【断罪の月】編
第92話『咎人は月下にて裁かれ①』
捧げましょう、我らが神に感謝を。
善を愛し、悪を許さぬ我らが神。正義を司りし我らが神。
空を仰げば、いつでもそこに神はいらっしゃいます。
昼は太陽。夜は月。そして昼夜を問わず天に御座すは『神の目』。
決して沈まず、空の頂点にて我らを見守る、暖かき光にございます。
かつて我らは、理知を弁えぬ蛮族の圧政に苦しんでおりました。
搾取され、虐げられ。人々は皆、先の見えぬ暗闇の日々に怯え暮らしていたのです。
ですが、神は我らを見捨てませんでした。
空に『神の目』が顕現なされた日、忌むべき蛮族は一人残らず滅ぼされました。
神の光に目を潰され、裁きの刃に全身を引き裂かれ、その無残な屍を路傍に晒しました。神の怒りに触れた蛮族たちは、未来永劫に救われぬ運命を辿ることとなったのです。
おお、敬うべき神よ。
今日も神を信じ、善を愛し、正しき行いに努めましょう。
さすれば神は、我らを護ってくださいます。そして、善を愛さぬ咎人には、神がしかるべき裁きを下してくださいます。
喜びましょう、暖かき『神の目』の下にあることを。
善のみが栄え、悪の潰える理想郷に暮らせることを。
そして心得ましょう。人を殺める者にも、財を盗む者にも、詐術を働く者にも――如何なる咎人にも、平等に凄惨なる死が齎されるのだと。
どのような咎人にも、平等に。
傷病に苦しむ者に安息を与える殺人でも。飢えに苦しむ子供がパン屑を掠める窃盗でも。友を揶揄う他愛ない嘘でも。
それは例外なく、神の怒りに触れる行為なのです。惨殺に足るべき過ちなのです。
ですから皆さん、どうか今日この日も、正義の道を違えずお過ごしください。
どうか、どうか。
決して疑わず、決して迷わず。
逃げるなどあってはなりません。正義たる『神の目』から逃れようなどということは、即ち悪に染まったということです。五体を引き裂かれるに値する過ちです。
我ら神の下僕は、清廉なる志をもってこの地に永住する以外に道はないのです。
だから、どうか。
お願いします。
これ以上、誰も死なないでください。殺されないでください。正しくあってください。正しくあり続けてください。
いつか助けが来るまで。
諦めない、でっ、
――――――……
【断罪の月】
有史以来、複数回の出現が確認されている悪魔。危険度は最上級に分類される。
その姿は月に酷似しており、昼夜を問わず空の頂点に位置し続ける。
過去の資料から『裁きを与える』という人々の願望に基づいて発生した悪魔と類推される。
圧政者や犯罪集団などによって生存を脅かされている国や地域に出現。
民衆に脅威を与える存在を短期間にて皆殺しにするため、当初は神聖な存在として崇拝される傾向にある。
しかし、『裁き』の対象が徐々に拡大していく傾向がある。
まずは凶悪犯の大量殺戮に始まり、それらが一掃されれば微罪を犯した者も惨殺される。果ては日常の些細な罪まで処刑の対象となり、無垢な赤子ですら生存を許されぬようになる。
その性質から『都市・国家単位での皆殺し』が常のため、出現のたびに甚大な被害をもたらす。また、過去一度として討伐された記録がなく、具体的な能力や生態については多くが詳細不明となっている。
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