第22話 思ってたんと違う……。
魔法使い。この世界の魔法使いは俺が思っていたものと、なんというか、なんとなく違うというか……。
「波あああああ!!!」
「おお、いい感じになってきたじゃないか」
今日もメイは元気よく、波ーっ! している。元気よく手からエネルギー弾をぶっ放している。
「強化魔法を切らしたらいけないよ。肉体を常に強化していれば体調不良は抑えられるからね」
「はい、先生」
メイは、天才だ。俺の周りには天才しかいない。
「いいかい、リリアンヌ。大地は常にそこにある。大地と対話し、大地と調和し、大地と一体となるんだ。そうすれば大地の力を自在に操ることができる」
「わかりました、先生」
当然、リリアンヌも天才だ。絶対に天才だ。俺がそう思うのだから間違いがない。誰が何と言おうと天才なのだ。
ロックの指導は実に的確だ。俺や家庭教師が教えるよりもずっといい。やはり大魔法使いジョン・ロックの名を受け継ぐ者、と言ったところか。
順調。実に順調。
順調なのだが、なんというか。
「せんだん!」
「おお、そいつは新しい技だね。どこで覚えたんだい?」
「メガネが見せてくれたアニメで」
「そうかい。他には何かあるのかい?」
「いろいろ」
「そうかいそうかい。見せて見な」
……魔法って、こう言うものなんだろうか。
まあ、確かにアニメを見せた。俺の記憶をもとに再編集した物ではあるが。
「しょーッ!」
「おお、斬撃が飛んでったね。なかなか面白いじゃないか」
暇つぶしのつもりだったんだ。毎日勉強やマリアンヌさんのマナー指導やらで疲れているレオとメイの息抜きのために見せてあげただけなんだ。
いや、俺の考えが甘かった。まさか、見せたアニメの技をメイが次々と覚えていくとは。
確かにメイはすぐに、波ーッ! できた。できたけど、まさか他の物もすぐに覚えるとは思ってもいなかったんだ。
しかも、それだけじゃない。最近では髪の毛が金髪になるようになった。つまり、スーパーになり始めたのだ。
やはり、天才だ。メイは天才。間違いない。
間違いないんだけれども、なんか思ってたんと違う。
「いいねぇ。魔力量は十分、制御もできるようになってきた。強化魔法もそれなりに扱えてる。このまま順調にいけばかなりのもんになるねえ、この子は」
ロックのお墨付き。メイの魔法の才能は本物だ。
神の目を持つ悪魔の子。その言葉だけが引っかかるけれども。
「いいかい、リリアンヌ。あんたは飛んだり跳ねたりする必要はない。ただ、大地の力を自分の物にすればいいんだ」
リリアンヌも順調に実力を上げている。特に土属性魔法を重点的に磨いている。
ロックが言うには複数の属性が扱えることは利点でも欠点でもあるらしい。様々な属性が使えることでいろいろな魔法が使えるようになるのだが、属性ひとつひとつの練度がおろそかになってしまう人間が多いという。
俺も二つの属性を掛け合わせることばかり考えていた。というか泥魔法が便利すぎたのだ。
土属性と水属性を複合させることで生まれる泥魔法。泥は様々な形に変えることができるし、物理的な質量もある。習得すればかなり便利な魔法であり、俺もそう思っていた。
だが、ロックが言うには一つの属性に集中することが魔法の上達の近道らしい。事実、俺や家庭教師たちと共に魔法を訓練していた時よりもリリアンヌの上達は早い。
「強化魔法ってのは光属性の魔法だと勘違いされてるが、本来はどの属性でも可能だ。土属性なら大地から力を得ることで肉体を強化することができる」
光属性魔法。俺が記憶している魔導書には、光属性とは光を操る魔法と肉体を強化したり傷を癒したりする魔法の二系統に分かれる、と言う記載がある。事実、光属性が扱えるメイは魔法で擦り傷や切り傷などを癒すことができる。この治癒魔法を鍛えていけば、簡単な傷だけでなく骨折や毒の除去などもできるようになる。
「大地に根を張り、大地から力を吸い上げるイメージだ。大地とつながり、この星の力を己の物にするんだよ」
「わかり、ました」
数か月。正確には三カ月弱。たったこれだけの期間でリリアンヌとメイは何と言うか、俺の想像している魔法使いとは違うものになってしまった。
なんというか、ゴリラになってしまった。どうやらロックの教育方針がそっちよりなのだ。
魔法で強化して物理で殴る。それがおそらく長年の経験の中でロックが辿り着いた結論なのだろう。
まあ、確かにそれが一番手っ取り早いだろう。呪文を唱えたり魔法をイメージしたりするよりも手間がかからない。
手間がかからない。それはわかる。わかるんだけどさぁ……。
「せいっ!」
「なかなかいい一撃だ。もういっちょ」
「せいやっ!」
魔法の修行と言うよりはこれじゃあ格闘の修行だ。というか、ドラゴンの球を集めるあれと同じやり方だ。
俺が思っていた魔法使いと違う。魔法使いは手からエネルギー弾を出したりしないし、鉄板に拳で穴をあけるようなこともしない。
……いや、プリティでキュアキュアなあれと似ていると言えば似ているか。いやいや、しかし、やっぱりこんなの魔法使いじゃない。ただの戦闘民族だ。
これで、いいんだろうか。まあ、ロックに任せてしまった以上、文句はいえないのだけれども。
「いいかい、相手が魔法を唱えている間にぶん殴ればいいんだ。卑怯だなんて思うんじゃないよ。隙を見せてる奴が悪いんだ」
「はい、先生」
「わかりました」
……本当にこれでいいんだろうか。
「……無茶苦茶なことを言ってますわね」
「キミと意見が合うとは思わなかったよ」
どうやらオルニールも同意見らしい。
オルニールもロックの指導を受けている。受けてはいるが、ついていけていない。
いや、ついていけてはいる。オルニールも伝説の魔法使いの名を継ぐ彼女の指導を喜んで受けてはいるが、彼女の考えに全て同意している訳ではないらしい。
まあ、そうだろう。ロックの考えは常識外れだ。
とにかく魔法でぶん殴ればいい。そんなロックの意見にオルニールはドン引きしているのだ。
「魔法とはもっと優雅で華やかで知的なもののはずですわ」
「そうだな、俺もそう思うよ」
どこで間違ったんだろう。ロックに魔法の指導を仰いだのが間違いだったのだろうか。
「さあ、休憩だよ。さっさと食うもん食って続きだ続き」
なんか違う。違うと思うが、事実として皆の魔法の実力は着実に上達している。それは間違いではないし、否定しようもない。
「しかし、なんでわたくしはメガネではないの?」
「あ? だってお前、目がいいじゃん」
「まあ、そうですけど……」
オルニールとも会話ができるようにした。彼女に渡したのはイヤリング型の通信機だ。これを付けていれば音声通信が可能だ。レオにも同じ物を渡したが、魔法使いではないレオは他のみんなよりも通信可能距離が短い。
「というか、なんだか話し方違いませんこと?」
「いやあ、あの喋り方疲れるんだよ。お前だしいいだろ」
「無礼にもほどがありますわね、あなた」
「メガネだから許してくれよ」
「ふざけてるとぶち壊しますわよ」
冗談の通じない奴だ。まあ、しかし、こいつも成長したな。少し前だったらブチギレて怒鳴り散らしていただろうに。
みんな成長している。俺もがんばらんとな。
しかし。
「どこまで成長すんだ、この子たちは」
それが少し心配ではある。あまり変な方向にも育ってほしくはない。
リリアンヌもメイもこのまま真っ直ぐないい子に育ってほしい。
そして、レオもだ。
あの子も、うまく行くといいけども……。
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