…BAD END 永遠に一緒


──彩音を殺す。



僕は、結衣を助けるために思い切り彩音に体当たりした。


そして動けないように首を絞める。

僕は憎しみを込めてぎりぎりと彩音の首を絞めながら叫んだ。


「お前は、僕をモノのように扱って、コントロールして、そしてホルマリン漬けにしたいんだって!? そんなの恋愛じゃない! 僕はお前の、おもちゃじゃない!」


怒りを込めて首を絞めていると彩音は苦しそうにしながらも口角を上げ、辛そうに笑った。


そういえば手足はじたばたしていない。

抵抗する様子がない。思わず手を緩める。


「あ……ありがとう」


かすれた声でそう言った。彩音が首を絞める嗜癖しへきがあるということを思い出す。



異常なほどのバイタリティと頭の良さの裏に――。



僕は彩音に馬乗りになって殺そうとしている。彩音はとにかく頭が良くて狡猾で、プライドが高かった。まるで虐げられたことがないかのような、そして虐げられたかったかのような喜びがそこに垣間見えた。


本当のところはわからない。


それでも今、こうして床に押し付けられ、屈辱ともいえる体勢で終わりを迎えようとしていることに満たされるかのような笑顔を浮かべている。


もしかすると彩音は心のどこかで虐げられたかったのかもしれない。

僕は、それを叶えてやることができるかもしれない。


もはや理性とか、社会性とか、法律とか、そういうものは計算になかった。

ただ目の前の壊れてしまった彩音を助けたかった。


それはいつか、結衣に対して思ったことと同じ。ただ目の前の一人を助けたいというのは、自分一人を犠牲にしなければできない。



だから――



僕はぎりぎりと彩音の首を絞め、彩音は動かなくなった。


焦燥と絶望が全身に広がった。


もう僕は普通の社会には戻れない。


でも、彩音を助けた、そう信じようと頑張った。だから、罪悪感なんてないんだ!


後ろから肩を叩かれる。振り向くと目の前に死んだ目の結衣の顔があった。


「私を選んではくれないのかな。でも、殺したら刑務所に行っちゃうよね。私はあんまり握力ないし、ここにはカッターナイフしかない――」


激痛が走って目の前が真っ赤になった。


いや、何も見えなくなった。

顔を手で覆っても手が見えない。



「どう?私のカッターナイフさばきは。一発で両目を仕留めれたでしょ」



僕は絶叫していたかもしれない。

だがそれさえも自覚できない。



「あなたが目に見えた最後の人は、この、わ・た・し。結衣があなたの目に焼き付けられた最後の人。これで永遠に一緒だね!」


その後、僕は失明したまま収監された。

懲役が何年になったか、あるいは無期だったのか、もうどうでもよかった。


目の前には狂気の笑みを浮かべた結衣の顔が見える。



それはいつまでも、


いつまでも、永遠に見え続ける────。

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