第24話 聖域と瘴気、所により魔神

私はまずセイナに聖域と瘴気について教えました。


「まず瘴気は魔神にも必要になります。」

「え?瘴気は魔物の元ですよね?」

「一般的には…そうですね。」


私は人差し指をくるくる回しながら説明をしました。


「瘴気は心と魂に作用し、邪神の力次第で人間を魔物にしたり魔物を操ったりできます。でもそれは邪神が悪い方に傾いたりした場合の話なので今の邪神は大丈夫だと思います。」

「そうなんですね。」


私はかばんからペンとメモ帳を取り出してさらさらと黒丸と白丸書き始めました。


「さて、ここに書いた黒丸を瘴気として、白丸を聖域としましょうか。」

「はい。」

「他にも瘴気には魔族・魔物の進化に必要な物で、魔物使い等も相棒を強く進化させるためには瘴気の濃い場所に連れていかなければなりません。それはなぜだと思いますか?」

「えっと…。すいません…わからないです。」


私はわかりやすくなるように例え話をすることに。


「例えば人間は食物を食べて体を作り上げていきます。そして魔素は食べ物や呼吸から摂取しているとしましょうか。もし魔物にとって食物が瘴気なら?」

「あ、体が作れない!」

「正解です。」


私は聖域に人間と植物を書きました。


「図のように聖域は人間や植物が育ちやすく、魔物はそれを人間達の縄張りとして意識します。なので食料となる瘴気がないので聖域には無理やり入ってこないんですよね。」

「…でもなぜ時々スタンピード『魔物大進軍』が起こるのでしょう。」


私は彼女の質問に少し白丸を大きくし答えました。


「原因としては…聖域を作りすぎると瘴気の場所が減っていきます。同時に魔物の住処も減っていくのですよね。だから頭の賢い魔物はスタンピードを起こして縄張りと瘴気を広げようとします。」

「…だから聖女様は指定の範囲しか聖域を作られないのですね。」

「そういうことですね。他にも聖域同様に瘴気が濃い場所でしか出来ない鉱物や素材があるのですが…そこは省きましょう。」

「はい。」


話を聞いていたのかフィニーか付け加えるように答えてくれました。


「西部に定期的に神獣や聖獣・英雄が集まるのもそのためだな。魔物が増えすぎるとどうしてもスタンピードが起こるので間引いている感じだ。」

「補足ありがとうフィニー。」

「へぇー…知らないことばかりです。」


彼女は納得したようにメモ帳を見続けていました。

その様子を見て私はこの世界の孤児院で働いていたことを思い出します。

みんな一生懸命に勉強して難しいことがあれば教えてたなぁ…。でも私も幼かったので教えれないことも多かったんですよね。


「ふふ、余裕ができたら…教師も楽しそうですね。」


フィニーはその言葉を聞いて微かに微笑んだ気がしました。


◇◇◇


その後コーヒーの追加を注文して小休憩を挟み、魔神の本題に入ることに。


「さっき瘴気を説明したのはわかりやすくするためで、魔神は魔素で力を蓄え瘴気で肉体を作るんですよね。」

「それじゃあ…覚醒?ができないのは。」

「瘴気不足で肉体化ができない状態ですね。」


私はコーヒーを一口飲んだ後説明しました。


「魔神の役割なのですが不要な聖域を破壊して瘴気を広げたり、瘴気が増えすぎたら吸収して魔物の大増殖を防ぐことをしているのです。そういう役割を与えられているから神様の使徒なのですよね。」

「なるほど…。ただ怖いだけではなかったのですね…。」


説明した後、私は考え込むように魔本を確認します。

だからこそ不思議に思うのですよ…。本来魔神は危うくなったら自分で瘴気を取り込みに行くはずなのですが魔本から覚醒できない状態になるまで放置するものなのでしょうか…。


「うーん。なんで瘴気を取り込みにいかなかったんでしょ。」

「…きっと臆病だったからじゃないか?」

「…それだ!」

「ひやぁ!?」


セイナは私が立ち上がるとビクッとびっくりして変な声を出しました。ごめんなさいね。

フィニーがため息をついて頭をぽりぽり掻きながら説明を続けました。


「いやな。そいつ優しいんだが一人だと慣れない土地以外には絶対行かないやつなんだよ。その…臆病だから…。」


フィニーは頭を抱えます。

そう私達は知っている。臆病の魔神は臆病ゆえに倒せる魔物ですら怖いらしいんですよね。そういえば…美菜もお化けは苦手でしたね。

二人揃って幽霊退治で廃墟探索行った時の絶叫による轟音加減といったらもう…、幽霊であるレイスが逃げ出すほどだったから流石に腹筋壊れたのは今でもよく思い出します。たしか『あぎゃー!!!』でしたっけ?

フィニーは次の日には一日中ダウンしてたんで流石に耳良すぎるのは気の毒だと思いましたが;


「…なんか親近感湧いちゃいますね…。」


セイナさんはちょっと嬉しそうに魔本を撫でていました。たぶんかなり似た者同士なのでしょう。まぁ…ここまで逃げて来れる分その魔神より勇気あると思いますが。

本当に誘わないと部屋にこもってテコでも動こうとしないのですよね。まさに現代風でいう陰キャであります。


「だからって魔本から覚醒できない状態になるまでいきます?」

「ふむ…ある意味平和になった生涯だろうな。」


なるほど。

平和になったら無理して外に出なくて良い。

聖域と瘴気のバランスが保ったままで魔神が無理して活動しなくても良い。

呼ばれないから部屋に引きこもろう。

…スリーアウトですね。


「ふむ、100年物の引きニートですか。」

「引きニート?なんだそれは。」

「ある世界の言葉で仕事しない人のことですよ。」


なんか魔本がショック受けたように見えましたが仕方ないことなんですよね。

自己管理できないのは流石にどうかと思いますし…。


「便利な言葉もあるものだな。」

「あはは…、褒められた言葉じゃないですけどね。」


私はペンとメモ帳をしまいこんで立ち上がりました。


「セイナさんはお金ありますか?」

「え?えっと…20金くらいは。」


ふむ、流石逃亡しているとはいえ貴族だけあり持ってますね。

当面は大丈夫でしょうが…。


「今日はもうすぐ日が暮れそうですし良い宿を紹介しましょうか。フィニーもかまいませんよね?」

「あぁ、確かにあそこだと警戒しなくて良いし構わないぞ。」

「…いいんですか?」


私は頷いた後、お金を払い喫茶店から出ました。


◇◇◇


しかし…月が姿を現した頃、ギルドへ向かう道中妙な気配を感じてフィニーもそれに気がついたのか私と視線を合わせて警戒心を強めました。

セイナはまだその辺りわからないのか警戒はしているものの落ち着いた様子で歩いていましたので、彼女の口に手を添えて小さな声で一言。


「セイナさん…、たぶん刺客がこの村に来たみたいです。」

「ん!?」


その後、すぐに彼女の手を引いて小道に案内しました。

本来小道に誘導するのは悪手ではあるのですが、状況が状況なので仕方ないですね。


「フィニー、数は?」

「…新米が二人、熟練者が三人か?現在我が広げてる警戒範囲のギリギリで動いてる。ただ匂いで位置がわかるから問題ないな。」


警戒範囲がわかるということは手練れがいますね。

その言葉を聞いて私は即座に上を見て建物の高さを確認しました。


「流石にあの高さじゃバレるでしょうね…。」

「…バレる?」

「あ、いえこっちの話です。」


彼の本来の姿で逃げるのもありなんですが一騒動起こりそうなんですよね。

まだ彼が神狼だと広まってないですし、あれしかないか…。


「二人とも…状況が状況なので奥の手を使います。ただ二人とも少しの間無言を貫いてください。」

「ふむ、わかった。」

「え?…わ…わかった。」


二人の返事を確認した後、私はタロットケースに手をかけるのでした。

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