第25話 目の前に神狼がいるという恐怖

私はケースを開けると微かに光る10枚のカードが目の前に飛び出し静止しました。セイナはその光景を見てびっくりしていましたが言いつけ通り沈黙を貫いています。

フィニーはそういえば一度見てるんですよね。


「占星術『大アルカナ』。試練の時が来た。運命の星を示し私の声に従いたまえ

!ナンバーⅨを指定。私に付与チェイン!」


私が術を唱えるとそれに呼応するように地面から黒い霧が噴出し、私の体を包み込んで行きました。その後、黒い霧から視界が晴れると漆黒の黒いローブを身にまとい大杖を持っていました。

漆黒のローブは足首までの長さでフードも付いており顔を隠せるほど、大杖は捻るように木が絡んでおり先端には大ベルがついています。

あ、腰にランタンもついてましたね。ふむ…服の上からローブを羽織った感じでしょうか。

おっと、時間がないのでした。


「ベルの音よ。三方の気配と音をかき消したまえ。」


呪文を唱えるとベルが物静かになったと思うと何も変化がありませんでした。

いえ…正確には三人だけは変化がなかったのです。

私は確認のために歩く人見つけ、その人に対し大声で叫んだのですが…不思議なことに声に気づかず変わらず足音を立てて歩いて行きました。


「喋ってOKです。」

「え…え?何が起こったんです?」


セイナが意味わからない様子だったので軽く説明することにしました。


「えっとですね。今隠者の能力を発動していまして…現在の効果は変幻自在でしょうか。」

「…すごいですね。」

「ちなみに二時間効果が続きますので余裕持って行動できますね。」

「ふむ、便利だな。」


…絶対フィニー悪いこと考えてますよね。

最悪のドッキリやめてくださいね本当に…ん?もしかして…。


「フィニー、試しに警戒解いてみてもらっていいですか?」

「ん?あぁ構わないぞ。」


彼が警戒を解くと周囲の空気が一瞬で軽くなったような気がしました。

もし私の勘が当たっていれば…


「お、六方向から近づいてきたな。」

「え?もう一人いたの?」

「あぁ、全く殺気を感じなかった。」


フィニーの警戒から隠れ切るとかすごいですね。

それにしても警戒までは完全に消せないんでのですか…要検証っと…。


「この場所は危ないから少し移動しよう。」

「そうですね。」


私たちは小道の入り口から少し離れた壁にそうように移動しました。

それから大体1分…黒装束を着た六人が続々と小道手前に集まってきたのです。

ん?一人は首輪をつけてますね。


一人が周囲を確認すると小声で何かを話し始めたのですが…ちょっと聞き取りづらいですね。盗聴しましょうか。


「ベルよ、声を拾え。」


私が大杖で地面を小突いてベルを軽く鳴らすと、会話の内容が聞こえてきました。隠密行動には本当便利ですね『隠者』。


「千里眼は機能してるんだろ。なんで見失う?」


千里眼…確かだいぶ遠方から気配を見る能力でしたっけ?


「落ち着け、千里眼も万能じゃない。問題なのはどうやってこの場から移動したのかだ。」


うーん、不正解ですね。

こら、フィニー笑わないであげてください。セイナは…見えてないのに彼の後ろに隠れてますね。


「移動も何も痕跡残るはずだろ?しかもワープの魔術は前兆があるはずだが…。」

「はぁー?そもそもあのお嬢さんにそんな技能あったか?」

「そうだよ。それにワープを1分以内で使えたら前代未聞だ。それより黒い霧といったがあってるの?」

「う…うん、黒い霧が出てすぐに消えた。」


誰が喋ってるのかわからないが首輪をつけている子がもじもじしていました。

千里眼持ちはあの子で確定ですかね?


「しかし厄介だ。簡単に捕縛か暗殺が終わるかと思ったんだが、役立つ奴隷を貸すといってたが役に立たねーじゃねぇか。」

「また捜索?王都からだいぶ距離あったから少し休みたいわ…新人二人も疲れてるみたいだし。」

「えっと…、ひとついいですか?」


黒装束の一人が手をあげました。


「なんだ?新人A。」

「気になったのですが…。君の千里眼は村から平原までの範囲なんですよね?」

「はい…。」

「その範囲に三人が?」

「…いないです。気配も何も、あと付き添い?の二人もです。」


その一言で一瞬沈黙が流れました。


「ありえねぇ。一人は強い奴がいると思ったが…。」


うーん、しかしここまで気がつかれないと体がウズウズしちゃうんですよね。

フィニーも同じ感じで笑い我慢してますし…でもよく考えたら気配のない神獣が目の前にいるって洒落にならないですね本当。


「…我々の知らない気配を消す魔術があるのかもしれないな。」

「それこそありえないだろ。リーダー。」


お、指差す動作をしてるあたりあの人がリーダーですか…。

さすが鋭いですね。


「こう推理されると遊んでみたくなっちゃうんですよね。フィニーもわかります?」

「あぁ、バレないというのどういう感覚かと思ったらこれはこれでは楽しいな。」

「えっと…、ふ…二人とも?」


ごめんなさい。はしたないですが私たちは遊ぶことや戦うこと大好きなんですよね。セイナに迷惑かけないようにと思ったのですが…、ウズウズしすぎて我慢できなさそうです。

しかし、ここまでくると一芝居打ちたいですね。


「フィニー、荷物壊れないように異空間お借りして大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、構わないぞ。」

「あと、セイナさん。」

「え?あ、はい。」


私はさらさらとメモ帳へ書き込み、折りたたむとそれを渡しました。


「これをギルドにお願いします。受付のカウンターに置いてくれればいいです。あ、場所はあの大きな建物ですので、終わったらギルド前にいてください。迎えに行きますから。」

「わ…わかりました。…これからどうなさるんです?」


彼女の問いに満面の笑みを浮かべてこう答えました。


「ちょっとイタズラをします。」


◇◇◇


「ふぅ、いい満月♪」


私は両手を広げて月光浴をしていました。

現在、フィニーの背に乗って私たちは村から南西の平原に移動していました。


「あれから…大体30分ですか。」

「あぁ、そうだな。」


多分躍起になって探してるか休憩しているところですね。

果たして警戒して来ないか、聞き出しをしにここまで来るかどっちでしょうね。


「さて、ゲームをやりましょうか。」


私は大杖のベルを鳴らしました。

すると周囲の妖精たちが私に気がついたのか、クルクルと私の周囲で遊びまり始めたのです。私の姿が見えなくなっておろおろと悲しくしてたんですよね。


「ごめんね。ちょっとずるいかくれんぼだったね。」


私は妖精達を優しく撫でると満面の笑みで返してくれました。さて、来てくれますでしょうか…。

そんなことを考えていると二人の黒装束の人影が見え始めました。

今回はフード被らずに顔が見えますね。

一人は白髪の少年で…、もう一人は首輪をつけた半獣人で髪は赤色の猫耳ですか。


「子供?」

「あら、随分と早いですね。」


その言葉に二人は反応をしたが落ち着いていました。

まあ、大方予想通りですね。

罠だと多分二人もわかってて、それでも来るということは腕には自信があるということでしょう。


「…青髪の少女はどこですか?」


ふむ…。


「それが人に聞く態度ですか?まぁ…千里眼まで持ち出して探し出したい相手ですものね。」

「!?」


私はわざと挑発をするように喋りました。

ボロが出てくれた方がこちらとしては楽ですからね。


「なぜ知って…どうした?ここに来てから怯えてるぞ。」


おや…、その様子だとその子は見えてる?


「貴方は…、一体誰なの?その妖精の数…異常すぎる。」

「妖精?」

「あら、見えるのですか。しかし、誰かと問われると…強いていうなら?」


私が一言『契約者』と名乗った瞬間背後から複数の閃光が曲線を描き飛んできたのですが、瞬きした瞬間突風が吹くが如しそれらは吹き飛んでいました。


「なっ!?」

「もう、せっかちは嫌われますよ。」


私は小さく笑みを浮かべていました。

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