【亡国の戦神】編
第56話『誰が為の戦か①』
「撃て!」
号令とともに無数の銃声が響いた。
横一列に並んだ聖騎士たちが構えているのは、速射性に優れる最新式の長銃である。そこに装填されているのは、悪魔祓いによって聖別された銀の弾丸。
先頭の聖騎士が弾を撃ち尽くせば、後列の聖騎士が入れ替わって斉射に加わる。
一分以上も絶え間なく銃声が響き続けた後、周囲は灰色の硝煙に覆い尽くされていた。
そして漂う硝煙の向こうで――すべての弾を受けきった悪魔が嘲笑った。
『つまらん豆鉄砲だ。この程度で私の首を獲れると思ったのか?』
煙の向こうで巨大な悪魔の影が蠢く。
まるで天に届く巨城のような威容。斉射を終えた聖騎士たちは、その圧倒的な存在に僅かだけ震えを覚えた。
「いいえ、少しでも弱らせてくれればそれで充分です」
聖騎士たちが気圧される中、一人の少年の声が響いた。
聖なる紅光の弓矢を構え、まっすぐに煙の向こうの巨影を見据える少年――ユノ・アギウスは、怒りすら滲ませる鋭い語気で悪魔に問いかける。
「悪魔よ。最後にもう一度だけ問います。本当にそれ以上、語ることはないのですか?」
その問いかけを聞いた悪魔は、煙の向こうで失笑を漏らした。
『最後。最後か。まるで貴様ごときがこの私を討ち取れると思っているかのような言いぐさだな』
そうして、煙の向こうから悪魔はユノを見据える。
『くどい。私はもうすべてを語り終えた。その上で貴様らに望むはただ一つ。我が首を獲ってみよ――それだけだ』
「ならば」
ユノの身から烈火のごとき紅い光が立ち昇り、渦を巻いて矢の先端に収束していく。
「僕は全身全霊を以て、あなたを討ち果たしましょう。あなたは――討つべき悪魔です」
轟音。
ユノの弓から紅い光条が放たれ、煙の向こうに聳える悪魔の巨体を撃ち貫いた。さらに、炎のごとき紅光が悪魔の全身を覆って焼き焦がしていく。
その光景を見て、聖騎士たちがこぞって歓声を挙げる。しかしユノは、力の大半を使い尽くして地面に膝を付きつつも、警戒の色を崩さず煙の向こうをじっと睨み続ける。
『足りんな』
そのとき、煙の向こうで悪魔が吐き捨てた。
巨体に穿たれていた風穴がみるみるうちに塞がり、全身を焼かんとしていた紅光も次第に衰えて消えていく。
『既に私の敗北は決している。されど、貴様らごとき雑兵にくれてやるほど、こちらの首も安くはない。私は誉れ高き【戦神】なのだから』
ユノの渾身の一撃をものともせず、再び悪魔はその威容を取り戻す。
そして目の前に並ぶユノや聖騎士たちを睥睨し、高らかに言い放つ。
『教会の者どもよ。私を討ちたくば――連れて来い! 真の
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