第28話 ベアトは三人組と復讐をくわだてる
□引き続きベアトリーチェの視点で物語が進行する
あの事件から三日経っていた。
館でカシスとすれ違うこともあったが、私はその度に屈辱を飲み込み、会釈をした。カシスから私に向けられる殺気は、以前と変わりない。
侍女ロザリナは私が心配で仕方ないようだが、慣れない傭兵団での仕事に手いっぱいで私に付きまとうことは出来ないみたいだ。
それに、ディルトとの仲も噂になっているようで、ひょっとしたら夜も忙しいのかもしれない。
□
昼の軽食をとると、マハマを訓練場へ呼び出した。
直立して向き合うと私は、少しだけ頭を下げた。
「マハマ、今更ながら……すまない。あの時、マハマは私を助けようとカシスさんに立ち向かっていってくれたのだな」
マハマは絶叫すると私の元に膝まづいた。
「ななななっ、何を言っているんですか! 俺は師範を守れなかったのです。謝るのは俺のほうです」
私は、マハマの手首を取ると手の甲に唇を落とした。
「私は、お前達の受けた屈辱を晴らしたい。ただ、私は手持ち(=お金)をもたぬのだ、どうか私に協力してくれぬか?」
マハマはよほど感動したのか、再び絶叫して血が出るほど額を地面にこすりつけた。
「恐悦至極であります! このマハマに何なりと、お申し付けくださいましぇー」
「声が大きいぞ。街に出てコレを買ってきて欲しいのだ」
「こ、これは」
マハマはメモを受け取ると、暗記したのか、そのまま証拠を残さぬようパクリとメモを飲みこんだ。
□
次にマピロを呼び出した。
マハマの時と同じように向き合い頭を下げた。
「マピロ、今更ながら……すまない。あの時、マピロは私を助けようとカシスさんに立ち向かっていってくれたのだな」
「ややややや、やめて下さい、師範! 俺は……、俺は何もできなくて……」
マピロは下を向くとグッと唇をかみしめた。
「悔しいのだな?」
「はい、自分の弱さが……」
「お前は私を助ける為に、自分より強いカシスさんに挑んだのだろう? お前は決して弱い男ではないさ」
私はマピロの胸の中央にトンッと拳をぶつけ、強く目を見て微笑んだ。マピロの顔がパッと、一気に明るくなった。
「マピロ! 力を貸してくれないか? 私はお前たちの仇を討つ」
「えっ? 俺たちの?」
「そうだ、仇をうってやる。お前、大工仕事は得意だと言っていたよな」
私はマピロに計画の内容と、彼への依頼を伝えた。
□
ディロマトを掃除用具などが置いてある倉庫部屋へ呼び出し、内側から鍵をかけた。
私は、わざとらしくも彼に後ろから抱きつく。
「ディロマト、今更ながら……すまない。あの時、ディロマトは私を助けようとカシスさんに立ち向かっていってくれたのだな」
ディロマトは鉄の柱になったかのように全身を硬直させて、もはや何も言えずにいる。
私は掃除用のバケツをひっくり返して座る。同じようにディロマトにもバケツを差し出す。ディロマトは全身を硬直させながらも、なんとか転ばずに座った。
そして、カシスへの復讐計画の全貌を告げると、ディロマトは両手のひらに汗をうかべ、ガクガクと震えはじめた。
「ディロマト、何喰わない顔をしてやればいいのよ? 犯人が貴方なんて絶対にわからないんだから」
「正直、めっちゃ怖いっす……」
(根性なしめ……最終手段に出るか)
私は懐から、丸まっている小さな水色の布を取り出し、それを彼の目の前で本来のカタチに戻すと、再び丸め込んだ。
「はわわあわ」
ディロマトは目を見開き、膝を震わせながら気絶しそうな様子を見せる。
そのまま、それを彼の手の平に握らせた。
ディロマトの顔が首から耳まで真っ赤になり、両方の鼻の穴から鮮血が流れだす。
「あっ、ああああぁ……むぐぅ」
ディロマトが絶叫しそうになるので、口をふさいだ。
「あげるわよ、大事にしてね。貴方、コレにすごく興味があったのよね? きちんと洗濯はしてあるから心配しないでね」
ディロマトは力強くうなづいた。手を口元から離してやる。
「わかったっす。おいらも男っす。やるっすよ、師範とおいら達の屈辱を晴らしましょう!」
「お願いね……」
「あ、あのコレは、マハマさん達には内緒にしてください、絶対っすよ。バレたら殺されるっす」
「わかってる、頼んだわよ」
「はい!」
私とディロマトは、二人して拳を握りしめる。
さらに二人で、悪魔のような表情で笑った。
(さあ、復讐よ)
私は機嫌よく『剣の舞』の鼻歌を歌い始める。
風がゴウと館を打ちつけると、どこかで猫が鳴いた。
***
ディロマトが手にしたもののヒントは以下の13話中にあります。
時間がある方は振り返ってみてください。
『第13話 ベアトは茫然自失となる ♥』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667950508394/episodes/16817330668374526103
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