第31話 最悪にならぬように
護衛生活一日目。
「……なんでしょうか?」
「タマラさん。あなた、ホウソーンからいらしたんですよね?」
「それがなにか?」
「いろいろとお話を聞かせてくださらないかしら?」
昨日、盗賊に襲われたというのにシャロンは元気そのものだった。普通、ショックで何日か寝込みそうなものだが、どうやらこの子はかなり神経が太いらしい。
「お嬢様、今日はお休みになられたほうが」
「何を言うの! こんな機会は滅多にないのよ! いろいろとお話を聞きたいじゃない!」
どうやらシャロンはタマラに興味津々らしい。まあ、そうだろうとは俺も思う。盗賊に襲われそうになっていたところに突然現れた謎のメイド。それに興味をそそられない人間は滅多にいないだろう。
「私についてのことは昨夜お話したと思いますが」
「もっと! もっといろいろ知りたいの!」
「もっと、ですか……」
「お嬢様、あまりわがままは」
「少しくらいわがままを言ってもいいでしょう! 私は昨日暴漢に襲われて命を落とすところだったんだから! それにね! そのおかげで外にも出られない! お話ぐらい聞いてもいいじゃない!」
……確かに、そう言われてしまえば返す言葉もない。自分には全く非がないのに命の危機にさらされて、その上危険だからと屋敷に閉じ込められているとなれば、不幸と言えば不幸だ。
「ねえ、お話聞かせて! なんでもいいから!」
「……わかりました。用事を済ませてからでよければ」
「用事? なにかあるの?」
「少し、庭をお借りできますか?」
「ええ、いくらでも貸してあげる」
と言うわけで許可も下りた。
さて、訓練を始めよう。
「わあ! なにそれ!? あなた魔法使いなの!?」
「……まあ、似たようなものかと」
屋敷の庭を借りて銃の訓練。を、しようと思ったのだが、当然のようにシャロンたちもついてきた。
まあ、いいか。別に秘密にするようなことでもない。
「私もよくわからないもので」
「わからない?」
「はい。借り物ですので」
借り物。いい判断だ。借りている物だと言えばこの力について追及することも減るだろう。さすが有能タマラ。
「私もこの力については詳しくはわからないので、今からいろいろと確認しようかと」
「そうなのね! じゃあ、さっそく見せてちょうだい!」
「……いいんですか?」
……これは俺への問いかけだな。
「まあ、いいんじゃないか?」
「なにか問題があるの?」
「……わかりました」
危険は、無いだろう。弾に当たらなければ特に危険はない、はずだ。
「……気を付けてくれ。俺の声はキミにしか聞こえていない」
「では、絶対に私の前に立たないでくださいね」
……なんだか無視されているみたいでちょっと傷つくが、下手に返事をしないのはいい判断だ。うん。
「まずは昨日のハンドガンからだ」
ハンドガン。オートマチック式の拳銃だ。グレッグなのかベレッタなのかトカレフなのかはわからん。とりあえず俺の想像するスライド式のハンドガンをイメージして実体化させた。
「次はサブマシンガン。次がアサルトライフル。その次が、たぶん対戦車ライフルだ」
さて、ここからは本当にどこの銃なのかはさっぱりだ。メガネには興味はあるが、銃はそれほど詳しくない。もっといろいろな物に興味を持っていればちゃんとした物をイメージできたかもしれんが……。
「次がドラムマガジン式のショットガンだ」
これは、なんだか好きだ。連発式のショットガン。形もなんだか可愛らしくてお気に入りだ。
「次がミニガンだ」
これ好き。回転するバレルとモーターの駆動音。最高に、イイ。
「……感想は?」
「弾を撃ち出すだけなら他の方法があるのでは?」
「……それを言うんじゃないよ」
辛辣すぎる。タマラは有能だが、やっぱりロマンに欠ける。まあ、言っていることは非常に正しいのだけれどもね。
そう、弾を撃ち出すなら銃じゃなくてもいい。敵を気絶させる魔法の光の弾を撃つなら銃でなくてもいいのはわかる。
これは完全に俺の趣味だ。趣味で何が悪い。合理性ですべてが片付けられると思うなよ。
……でも、何か納得させられる理由を考えないと、タマラが銃を使わなくなるかもしれない。
何か、理由をでっち上げないと。
「ほら、魔法を発動するときにはいろいろとイメージしたりしないといけないだろ? それを省略すればタマラも簡単に」
「あなたがやればいいのでは?」
「……まあ、そうなんだけどさ」
確かにその通り。そもそもこの銃は俺が実体化させたもので、魔弾も俺がバッテリーに蓄えている魔力で発動している物だ。つまり、全部俺であり、そもそもタマラが銃を構えて引き金を引く必要はない。
「お、俺だとタイミングを外すかもしれないだろ?」
「そうかもしれませんね」
「だろ? キミが引き金を引いて発動するほうがいろいろと」
「いちいち狙いを定めて撃つ必要は? 面倒なのですが」
「そ、それは、まあ……」
確かにそうだ。一発一発狙いを定めて引き金を引くより、相手を狙ったら即発動するほうが早いに決まっている。狙える相手も一人ひとりを相手にしなくちゃいけないから、多人数を相手にするときは面倒ではある。
「ですが、このショットガンと言うのはいいですね。狙いを定めず撃つだけで広範囲の敵を相手にできますから」
「だろう?」
「……腹立ちますね」
「なんでだよ」
……とりあえず銃を使ってはくれそうだ。
「このドラム式ショットガンは取り回しが面倒です。できれば片手で扱える物のほうが」
「そうか。しかし、片手で扱えるショットガンとなると、うーん……」
「あの、先ほどから誰とお話を?」
ヤバい。気づかれたか?
「申し訳ありません。独り言が多いもので」
「そうなんですか? てっきり誰かと話しているのかと」
「よく勘違いされます」
「そう、なんですのね。ふーん……」
怪しまれているな。しかし、気づいてはなさそうだ。
「それ、私でも使えますか?」
「ダメ」
「ダメです」
「えー、どうして?」
「危ないから」
「危険ですので」
「むう……」
……タマラが手を離したら消えるようにしておこう。誰かに奪われたら面倒になりそうだ。
しかし、ショットガンか。タマラはやはりセンスがいいな。ショットガンならいちいち狙いを定めなくてもいい。適当に撃っても敵に当たるし、点ではなくて面で敵を制圧できる。
ハンドガンみたいなショットガン。そんなもんがあるのかは知らないが、魔法でどうにかなる、だろう。たぶん、おそらく。
「じゃあ、今日はこれぐらいにするか。お待ちかねのようだし」
「用事は済みました。中に入りましょうか」
「はい!」
さて、まだやりたいことはあるが、シャロンを待たせるのも悪い。急ぎでもないし、今日はこれから一日シャロンのおしゃべりに付き合いますか。
「お、お嬢様!」
……付き合ってもいられないらしい。
「ルードが、ルードが!」
ルード。シャロンのところで働いていた使用人。
「口封じ、ですね」
「ああ、たぶんな」
男が慌ててやって来た。悪い報せを持って。
ルードが死体で見つかった。用水路に浮かんでいるところを発見された。
死因は溺死じゃない。刃物で殺害された。
「死人が出たら、穏便にはいかないな……」
シャロンは驚き慌てて動揺している。ハエッタも似たよな状態。
俺も、まあ、うん……。
「冷静に、冷静に、だ」
……さて、どうする。
どう切り抜けるんだ、俺よ。
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