第23話 暴食の契約者と臆病の契約者
ギルドから退室した後私は北西に移動し、薬草の焦げた匂いや香料の様々な香りを堪能しつつ錬金術士の道具を見て回っていました。
村の北西部の高所にあたり採掘場からはさほど離れていない場所で市場と素材取引所からは結構な距離がありました。建築物はレンガから木製なものと様々で、建物と建物の間隔が広く統一性がなくて違和感を感じますが様々な毒素が出たり爆発物があったりと危険を考慮しているためです。
さらに北西に行くと崖があり、木の足場で降りていくと下には船着場がありました。2隻ほど止まっている船は…木造で中型漁船くらいでしょうか。
錬金術の建物が近くに多いのも即座に船の修理や魚を凍らせることができるためでしょう。まぁ…それに関しては私たちの世界の知恵だったりするのですけどね。
「そういえば船で思い出したのだが別大陸を探しに大型船を作る計画があるらしく近々ここの船着場を広くするらしい。」
「へぇー…。」
大型船かー、美奈がその話聞くと飛んできそうですね。
そんなことを思いながら錬金術の道具を買い揃えていると。
「あ…あの。」
背後から声が聞こえたので振り向いてみると、そこには怯えた様子で私と同じくらいの身長で青髪短髪の美しく顔の整った少女がブカブカな服を握りしめて立っていました。
「どうしました?……?」
優しい声で声をかけようとした時、私はふと違和感を感じました。
前にもこの感覚に覚えが…そうですね。なぜかマーゼとの初対面を思い出すんですよね。
「えっと…えっと…え?いや…でも…。」
ふむ…。誰かと話していますね。
少し彼女の様子を見ていると、フィニーは肩をつついて耳打ちしてきました。
『魔神の気配だ。しかも善性で有名な…。』
『…『臆病の
その言葉を聞いて彼は頷きました。
基本本名は契約者以外喋ることができないので●●の魔本と呼ばれることが多く、魔神は魔本で行動することが多いためです。魔本でいるのは一般人を考慮してだそうだとか…。神様の使徒だし悪影響が出るんでしょうね。
あとは魔神は好みの性格に寄り添うことが多く、暴食の魔神も私が食に異常な拘りがあったため契約者になったのだとか…ご飯も一緒に仲良く食べてたことも影響してますかね。
そういう意味では魔神の種類次第で判断しやすいのはありがたいのですが…。最悪な魔神もいるので厄介ではあるんですよね。
「うぅ…ごめんなさい…。いきなり話しかけて迷惑…でしたよね?」
「あ、大丈夫ですよ。」
どうしよう…聞いてみてもいいのでしょうか…。
とりあえず道のど真ん中なんで迷惑になりそうですね。
「…そこの喫茶店で話しましょうか?」
「あ…わかりました。」
私たちは喫茶店の中に入り軽い要件を話して個室に案内してもらったあと軽いものを注文し、椅子に座りました。
さすがは錬金術士の御用達なのか、リラックス効果のある高級香料が分断に使われてるのがわかります。フィニーも好きな匂いだったらしく椅子に深く座ってリラックスしている様子でした。
数分後運ばれてきたコーヒーを飲みながら、私達は彼女に聞きました。
「あなたは魔神と契約しているのですか?」
「!?」
ガタン!と彼女の椅子が音を立てるくらい跳ね上がり、警戒心を持ってこちらを見ています。
うーん…直球すぎましたね。
「あはは…落ち着いてください。私も契約者なんで大丈夫ですよ。」
「ほ…本当ですか?」
「フィニーも契約者ですからね。」
「そうだな。まぁ…、あいつは契約を気にするやつでもないしな。」
確かに放浪の魔神ですから、あの方自由人すぎるんですよね…。
しかしこの怯え方は…
「…そういえばお名前をお聞きしても?」
「あ、そうですね。…私はセイナ・アルベール…魔術師の落ちこぼれです。」
アルベール…アルベール?
「高雅研美のアルベール家?」
「あはは…、私にはふさわしくないですよね…。」
高雅研美のアルベール一族。
魔術師として大成を果たし100年前は王宮魔導師のライルのライバルとして注目されていた一族でもありました。しかしその裏では子息の魔術が優秀でない場合、除籍され領地すら入れない等噂で聞いたことがあったんですよね。
「本来私は除籍される立場だったのですが…、優しい父様と母様が庇ってくれていたのです。そんな中…転機が訪れました。」
セイナは脇から魔本を取り出し、静かにその本を机に置かれました。
中央の丸い玉は水色に輝いており、豪華な羽のような飾りが渦のように施された形状になっています。
暴食の場合は羽の部分が牙なんですよね。
「■■■■■さん…あ、本名はわからないですよね…。この魔本と契約できた時に認められたのですが。それを妬ましく思った他の分家に…その…襲われ始めたので…隠れてここまでうまく逃げてきたんです…。」
確か王都マリンの北部がアルベール領地でしたよね…多分それで運が良かったんでしょうね。しかし…おかしいですね。
臆病は攻撃もそうですが防御と治癒を得意としているため死ぬ思いで逃げなくてもいいはずなのですが…。
「…側面や裏面を見てみていいですか?」
「あ、はい。」
私は魔本を優しく持ちまず背表紙の内容を確認しました。
当然ながら読めるけど読めない…間違いなく本名が書いてますね。
その後背表紙を確認するとひし形のくぼみがあり、それを中心に他の魔本でも見た同じ魔法陣が霞んだ色で黒く背表紙全体に広がっていました。
「あぁ、だから魔本から覚醒ができないのですね。」
「…覚醒ですか?」
「フィニー、見てくれます?」
そういうとフィニーに魔本を渡して確認してもらいました。
その後、フィニーが一嗅ぎすると納得するように語ります。
「…魔素は足りてるが瘴気不足だな。これは結構な魔物の魔石が必要になるだろう。」
「え?…瘴気?」
「あぁ瘴気だな。」
魔本を静かに置いた後、フィニーは少し一呼吸し耳をすませました。
「すまん。人が来ないか我は集中するからナツメが説明してくれるか。」
「あー、魔神の説明ですね。」
私は彼女に説明し始めました。
「これから話すことは契約者にも極力話さないことをお願いしても大丈夫ですか?」
「…はい…。」
「まず大前提として魔神は神様の使徒なんです。」
「はい…はい?…えー!むぐッ!」
私は即座に彼女の口に手を添えました。
うん…びっくりするよね。でもあの性格だから備えてて正解でした。
「おほん、ごめんなさい。前提がどうしても必要なので…。」
「い…いえ大丈夫です。でもそれって…」
ほとんどの人が知らない話ですね。
知ってても魔王、神獣、契約者の一部くらいでしょうか。
「色んな人に話すと極刑ですね。(てへっ★)」
「ひゃ…。ち…注意します。」
釘刺さないとうっかり話しそうですしねこの子…まぁ実際極刑に近いことされるんですけどね。(神様に)
「今回は緊急なのでごめんなさい。多分この方も私の存在に気が付いたから案内したんでしょうし…。」
私は優しく魔本を撫でながら呟いた。
「知ってるんですか?」
「あははー…、知ってるも何も私とこの方は戦友で親友ですよ。神様や魔神は魂を見破ることができますから。」
「はぁ…あ、本当なんですね。」
ふむ、念話はできてる様子ですね。しかし…ふむ、あのことは彼が覚醒した時に話しましょうか。
臆病の魔本初代契約者が美菜であることは…ね。
「さてと、話を戻しますが神様の使徒には仕事があります。」
「仕事…ですか?」
「はい、それは聖域と瘴気のバランスをとることですね。」
「…バランス。」
私は彼女にわかりやすく説明することにしました。
きっと彼女が魔神に選ばれたということは何か意味があると感じましたからね。
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