第79話『財宝を暴く④』
※前話(第78話『財宝を暴く③』)につきまして、内容を全面的に変更しております(主に新登場キャラの設定・性格など)
修正前の内容だと、今後のストーリー進行に支障が生じる形となっておりました。事前の検討不足で大変申し訳ありません
また、今回の修正に伴って更新が大幅に遅れてしまいました。こちらも大変申し訳ありません
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しまった、嫉妬のあまりつい感情的になってしまった。
蛇に睨まれた蛙のように慄く少女に対し、私は慌ててフォローを入れる。
「ほ、ほら! 誰にでもいいところはあるんですから! そんなに悲観的になってもいいことはありませんよ!」
「す、すみませんっ。気を付けますっ」
ぺこぺこと眼鏡の少女は頭を下げる。
危ない。こんな小娘ごときに本気でキレてしまえば、私が小物のように思われてしまう。
「ああ、そうだな。まずは心根を強く持つべきだ。そこまでオドオドとしていては、とても悪魔と相対などできんぞ」
と、そこで白狼が口を開いた。
眼鏡の少女は「ひゃっ!」と飛び退く。積み重ねて抱えていた本がぐらりと崩れかけ、彼女は慌ててバランスを取り直す。
「どうだ娘よ。この小娘に仕事ぶりを見せてやったらどうだ?」
「へ?」
「以前、あの
ちょっと待て。確かにあれは私の功績になっているが、実際のところユノが自力で覚醒しただけである。同じように他の奴を鍛えるなんて無理に決まっている。
「で、ですがメリル・クライン様とわたしでは力量が違いすぎて……」
「案ずるな。確かにこの娘は最強の力を持っているが、単純な力とは別の強さも持っている。学ぶところは多いはずだ」
おいコラ。犬畜生のくせして勝手に話を進めるな。
私は許可していないぞ。こんな無自覚マウント女の面倒を見てやるなど冗談じゃない――
(ん? 待てよ?)
本職の悪魔祓いには劣るが、この少女もかなりの戦力であることに間違いはない。
指導という名目であちこちに連れまわして、私の身辺警護を務めさせるのは案外アリではないだろうか。
実力不足とはいっても、凶悪な悪魔を避けて安全そうな任務だけを選べば、十分に役をこなしてくれるだろう。
「ちょっと聞きたいんですけど、候補生って訓練とか忙しいんですか?」
「い、いえ。教会に来てすぐのころはそれなりに訓練もあったのですが、わたしは戦闘職には力不足ということで、近頃は別方向の自主研鑽に励むよう言われており……。ただ正直、何をすればよいかよく分からず……」
よっしゃ。
つまり暇を持て余しているというわけだ。多忙なユノやヴィーラと違って、いつでも私の手駒として呼び出せる。
眼鏡の少女は抱えていた本をくいっと軽く持ち上げる。
「で、でもっ。とりあえずたくさん本を読んで勉強はしてましたっ。悪魔とか悪魔祓いについて詳しくなれば、もっと力の扱い方とかも分かるかなって」
「ほぉほぉ。それは感心ですねぇ。でも、やはり実践に勝る経験はありません――どうです? 狼さんの言うとおり、私のお仕事に同行してみませんか?」
畏れ多くも聖女の娘からの申し出である。
快諾以外の返答はありえないと踏んでいたが、
「お気持ちは嬉しいのですが、わたしたち候補生は一人前の悪魔祓いになれるまで、戦闘への参加が禁じられておりまして……」
躊躇いがちによこされたのは、意外な答えだった。
「え? なんでですか?」
「ほんの僅かではありますが、わたしたちも『奇蹟を授かった』身です。もしそれが悪魔に討たれてしまったら、神の思し召しに反してしまうと……」
「なるほどな。仮にも『神の遣い』とされる者が討たれれば、教会の沽券に関わるというわけか」
白狼が一人で合点がいったように頷いた。
こいつは馬鹿だが意外と理解は早いのだ。
しかしまあ、そういうことなら大した問題ではない。教会の沽券よりも私の身の安全の方が遥かに大事だ。どこかの誰かが決めた杓子定規な規則など知ったものか。
「それについては心配ないですよぉ。私がいるんですから、危険な目になんて遭いません。大船に乗ったつもりでいてください~」
実際は大船どころか泥船だが、現場に引きずり出してしまえばこちらのものである。
私はぐっと少女に顔を近づけて、
「ところで、あなたのお名前はなんていうんですか?」
にっこりと笑って問いかける。
眼鏡の少女はあわあわと照れたが、ややあって伏し目がちに答えた。
「え、ええっと……。シャロ・ミストラルと申します」
―――――――……
「メリルちゃんも成長してきたわねぇ」
聖女は自宅のリビングで自作のスクラップ・ブックを広げていた。
丁寧に切り貼りされたその記事は一か月前のもの――エルバとの条約締結における、メリル・クラインの活躍を報じたものだ。
今日、教会本部へと発ったのも、新たな手柄欲しさのためだろう。娘のそういう性格はよく分かっている。
だが以前までならば、こう簡単にはいかなかったはずだ。
たとえば白狼の事件を解決した直後であれば、ここまで賞賛を受けたとしても、娘は決して自発的に任務をこなそうなどと思わなかったろう。
数度の事件解決を経て、娘の内心でも少しずつ何かが変わりつつあるのだろう。本人がそれを自覚しているか否かは分からないが。
「――もうじき、私のお節介もいらなくなるかしら」
果たして娘は、どんな土産話を聞かせてくれるだろうか。
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