第4話 閉じるなら堅牢に


 無言で全てのカギを試したアイラが、ようやく手を止めて息をつく。


 やはりどのカギもこの扉には合わなかった。


「ミラー。次の閉まった部屋に行く? でも私、ちょっと気づいたんだけど」


 アイラはそこで気まずそうな表情になって、


「よく考えたら、この扉に合うカギが無いってことは、他の部屋で他のカギを試したとしてもおそらく無理よね――だって、使えるカギと使えないものが同じ束に混じってるのは、変だもん」


「……まあ確かに」


 予定では母屋と別棟の離れの、閉じられた部屋をひととおり回ってみるつもりだった。


 しかしアイラの言うとおり、まとめられた鍵束の一つが母屋で使えないとなると、この建物のカギではない確率が高いと気付く。


「じゃあ別棟の方か?」


「それも無しだと思う。別棟でカギのかかってる部屋はここよりも少ないのよ」


 ミラーは指摘されて、少し沈黙する。


「それならもう一度、父親の書斎に戻って手がかりを探そう」と提案してみた。


 だが妹は渋る。


「パパの書斎に? だけどあの宝石箱にはこの鍵束だけしか入ってなかった。他にも関係ありそうなものは無かったわ」


 だとすると、最初にミラーが予感したようにこのカギの使い道は自宅には無いのかもしれなかった。

 そうなればミラーとアイラは落胆するしかない。


 せっかく秘密の場所があると思ったのに。


「……ねえ、地下に行ってみる?」


 ふとアイラは思いついた事を口にする。


 敷地のどこにもそれらしい場所が見当たらないとすると、残された可能性としては全貌が見えない所にあるのではないか――それは唐突な閃きだった。


 二人は通ってきた階段の方まで歩いて戻ると、納戸の横からさらに奥の通路へと入って行った。


 地下の入り口の扉。


 引き戸を開けて、電灯をつける。コンクリートの階段を降りていくと、そこには広いスペースが広がっている。


 ここは物置や倉庫代わりのように使っているので、大小問わず物があちらこちらに積まれていた。


「埃くさい」とアイラが軽くむせる。

 兄が箱を寄り分けて周りを調べ始めたので、彼女も手近な壁と棚の隙間を何となく見てみた。

 ……ほんとにこういう所に、隠し扉とかあったりして。


 地下は薄暗かった。


 ほどなくしてミラーが「あっ」と小さく声を上げる。どうしたのだろうとアイラがそちらに向かうと、兄は床に屈んでいる。


 ちょうど地下室の中央より右の棚の下――床に取っ手のついた扉を見つけたのだ。


「もっと下に降りられるの?」


 アイラは驚いて言った。ミラーは手早くその周りの物をどけて、扉を開いても十分なほどの空間を確保する。


「地下二階……」


 彼の声は興奮でうわずる。

 地下の下にまた地下があるなんて、両親から聞いたこともなかった。


 隠していたのは父と母のどちらだろう?


 ともかく現に、床の上には扉がある。


「でも、ただの収納スペースかも」


「開けてみよう」


 まるで妹が興を削ぐのを阻止するかのように。ミラーは扉のかんぬきを外した。

 続けて両手を扉の取っ手にかけると、ゆっくりと上に引き上げる。


 扉は少しきしみながら開いた。

 その先には、暗くて細い階段が続いている。

 


 

 

 


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ベリーウェルダンの雛たち 秋鹿 @kingyo_no_kuso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ