地球再生にかかった時間は42:39:23でした

藤原くう

第1話

 だいたい自滅で消えちゃう地球を再生するRTAはじまるよー。


 レギュレーションはスタートを押して、アース3というゲーム名が消えてオープニングが始まった瞬間から。


 グダグダ言っててもしょうがないので、よーいスタート。


 始めるとスターウォーズをパロったイントロダクションが表示されますが、三分以上ロスするのでスキップ。


 要約すると、地球が壊れちゃったので神様直してちゃん。そんな感じのストーリーです。なので、主人公は見目麗しい女神様だったりします。


 見てください目前には宇宙が広がっています。雑然と星が散らばり、うごうごしている雑踏のような宇宙。


 そんな古い宇宙に地球はありません。42日前、はた迷惑な土建会社のせいでなくなってしまったので、今からおねーさんが再生するんですね。


 バカみたいに広い宇宙に手を突っ込み、こねこね。謎の手が出てきましたが気にしないでください。ちょっとシュールですが、気にしないで。ちなみにこの手、中の宇宙の人たちには見えないって設定がありまして、サイズもノミから銀河までつまめる大きさになります。


 そんなことを説明している間にも、アチアチで今にも飛び跳ねてしまいそうな球体ができました。そうしたらば、ぎゅっとひとまとまりにして丸めましょう。これ隠しパラメータで査定が行われています。Cランク以上にしなければ後で、神様の仕事が雑だ、と言われ、そこでゲームオーバーとなります。


 泥団子みたいに火の玉をエーテルで磨いたらしたら、完成。この球体を叩きつけるとどうなるでしょう。――泥団子が壊れる。まさしくその通り。


 古い宇宙を圧縮したこの球体には、すさまじいエネルギーが秘められています。そんな球体が炸裂したら何が起こるのか。


 ビッグバン。


 一か所に集まったエネルギーが、光速を超え広がっていきます。宇宙の誕生です。元気なベイビーは産声を上げてます。


 ここからは地球ができるまで早送りします。だいたい百億年くらいはかかるでしょうか。ガス状のエネルギーやら物質やらが徐々に集まっていき、かと思えば玉突き事故を起こして粉々になって様を見るのも楽しいですが、いつまでたっても先に進みませんからね。


 さて、その間にルールの説明等行うことにします。本RTAのレギュレーションは、グッドエンドクリアかつチートやグリッチ、バグの使用は禁止というオーソドックスなもの。バッドエンドはNGです。例えば、先の地球のように、巨大な貝の形をした神様を怒らせて無理やり終わらせようとしてもダメってこと。


 グリッチに関しては、そうですね。先ほど圧縮した古い宇宙。あれを両手で持ち、腰のあたりで構えて、いかにも必殺技っぽいものを口にしながら投擲することで、スタッフロールがはじまるというものがありますが、これらも禁止となっています。


 さて、そうこうしているうちに太陽系が出来上がりつつありますので、そちらに視点を合わせてみましょう。


 太陽系第四惑星地球。生まれたての水の星にはすでに月ができていますが、遠い未来とは違い、口づけなんてできないほど真っ赤に燃えています。あたりを漂う小惑星やらなんやらが雨あられと降ってきたからですね。


 これが止めば大気ができ、海ができるのですが、そうならない時があります。その場合はバグですのでリセットしてください。ちなみにRTA中に起きたら十二時間がムダになりますので、起きないことを祈りましょう。


 そうして海ができたら、まもなく生物が誕生します。


 と。ここまで来たら、誰だって目の前の蒼き星が地球だってわかりますよね。これでシナリオ終了――だったらよかったんですけどね。実はここからが本番です。


 このゲーム地球を再生させても「THE END」にならないんです。その先のエンドに到達しなければなりません。実はマルチエンディングになってるんですよ。じゃあ、どのエンドを目指すのか、それはもちろんグッドエンド。一番難しいエンディングを目指します。


 さて、原始的な生物ができ、海に藻のような植物ができはじめると酸素が生まれます。そうすると海洋生物たちが陸上へと生息圏を拡大していきます。虫嫌いの方もいらっしゃいますと思いますので、中生代まで一息に加速しましょう。ちなみに、三葉虫やメガネウラがお好きな方は等速で眺めてみるのも乙ですよ。


 中生代は子どもたちに人気の時代です。ヒトよりもはるかに巨大で獰猛な恐竜たちが幅を利かせていたですが、RTAにおいても大切なポイントと言えます。


 中生代では、いるはずのない人の姿を目撃するかもしれませんが、これは無視します。くれぐれも砂時計を見つけたりはしないでくださいね。


 中生代後期には小惑星が落ちてきます。ユカタン半島に落ちたその小惑星は、多くの生命を死に追いやりましたが、このイベントが引き起こされなければ、哺乳類ひいてはヒトの繁栄はあり得ません。ただ、落とす小惑星と場所は正鵠を期した方がいいです。恐竜が生き残っていると、ハ虫人類が生まれる可能性がありますので。

 

 あとこれは任意なのですが、南極にも隕石を落としておくといいかも。タイムロスではあるのですが、宇宙から飛来した菌類と古の地球人を駆逐できます。


 それが終わると、また平和な時間が訪れます。この間にトイレ休憩などを挟むのがよいかと思われます。ちなみに並走されている方あるいはいつか本RTAを走られる予定の方は、覚悟しておいてください。……この平穏は人類が誕生するまでですから。


 新生代からやっとヒトの祖先が生まれます。まだ、サルなのですが、ほっといても勝手に二足歩行し始めます。これは、ある種の力に後押しされているからなのですが、そのあたりの伏線は「永遠の闘争」や「螺旋の果てに」「イデオロギーの暴走」などのルートを参考にすると、理解が深まるかもしれません。


 そうこうしているうちに、サルは木に登り、火を用いるようになりましたね。二足歩行するようになり、前足だった手に武器を携えはじめます。


 人類史の始まりであり――RTAの見せどころでもあります。とはいえ、最初はそれほど気を張る必要はなく、人類が繫栄していく様を見ているだけで大丈夫です。注意しなければならないのは人類が地球中で国と呼ばれるものをつくって同士討ちをはじめてからなので。

 

 ただ古代ギリシャのミケーネ文明は対策をしておいた方がいいです。ここ、ランダムで機械でできた怪獣を使役することがあります。のちのち面倒なことになりますので、ゼウスの力を借りて叩き潰していた方がタイムは安定します。


 さて、人類は地球のありとあらゆる大陸に居を構え、事実上の地球の覇者となります。肉体面においては貧弱な彼らではありますが、火や道具、言葉を駆使し協力して問題に立ち向かうというのは、ほかの動物たちにはない長所です。


 ですが、同時にヒトはしょっちゅう同士討ちをします。気が付くと国がなくなっている、ということもあります――あ、やべっ。


 なんで二度も台風がやってきちゃったのよ!


 ……コホン。ちょっと乙女にふさわしくない声が出てしまったことをここに謝罪したいと思いますわ。紅茶でも飲んでリラックスしましょ。


 ちなみに、この台風はやってこようとこなくても、別にどっちでもいいです。海を挟んだ二国が戦争を行っていたのですが、侵略は長続きしませんから。


 ドンドン成長していく人類はあっという間に原子力へ手を出します。当のヒトからすればあっという間という感じはないと思いますが、宇宙誕生からすれば刹那にも満たない短い時間。光速よりも一瞬です。


 原子力の研究が行われはじめたら、注意するのは人類だけ。喋るサンショウウオのことは考えなくていいです。


 戦争をしないようにすればいいんでしょ、と思われるかもしれませんが、ことはそう簡単ではありません。


 特にユーラシア大陸下部に位置する逆三角形の国にはご注意を。この国を民主主義にするとなぜか核を使おうとし始めます。当然、世界はめちゃくちゃになってバッドエンド直行という結構致命的なバグとなってます。慣れていてもついやっちゃうので指さし確認するようにしてます。


 確認よしっ!


 あとはそうですね……バッドエンド関係だと怪しげな宗教くらいでしょうか。


 宗教の話題は私の豊満でたわわなトランジスタボディくらいセンシティブな話題です。別に宗教とか好きとか嫌いでもないのですが、このゲームにおいては明確に嫌いな宗教があります。


 そいつらに明確な名前はありません。しいていうなら邪神崇拝となるでしょうか。おぞましい神々を崇め奉る宗教。先ほど、南極大陸のお話をしたことを覚えてますでしょうか。あれも、一つの宗教団体といってもいいです。もっともその正体は謎めいており、有史以前からその存在が確認されているとか、冥王星付近からやってきたとか情報は錯綜しています。


 とにかくヤバい奴らです。人類が生み出した宗教観とは決して相いれない他所の宇宙から来た宗教は、人類が築いた文明とこれまでの私の努力を、隙あらば水泡に帰してしまう悪い奴らです。絶対許すな。こいつらのせいで何度再走したんだ。五十回以上はリセットしたんじゃないか。特にヨーグルトソースみたいな名前のやつ。絶対覚えとけ。


 ……あはは、冗談です。冗談ですから引かないでください。いなくならないでください。


 文句を口にしちゃいましたが、ここが一番楽しい場所であることには間違いありません。実際、起きるイベントの種類と頻度はどの時代よりも多いです。それだけに忙しく、ミスも頻発するのですが……。


 そのうち人類は宇宙へと進出を果たします。そうすると、ちょっと肩の力が下ります。人々は戦争をするのをやめて、遥かなる宇宙へと意識を向け始めたからです。私、ここ好きなんですよねえ。ヒトって身内で戦争していたかと思ったら、目標を見つけると一致団結する。わがままなのに愛らしいというか。


 なんか少ししんみりしてきますね。もう少しでRTAも終了だからでしょうか。


 さて、タイマーストップはエンディングが開始し、人類が平和の象徴としてミサイルを打ち上げ、それがたまたま通りかかった宇宙船にぶつかりスタッフロールが始まったら。


 はい! タイマーストップです。記録は42時間39分23秒。銀河記録更新ですね。


 完走した感想ですが、正直言って通いなれた道だと思っていたらそうでもなかったというか、ランダム性が強いためになんどもなんども再走する羽目になっちゃいました。たぶん、記録を書き換えられたとしても――そんな奇特な人がいるとして――絶対やりません。というか私もやったのだから、みんなもやりましょう。


 ねえ? やりましょうよ。

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