黒い肌の雪子さん
天野海神
第1話
わたしは漫画家を目指していた。両親の承諾は取得済みで、学校に通うかたわら毎日地道に漫画を描いているのだった。
ある夜のこと、リビングに降りると珍しく父がいて、酒を飲みながら少年ジャンプ(雑誌)を読んでいた。
「おぉ、なるちゃんか。どーした。」
父が尋ねるのでめんどくさいが応答した。
「喉乾いた。」
わたしは椅子に腰かけると緑茶をグッと飲み、「っはー!」とひといきついた。
「なんか漫画のネタ思いついた?」
父が尋ねた。父はまだわたしが漫画を制作していないと思って話題を振っている。だから、訂正した。
「もう描いてる。」
「そうなんだ。どんな漫画?」
やけに食いついてくるな…と戸惑っていると、
「アクションとかSFとかホラーとかさぁ…」
と、例を挙げて促してくる。わたしは恥を忍んで答えた。
「ゆ、友情…」
「え?」
「友情漫画」
恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、父の反応はカラッとしていた。
「友情かぁ。新しいジャンルだね。」
そうかなぁ、とわたしは首をかしげた。
「友情だったら、パパ、自信あるよ」
なんの自信だよ…と思っていたら、父が聞いてもいないのに語りだした。
パパが小学校3年生のころ、クラスに奇病を持った雪子さんという女の子がいたんだ。その子は普通に学校に来て僕のクラスに通っていたんだけれども、肌が黒くて、わかるだろ?いじめられていたんだ。「汚い」とか「きもい」とか言ってね。ある日雪子さんが亡くなってしまったんだ。いじめを知っていた雪子さんの両親がすごい形相でクラスに乗り込んできた。僕は怒られる!と思った。だけど雪子さんのお母さんが言ったんだ。
「仲良くしてくれてありがとう。」って。
気づいたら父は泣いていた。そのときのことを後悔しているような言い方だった。きっといじめていたのは父だったのだろう。父はひねくれもので、やんちゃな子どもだったらしいから。
わたしはこの話を漫画にすることにした。この世に雪子さんがいたということ、そして、父は今でも後悔しているということを心に刻むために…。
黒い肌の雪子さん 天野海神 @inazuma511
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