ちだもの…相当鍛えられたに違いないわ。」

「すげぇじゃねえか!」


俺はため息をついた後、二人が騒いでる姿をよそに部屋の角を見た。

依頼なのだ。


「二人とも頼みがある。この依頼中は『リーダー』と呼べ。」

「は?なんでだ?」

「おそらくだが…死闘になる。」


◇◇◇


現在


「もう、せっかちは嫌われますよ。」


目の前にいるのはただただ小さい魔族の子羊が大杖を持っているだけだ。

しかし、やり方はわからないが気がついた時には俺たち四人の奇襲をいともたやすく防いだのは確かだ。


「くっ…『契約者』も釣りか!」

「ふふ、頭が回りますね。でも…まだ意味まではわかってなさそうですが。」

「ちぃ、全員やるぞ!」


再度俺たちは最速で攻撃をしたが、子供らしからぬ大杖のいなし技で一人また一人と攻撃をいなされていた。


「ぐぅ…!」


しかし不思議なことに何度攻撃しようと、彼女は致命傷を狙わないどころか傷が出来ないよう力加減をしているように思えた。

こいつ…何者だ。


「リーダー!どうする!」

「…はぁ、少女よ。質問してもいいか?」

「何を呑気な!」

「いいですよ。」


彼女の返答に周囲が固まった。

その反応は当然なのだが、それ以上に他のメンバーは戦闘中だからこそ余計に困惑していた。


「じゃあ…、威圧は邪魔ですね。」


彼女がそういうと一気に空気が軽くなった気がした。おそらくこれも釣りの一種で、試されていたのか…。

だがどうしても先に聞かなければならないことがある。


「セイナ・アルベールは今どこにいる。何故守る!」

「ん〜、彼女の暗殺をやめるなら教えてあげてもいいですが…それでも暗殺するなら一つ忠告しときます。」


軽い感じで返答しているが再び次の言葉で場の空気が変わった。


「私はですよ。」


彼女は悪魔に似つかわしくない微笑みを浮かべていた。


「…は、冗談言うのやめろ。脅しにしてはやりすぎだ!」


確かにそうだダンバの言う通りだ。

暴食の魔神の契約者は前団長の…育て親なのだから。


「冗談…冗談ね。なぜ私が契約者を名乗ったか正直に話しましょうか。やり方や剣筋がケイブ・ケリスに似ていたからですよ。」

「…はぁ?」


…ありえないあの一瞬でわかるものなのか。

それこそ一緒に鍛錬をしてないとわからない筈…、しかもなぜその名が出てくる。ケイブ団長のフルネームが!

一体俺たちは誰を敵に回しているんだ。


「…え?喋りすぎ?いいじゃないですか。私達の育て子の弟子ならこっちからヒントあげないと殺しあってしまいますよ。それは私たちにとっても悲しいことでしょ?」


なんだ…いきなり変なことを喋り出したぞ。


「はぁ…、悪戯するにしてもそれはやり過ぎかと思いますよ。…わかりました!今解きます。もう…ずるいんだから…」


彼女は大杖のベルを静かに鳴らした。

何が起こるかと身構えていると彼女の背後から…威圧感と同時に誰もが恐れる体長10mの神狼が姿を現したのだ。


「あ…あはは、夢でも見てんのか俺は…。」

「こ…怖い。」

「ひぇー!」


気付けば全員情けない声を出していた。

これは…もう俺たちに勝ち目はないな。


◇◇◇


ナツメ視点


「ふふ、サプライズってところだな。」


なぁにドヤ顔してるんですか。

みんな失神手前ですよほんとにもう…満足そうなら良かったですが。


「威圧マックスでスタンバイするのはわかるのですが、私の身にもなってくださいよ。体が魔族のせいであれ痛いんですからね。」

「そうか?はっはっは。すまん」

「…今日一緒に寝てくれたら許します。」


簡単に言えば全身の毛がよだつくらいビリビリくるのですよね。

私たちが軽口を叩いていると、一人の長身の青年がこちらに歩いてきました。


「本当に君は何者なんだ。なぜ前団長のことを知っている。」


前団長…パンツ覗きのケイブのことですかね。


「そうですね。…一騎打ちで手合わせしてくれたら答えますよ?」

「…それでいいのか?」

「むしろその方が納得してくれるんじゃないでしょうか。私は言葉より体の方が動きますので…。」


私の意図を汲んでかフィニーは少し距離を置きました。同時に私は大杖の先を地面に差し込みました。


「…杖無しでもやれるということか?」

「いえ、生憎私は…」


私は左手を前に差し出し、右手を腰に添えました。

足は自然に感じる位置へずらしていき重心は足裏へ、呼吸を整えそして答えました。


「生身が本来の武器なので。」


彼は目を見開いたあと、顔つきが変わりすぐに剣を構えました。

彼の構えはまさしく見覚えのあるもので、剣をしたに下げ隙を見せる動作そのもの…ケイブの構えでした。

周囲の空気が冷たくなり始め、皆の時間が止まったように私達二人を見続ける。

幾度となく経験した死合の間、どちらか動けば片方も動き出す駆け引き…いつも私は慣れるようで慣れなかったのです。


だってこの間は私の一番好きな場所ですから。


好きな時間が終わるように彼が動いた瞬間、私も同時に動き出しました。

彼の剣が軌道に乗ると同時に私は初手人差し指でただ軌道をずらしました。一回、二回、三回…と数えるなか私は動作を変え、幾度も軌道をずらしていくのです。


きっと初手で彼もわかったはずです。互いに最後の一手を狙っていると…。だからこそ思ってしまいました。

最後の一手…楽しみにしています。

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