第80話『財宝を暴く⑤』
「候補生の方の指導も兼ねているので、と~っても簡単で安全な任務を紹介して欲しいんです。お願いできますか?」
事務方の部署を訪れた私は、にっこり笑顔でそう頼んだ。
前回は失敗してしまったが、懐柔工作で築いた人脈は未だに有効だ。事務の面々は喜んで任務のリストを総ざらいしてくれた。
「ほ、本当によろしいのですか? メリル・クライン様ほどの方ならば、もっと上級の任務に行く予定だったのでは……?」
「いいんですいいんです。若手を応援してあげるのも大事な仕事ですから」
おずおずと遠慮してくるシャロに、私は寛大な態度で返す。
上級任務だなんてとんでもない。私が求めているのは純然たる雑魚狩り任務だ。
「メリル・クライン様。それでは、こちらなどは如何でしょう?」
しばらく待っていると、事務方が書類を持ってきた。
私は「ありがとうございます~」と微笑みながら書類を受け取る。そこに書かれていた内容は――
『当地域の港湾にて鮫が小型船を襲う被害が相次いでいる。住民たちの間では鮫の悪魔が出没したと噂されているが、実際は鮫の大群が湾内に迷い込んだだけの事態と見られる。ついては、風評の払拭のため応援を願いたい』
私は文面をじっと読み込む。
悪魔被害ですらない。ただ鮫の大群が発生して困っているというだけの内容だ。
「これって、具体的に何をするんですか?」
「鮫の駆除です」
「鮫の駆除」
「メリル様なら水面を叩くだけで鮫をすべて失神させられるでしょう。何より悪魔が相手の任務ではありませんから、不測の事態もありえません。候補生の方の指導にはうってつけの案件かと」
ふざけるな。
感覚ちょっと麻痺してるだろお前ら。悪魔じゃなくとも鮫の相手だって十分危険だわ。
「そ、それならわたしも頑張ってみますっ! 水面を叩いて失神させる……というのは難しいですけど、素潜りすれば二、三匹くらい捕まえられると思いますっ!」
こいつもちょっとおかしい。
謙遜してるかもしれないが、鮫を素潜りで捕まえようというのは完全に異常者の発想だ。
「え~っと。そういうのではなくて、もっと別のはありませんか? いちおうは悪魔の案件で。でも【弔いの焔】みたいな、簡単に対処できる弱い悪魔で」
「それでしたら……少々お待ちください」
複数の事務員たちが書類を交わし合って、あれがいいこれがいいと議論し始める。
そのうち、誰か一人が思い出したように言った。
「そうだ! あの【蟻】の件をお任せするというのはどうでしょう?」
その提案に一同が「おおっ!」と揃って声を挙げた。
その手があったか、とばかりに全員が頷いて、なぜか喜ばしげに手を叩いている者すらいる。
「すいません。【蟻】って何ですか?」
「はい。先日【迷宮の蟻】という悪魔が確認されまして――」
「あっ、それ知ってますっ!」
少しだけはしゃいだような表情でシャロが声を発した。
「蟻の巣みたいな地下迷宮を造って、その中に財宝を隠す『宝を護る悪魔』ですよねっ! 性質上、遺跡などの近辺で見つかることが多いとかっ!」
そこまで言ってから、シャロは顔を赤くして口をつぐんだ。
「え、えっと。申し訳ありません……出過ぎた発言を……」
「いえ、別にいいですけど。今の説明は合ってるんですか?」
私が問うと、呆気に取られていた事務員が思い出したように首肯する。
「ということは、迷宮に潜って悪魔を倒してこいという任務ですか? ううん……申し訳ないんですけど、それはちょっと候補生の方には危険が大きいような……」
「いえ。現地に赴いた聖騎士隊が【蟻】を討伐し、既に迷宮の隅々まで踏破・制圧しております」
却下しようとした私だったが、思わぬ言葉に首を傾げる。
悪魔は既に討伐済み? それでは私の出る幕などないではないか。
「ですが――迷宮のどこを探しても宝が見つからないのです。そしてこの【迷宮の蟻】は、宝を見つけ出さない限り何度でも復活するのです」
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