第3話  I'm a clean freak.


 この拾った鍵束は別として――ミラーとアイラが持っている「家のカギ」といえば、共通して特に大切なのは玄関のドアのカギである。


 現在、この家の玄関はカードキーで開ける仕様になっていた。


 両親の車があるガレージにはリモコンキータイプのものを使う。

 二人は普段、それらのスマートキーに慣れていた。


 なので尚更、得体の知れない鍵束に心を射抜かれた面も強いのだろう。


 とはいえ、いったん家の中に入れば鍵穴に直接カギを差し込むタイプのドアもいくつかあった。

 家のカギを主に管理しているのは二人の母親であり、その在処については知らない。


「でもいつもはカギをかけないままの場所も多いから――それみんな、調べてみる?」とミラー。


「一応ね。鍵穴が合うかどうか見てみましょう」


 アイラはそう促して、兄の背中を押して急かした。


「ほら、早く回らないとそのうち日が暮れちゃうし」


 時刻は午後四時。季節は十月。


 まだ日は落ちないが、家の中は外よりも暗くなるのが早い。


 ミラーが通りがけに階段下の納戸に立ち寄り、小型の電灯を持ち出した。


「そういえば、アイラ。いつまでゴム手袋をしたままでいるの?」


 聞かれてもアイラは手袋を外さない。


 彼女はもともと潔癖症気味で、さっきもミラーが鍵束を素手で触るのを咎めていた。


「これから知らない扉を触るかもしれないから、後悔してからじゃ遅いもの」


 実際ワクワクしていた。

 が、同時に慎重でもいたい――それはまるで、兄よりも自分の方が分別があるのだと言わんばかりだ。


 ミラーはそんな妹を一瞬だけ鋭く見つめたが、すぐに顔を逸らした。

 彼にとってはいつものことだったからだ。


 東側に並ぶ窓を右手に、二人は心持ち早足で廊下を進んでいく。


 長い廊下が続く。


 やがて北の突き当たりにあたる場所に、一つの扉が見えた。


 そこはかつて居室でもあったが、現在は使わずに閉じられている。


 兄妹が覚えている限り、ごくたまに掃除のために出入りする程度の――それも今まで数えるくらいしか入ったことのない部屋だ。


 まずミラーが扉のドアノブを握り、カギがかかっていることを確認した。


「やっぱり開かない。母さんが持ってるカギじゃないと……」


 呟く兄の横からアイラが身を乗り出し、さっそく鍵束を取り出すと合致するカギを探り出した。


 一つずつ。


 手袋をした手でカギをとっては、鍵穴に差し込んでみる。

 合わなかったら、次のカギに切り替える。そしてまた合わなかったら、即座に次を。


 二人以外に人のいない廊下に、ガチャガチャと金属音が響く。




 


 

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