第13話 ベアトは茫然自失となる ♥

*後半 暴力的・性的描写があります。



「そうか、良かった、とりあえず私の責任は果たせたのだな」

 そう言い、ようやくベアトリーチェはホット・ココアを一口飲んだ。


「ただ、私を守って死んでいった者たち、近衛兵長、ロザリナ……」

 ベアトリーチェの目から体から、気迫という纏っていたものが目に見えて小さくなってゆく。


「そいつらだって自分の責任を果たすために戦ったんだろ。立派だよ。そして王女ベアトリーチェも責任を果たして死んだ。これから、どう生きるか……は、お前しだいだ」


(と、言ってもお前は俺の奴隷なのだが)


「……私は、死んだのか」

 ベアトリーチェの強い気迫と輝きは完全に消え、くすんだ空気が彼女の周囲を覆っていく。




 コンコン。乾いた音が響く。 

 ユキの部屋をノックする者達がいる。足音や気配から推測するに、数にして三人ほどだ。

「はーい、誰かな?」

 ユキの問いにすぐ返答がかえってくる。

「マピロはじめ以下二人です」

「どうぞ、入っていいよ」


「失礼します、ユキさん! え、ええ? なんで団長がいらっしゃるんで? 部屋にはユキさんとベアトさんの二人だけって聞いたのに」

 扉を開け勢いよく入って来た三人だが、俺の存在に気づくと極度に硬直した。

「なんだか俺がこの部屋にいちゃ悪いようだな。嘘の情報をつかまされてるんじゃねえぞ」

 

 俺が凄むと三人はさらに縮みあがった。しかし、ユキは俺を制するように手で合図をすると、三人にむけて喋り出す。

「要件は? ちょっと今、込み入った話をしているんだよ」

「あ、あのう、ベアトさんにお詫びの品を持ってきたんです。さっきは、渡せなくて」

 団員のマハマが差し出したのは、飾り箱に入った美しい水色の髪留めだった。


 その水色の髪留めが、俺の心をわずかに揺らした。


「お前らこれ『べっ甲』という素材の高級品じゃないか! めちゃくちゃ高かっただろうよ」

 ユキが丸縁眼鏡を持ち上げ、驚きの声をあげる。

 

 俺はあまりのくだらなさに驚く、ため息すら出なかった。

「なんともメデタイやつらだ。自分らを暴行した女に詫びの品かよ、俺には理解出来ねえ」


「ほらっ、ベアト」 

 呆れる俺を無視するように、ユキがベアトリーチェに髪留めを手渡した。

 団員三人は俺に恐怖しながらも、髪留めを手にするベアトリーチェの様子を気にしているのが見てとれる。


(これだ、ベアトの野郎には、人を惹きつける魅力がある。兄王が恐れて追放し、あげく亡き者にでっち上げた訳だよ)


「……ありがとう」

 三人に礼を言い、髪留めを手にするも、やはり彼女の表情は死んだものだった。


(まあ、ベアトの野郎がこうなるのも無理はない話なんだがな、どうしたものか……)


「おい、お前たち。今日の事件を俺にくわしく説明しろ。誰が最初に風呂を覗こうと言い出した? なぜベアトに気づかれた? どんだけボコボコにされたんだ?」

「「「は、はひ」」」


「緊張しているのか? よおし、お前ら、今日は俺の高級ウィスキー・ベヒーモスを無料タダで飲ませてやる。食堂から軽食つまみとグラスを持って来くるんだ」

「「「はい!」」」




「最初にマピロの野郎が、自分だけ覗いてやがったんだ。コソコソとな、ほんとうに卑怯な奴よ」

「マハマが屁をこいたせいで見つかったんです、団長」


「ディロマトは、ベアトさんの下着を手に取ってましたぜ」

「うわあ、それ、ベアトさんの前で言わないでください。マハマさん、ベアトさんの一撃で沈んだっすよね」


「二撃だよ、調子乗ってんじゃねえぞ、それに一回は避けたんだ」


 団員三人の語る馬鹿話は、そこそこ面白いものだった。

 飲みはじめるとすぐに酔い、勢いづくようにベヒーモスの瓶を俺から奪い取った。

 ユキがたくみに話を誘導すると、彼らは調子に乗って更にくだらない事、街の裏情報から団員同士の下世話な話を、身振り手振りの絶叫をまじえ喋りだした。


 そして、ベアトリーチェが気になるらしく、それぞれが遠回しに話をふったりジョークを言っていたが彼女の反応は薄いものだった。

 それでも彼らは、ベアトリーチェと同じ空間にいることが幸せなようだ。


 結局三人はベヒーモスを瓶ごと平らげ、ユキの部屋だというのにつぶれて動けなくなった。そのまま、床にいびきをかきながら寝てしまう。

 ユキも面倒くさくなったのか、ベッドに身を投げ出すようにいつの間にか眠っていた。



 夜の街の喧騒はまだわずかに聞こえてくるが、館の中は静かになっている。どこからかフクロウの鳴き声が聞こえ、三日月の光が窓から差していた。


 ベアトリーチェと俺は、まだテーブルで向かい合っていた。

 テーブルの上には氷の解けたウィスキーグラスが残っている。


「ベアト、お前、酒は飲めるのか? 飲むか?」

「……いらない」


 床の上から唸るような音が聞こえた。ベアトリーチェが床に目を移すと、酔いつぶれていびきをかいている三人組だった。彼女は、その寝相を無表情に見つめている。


「傭兵団長……貴様は、奴隷として私を買ったと言ったな。私は、何をすればいいのだ。私は王宮育ちゆえ、貴様の身の回りの世話など出来ぬぞ」


 思わず脱力した。失笑するしかなかった、いかにもこの女が言いそうなことだったからだ。

「お前、よほどの世間知らずなのか? お前みたいな奴隷がまともにできる仕事など、ひとつしかないだろう」


 俺も少し酔っているのだろう。顎をあげると口を半開きにし舌を出した。そこからあからさまに、見下した目線でベアトリーチェを眺めた。

 ただ、この挑発するような俺の顔を見ても、やはり彼女の目は死んだままっだった。

 俺の期待したような反応は、帰ってこなかった。


「……わかった、貴様の部屋にいこう。私を抱いて満足したら、少しで良いから一人にさせてくれ」


 出した舌を噛まないようにひっこめた、今度は腹をかかえて笑いそうになったからだ。

 そこそこに面白い、グッとくる反応だ。


「はっはっは、馬鹿か? お前のような小娘を抱いたところで、俺が満足できるわけがないだろう。顔も、そこまでタイプじゃないんだ。部屋に行くまでもない、お前は今からここで、この硬い床の上で俺に抱かれるんだ」


 生気がなかったベアトリーチェの顔に、わずかに嫌悪感があらわれた。

「……クズ野郎……」


 わずかに示された反抗的な態度に、俺の情欲がさらに疼きだすのを感じた。


「その許せねえクズ野郎に、お前は今から抱かれるんだ。、ユキとベッドで朝まで寝てろ。……お前が今、一人になることは許さねえ」


 ベアトリーチェの放つ嫌悪感が、少しづつ強くなってくる。


 ベッドで横になっているユキが片目を開け俺を見る。


 俺は立ち上がると、わずかな抵抗をみせるベアトリーチェを椅子ごと床へと強引に押し倒した。


 テーブルの上のウィスキーグラスを手に取る。残っていたぬるい酒をベアトリーチェの顔にかけると、無理矢理に衣服を奪い取る。


 もっと抵抗しろ、俺を楽しませろよ。

 そう呟きながら、乱暴に彼女を扱っていた。

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