第17話 ブラックナイト

アルベルトは男爵が確保してくれた宿屋に泊まっていた。他の兵士たちもそうだった。

明日褒美を渡す使者が来て、その褒美のお金で宴会をして、翌日には岐路に立つ。

その予定だろうとアルベルトは考えている。領地を新しく賜るほどの功績じゃ無いしなと考えていた。いつもヘルメットとチェーンメイルを脱ぎ、ぼんやりとペンダントを触っていた。一体何の呪いなのだろうか?

だめだな。最近ファーナの事ばかり考える。

切り替えないとな。私はヘンドリック男爵様に使える騎士。第一に主君の事を考えないといけない。

「旦那様?どうしただか?ファーナ様の事でも考えていただかか?そんなに気になるならファーナ様に頼んで神殿騎士にしてもらうだかよ」

「ダメだよ。俺の家系は代々ヘンドリック男爵様に仕えて来た騎士だからね。主君を裏切れない」

「不器用ですだ」

「分かっているよ」

どごーん。突然、町中に爆発音が鳴り響く。

アルベルトはとっさに窓を開き、音のした方を確認する。

神殿に立てられた4つの塔の内に一つが崩れ去り、炎上している。

そして、ドラゴンが飛んでいる。

ファーナ!

アルベルトはそう思うと、ウォーハンマーと盾を持って、駆け出していた。

どうしてそう思ったのはかは本人も分からない。

とにかく助けないといけないと思ったのだ。


「ファーナ様、お逃げください、主塔に入れば結界があります。入って侵入者は入ってこれません」

「ダメよ、こいつは逃がしてくれない。私を守るために誰かが犠牲になるのは嫌。そして私じゃないとこいつは倒せない。足手まといなのよ。さっさと逃げなさい」

「良くも言う」

黒色の鎧と纏い両手剣を持つ騎士は言う。

「ダークネスウィンドウ」

無造作に振るわれた両手剣にから、黒い衝撃波が飛ぶ。

ファーナとっさに聖句を唱える。

「聖盾」

「ほう、手加減したつもりなのだが、防ぐとはな」

「フレイムバレット」

ダークナイトは避けない。

「大地の巫女の力とはその程度のものか?破壊神ボゾルの加護を受けた鎧を打ち抜くほどではないな」

ファーナの持つ莫大な魔力を持つフレイムバレットは1つ1つも大きな力を持つが、複数の矢を放って威力を補っている所がある。一撃必殺の火力が必要だった。

「大地の巫女、ファーナとして火山の神、ボルケイノス様に請願せん。猛々しい火炎の力を貸し与えたまえ。炎の竜の力を私に。ファイアブレス」

ファーナの杖の前に猛々しい燃え盛る炎が現れるとダークナイトに向かって飛んでいく。ボルケイノス様は大地母神の一族であるが直接の信仰はしていないので、力を借りるには一字一字正確な詠唱と時間がかかる。ブラックナイトが本気を出していれば詠唱中に殺されていただろう。

「ダークネスウィンドウ」

ブラックナイトは無造作に両手剣を振るうと、衝撃波が発生して炎の竜の火炎を打ち消した。

「どうした、もっと力を見せろ。ダークネスウィンドウ」

またもや無造作に両手剣を振るう。

「聖盾」

またもや魔法の盾で攻撃を防ぐ。詠唱をする時間を与えてくれる人がいないと、負けるわね。ファーナは初めて恐怖を感じる。アルベルト。ふとそんな言葉が頭に生まれる。

「感じるぞ、感じる。怖いのだろう。この両手剣、ソウルブレイカーで貴様の力をもらうとしよう。ダークネスウィンドウ」

しかし、ダークネスウィンドウがファーナに届く事は無かった。

「シールド」

アルベルトがファーナとダークナイトの間に立ちはだかり攻撃をシールドの防ぐ。

「ファーナ無事か?」

「アルベルト!なんで来たのよ」

「まぁ何となくな。来ないと後悔すると思って」

「馬鹿」

「ファーナ逃げろ」

アリベルトの本能が告げている。ダークナイトと自分の実力差を。こちらか全力を出しても、攻撃する事はできないだろう。しかし、怒りに燃えていた。まだ子供言えるファーナを攻撃した事、街を無差別に破壊した事、そして犠牲者を出そうとしている事、その事をアルベルトは許せなかった。怒りを冷静な力に変えて。その事だけを考えている。

「ふん、面白くも無し、地獄への手見上げに本当のダークネスウィンドウを見せてやろう」

ダークネスウィンドウで作られた黒い衝撃波がアルベルトを襲う。シールドの剣技に攻撃を防ぎ切ったが魂が削られていく。

そして、衝撃波と同時に飛び込んできたブラックナイトと目で捕らえる。

縦の無い右側から来た。

アルベルトはまだ衝撃波が残っているダークネスウィンドウの力を利用して、後ろに飛びのいた。全て勘で行い逃げた行動だった。

「ほう、ダークネスウィンドウをかわしたか。アルベルトとか言ったな。確か、盾に隠れて、味方同士を守りあう、恥ずかしい騎士の代表にアルベルトとかいたな。お前がそのアルベルトか」

「さぁね」

アルベルトはうそぶく。

「こうなればアルベルト力を貸しなさい」

「どうしようもない、大地の巫女よ、私に付いてくれば、この盾で自分を守るしかない臆病者を助けてやろう。どうする?」

「聞くな、ファーナ」

「そうね。アルベルト時間を稼いで」

「後悔してもしらないぞ」

ファーナはそんな言葉は聞いていなかった」

「大地の巫女として、命の刈り取り手として冥界神ハデス様に請願せん。我にあだ名すものに静かなる死を、デス」

ダークナイトは無造作に受け入れる。そして全く変化は無かった。

「嘘、デスの呪文が聞かない」

「ここまでだな。私のダークネスバレットを防いだ礼に命だけは助けてやろう。アルベルト。ダークネスバインド」

ダークナイトは腰に差していた五本の短剣を抜くとアルベルトに無造作に投げつける。アルベルトの周りに短剣がささると黒い雷が発生して結界を作り上げる。アルベルトを動けない。

そして、魔力が切れて、恐怖を覚えているファーナも動けない。

ダークナイトはファーナの腹部にボディブローを決めて気絶させる。

「ドラゴンよ。来い」

そう告げると上空で待機していたドラゴンが地上に降りてきて、ファーナを抱えたダークナイトが乗り込み、去って行った。

「ファーナ!」

アルベルトは叫ぶことしかできないのだった。

                                   続く

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盾と鉄槌 とある盾騎士の受難 @tomato197775

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