…HAPPY END 未来へ
──結衣を助ける。
僕は彩音を引きはがした。
そして彩音に向かって言った。
「傷つこうが僕は僕だ。彩音にこれ以上心配される必要はない。いや、それは心配しているんじゃない、僕の体を所有しようとしているんだ。所有したり、コントロールしたり、もうたくさんだ!」
本性を暴かれた彩音はギリギリと歯を食いしばる。
「結衣が僕を殺すことで生きていけるなら止めない。僕は高校の時から結衣に同情して、助けようとした。安易なことをしようとしたんだ。責任を持たないといけない」
彩音は結衣から離れ、
「くだらない」
と吐き捨てると部屋から出ていった。
結衣は僕を見ている。
その目は縋る目でもなければ依存する目でもない、ましてや狂気に満ちた目ではない。ただ、僕を心配しているかのようだった。
心理学科棟の鍵は彩音が開けたらしかった。
ピッキングでもしたのか、彼女ならやりそうだった。
僕たちはとりあえず僕の家に帰った。
彩音から逃げる必要はないからだ。
血まみれの姿が警察に通報されないように、裏道を通って帰った。
家に着き、傷口を清潔にすると、結衣はバックからガーゼと包帯を出して手当てをした。
「消毒液を使うと細胞まで殺すから治りが遅くなるの」
「手慣れてるな」
苦笑いしかできない。
余計な会話はなしに手当ては続いた。
手当てが終わって、結衣はいった。
「謝って済むとは思えないけど――」
そう言いかけて言葉を変えた。
「隼斗のおかげで生きてていいって思えた。絶対に裏切らないで」
「絶対に裏切らない。人ひとりの力なんて限られている。他人を何人も救うことなんて容易ではないし、原理的に不可能だと心理学を学んでいれば薄々気づいてた。僕は怠惰だったけど、学校の勉強くらいはしてたよ」
僕のコンプレックスは結衣となって現実化し、そして結衣を助けれたことでとりあえず収まった。罪悪感や贖罪への強迫観念、そしてそれを実行できない臆病さにより、未来へ進めなくなるという停滞は終わった。
結衣を助け、結衣を選ぶとういことは、贖罪であり、罪悪感の存在理由の消滅だった。
僕は、未来への展望が見えた気がした。
「とりあえず、自習室を血みどろにしちゃったことを何とかしなくちゃいけないな」
「学校からは親を呼び出されて怒られるかもね」
大変な騒ぎを起こしながらも、なんだか未来が明るいような気がする。
一つひとつ解決できる。
未来というものも、
そう悪くないのかもしれない────。
罪と同情〜まともな女に好かれない〜 秋姫 @toki63
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