第16話 新機能!

 どうやら俺の機能は掛けている人間の能力にも依存しているようだ。


『波あああああああ!!!』

「な、なんだこれ?!」

「なんですのこれは?!」


 まあ、驚くだろうな。アニメなんか見たことないだろうから。


 プロジェクター機能。俺の思い描いた映像をスクリーンなどの外部に出力する機能だ。一応、以前に追加しようと考えていてできなかった機能だが、メイと出会ったことで使えるようになった。


 光属性魔法。メイと相性の良い属性の一つだ。


「リリアンヌ、音は聞こえるか?」

「は、はい。はっきり聞こえます」


 スピーカー機能。今は映像に合わせた音声を流している。これも前々から追加しようとしてどういうわけかできなかった機能の一つだ。


 おそらく風属性魔法が関係している。メイは風属性とも相性がいい。


 ほかにも実装しようとしてできていなかった機能がいくつか使えるようになっている。まだ実際に使用はしていないが、できるような気がしている。


 理由はおそらくメイだ。この子は六つの属性と相性がいい。つまりちゃんと魔法を学んでいけば、いずれはそれらの属性魔法を使うことができるようになるということだ。


 俺の能力は装着者の能力に依存している。プロジェクター機能は光を操る光属性ともいえるし、スピーカーは空気を振動させて音を発する機能だから風属性と言えなくもない。


 面白い。メイと出会えたことは本当に幸運だった。


 俺にとっても、この子にとっても。


「メイさん、体調はどうですか?」

「うん。あのね、このメガネかけてから、なんだかとっても気分がいいの」

「そう。頭が痛いとかない?」

「うん、大丈夫」

「よかった」


 よかった。本当に良かった。調整はうまく行っているようだ。


 俺の能力は装着者の魔力を吸い上げて、吸い上げた魔力を使用して能力を発動している。そのおかげで装着者、つまりはリリアンヌとメイの魔力がどんな状態なのかを知ることができている。


 俺自身に魔力はほとんどない。それでも今までリリアンヌの近くで魔力の制御がどんなものかを学んできた。


 メイの持つ膨大な魔力。幼いこの子には到底制御できない力。それをある程度制御できているのは今までの経験のおかげだ。リリアンヌと一緒に頑張って来た成果だ。


「なあ、続き! 続き見せてくれよ!」

「そ、そうですわ! さっさと見せなさい!」

「ダメです。もうお休みの時間ですよ」


 そうだ。もう夜も遅い。


 あれからだいぶ時間が経った。オルニールの屋敷に帰ってきて、着替えと食事をすませて、あっと言う間に日が暮れてしまった。

 

「では、私はこの子たちを寝かしつけてきますので」

「ありがとう、タマラ」


 タマラがレオとメイと一緒に部屋を出ていった。


 残ったのはオルニールとリリアンヌだけだ。


「さて、と」

「……本当にいいんですか?」


 まあ、いいだろう。世話になっているし、そろそろ誰か協力者が欲しかったところだ。


 正直、俺とリリアンヌだけでは手に余る。レオとメイのこれからの生活を支えていくには協力してくれる人物が必要だ。


「とりあえず、タマラが戻ってくるまで待とう」

「そう、ですね」

「ねえ、あなた。さっきから何を一人でしゃべっていますの?」

「あ、えっと。もうすぐ、わかると思います」

「はあ?」


 ……オルニール・キムリツク。正直、こいつを仲間に引き入れるのは不安でもある。しかし、こちらを受け入れてくれたのは事実だ。


 それにリリアンヌは大丈夫だと言っていた。オルニールに事情を話したほうがいいかもしれない、と相談したら絶対にそうしたほうがいい、と彼女は言ったんだ。


 さて、どうなるか。


 まあ、リリアンヌと二人だけで考えるよりはいいだろう。


「お待たせしました。それで、お嬢様。お話と言うのは」

「とりあえず、タマラも座って」


 集まった。


 よし。


「あ、あの、今から、紹介したい人? がいます」

「なんで疑問形なの?」

「えっと、それは、人じゃないから、です」

「人ではない?」


 リリアンヌが口を閉ざす。これが合図だ。


「初めましてお二人とも」

「!?」

「だ、誰ですの!?」


 スピーカー機能は正常に動いている。声も俺の思った通りの声だ。


「私は妖精。訳あってリリアンヌのメガネに宿るメガネの妖精だ」

「メガネの、妖精?」

「……なるほど、あなたでしたか」


 なるほど? 


 そうか、タマラは気が付いていたのか。


「一年ほど前からお嬢様が何やら独り言を言っているのが気になっておりました。そうですか、この方とお話を」

「何を言っているのかわけがわかりませんわ!」


 まあ、当然だろうな。オルニールの反応が正しい。


 だが、うん。少し黙ってくれ。


「説明しなさい!」

「今から説明するから静かにしてくれ」

「だそうですよ、オルニール様。お静かに」

「わ、わかりましたわよ!」


 やっぱりオルニールを加えたのは間違いだったかなぁ。まあ、もう知ってしまったのだから説明しないわけにはいかないのだけれどもさ。


「まあ、しかし、説明すると言っても昔のことはほとんど覚えていないのだがね」

「だったら意味がないじゃないですの!」

「お静かに」


 説明、と言っても本当にあまり説明することがない。なにせ適当に作った設定なのだ。


「私は大昔、怖ろしい悪霊との戦いに挑み、深い傷を負って眠りについた。それから長い月日が流れ、どういうわけかこの魔法のメガネの中で目を覚ました。それが大体一年前」

「お嬢様が魔法のメガネを掛けた時、ですか?」

「そうだ。あの時、私は深い眠りから目覚めた。だが、悪霊との戦い以前のことはほとんど覚えていないんだ」

「……怪しいですわね」


 ぐふっ、その通り。全部が嘘、でっち上げ。オルニールは意外に勘がいいようだが、それは今発揮しなくてもいいだろうに。


「怪しい、かもしれない。だが信じてくれとしか言えない」

「まあ、いいでしょう。それで、その悪霊と言うのは?」

「わからない。そもそもあれが悪霊だったのかも定かではない」

「なんなんですの? 適当ですわね」

「すまない。だが、この世界の物ではないことは確実だ」


 ……いやあ、我ながら本当に口から出まかせがボロボロ出てくる。俺は自分で思うよりも嘘つきなのかもしれない。


「記憶は曖昧だが、何とか倒した、はずだ」

「はずだ、って」

「最後を確認する前に眠りについてしまったからな」

「はあ、使えない妖精ですわね」

「……すまない」


 相変わらず一言多いというか、いちいち嫌味を言わなければ死ぬ病か何かなのか、この玉ねぎは。


「それで、妖精様はなぜ今、我々の前に現れようと思ったのですか? 今まで隠れていたということはそれなりに理由がおありなのかと」


 さすがタマラ。こっちは頼りになる。


「悪霊がどこかにまだ存在しているかもしれないと不安だったんだ」

「だからね、ずっと秘密だったの」

「そうだ。今のところ私の存在はリリアンヌしか知らない」


 知らないはずだ。この魔法のメガネを作ったベーコンというあの魔法使いが知らなければ、だが。


「そうでしたのね。で、どうして存在を明かそうと?」

「協力者が必要だからだ」

「協力者?」

「そうだ。それを今から説明する」

 

 これは口で説明するより画像を見てもらったほうがいいだろう。


「まず、これを見てくれ」


 プロジェクター機能で、画像を出してっと。


「これはあの子、メイの魔力量と得意属性だ」

「……んな、なんなんですのこれは!?」

「申し訳ありません。魔法使いではないので、この図だけでは」

「わかった、説明しよう」


 画像を切り替えて、説明用のアイコンをだして。


「一般的な魔法使いの魔力量がどれぐらいかはわからない。なのでリリアンヌの魔力値を基準に説明すると、メイの魔力量はリリアンヌの約20倍だ」

「20倍、ですか」

「ちなみにそこのオルニールと比べると50倍だ」

「そ、それはどうでもいいじゃないの!」


 さて、次だ。


「こっちはメイの魔法属性相性表だ。普通の魔法使いは相性の良い属性は大体一属性、多くて二属性だ。相性の良い属性が三つある人間はかなり才能があると言っていい」

「……この表では六属性とありますが」

「そうだ。今の説明でメイの能力がどれほどかわかっただろう?」


 わかった、か?


 まあ、わからなくてもこれ以上説明しようがない。こちらもまだまだ分からないことだらけなのだ。


「ひとつ聞きたいのですけれど、この無属性、と言うのはなんなんですの?」

「わからない。私も初めて見た」

「頼りになりませんわね」

「……うるさいなぁ」

「ん? 今何かおっしゃりました?」

「いいや、気のせいだろう」


 まずいまずい。ボロが出ないように気を付けなければ。


「とにかく、メイはとてつもない才能を持っている。だが、今のあの子は自分の持っている能力に振り回されている状態なんだ。多すぎる魔力量が原因で体調を崩してしまっている。今は私が何とか調整してはいるが、絶対大丈夫とは言い切れない」

「だから、協力してほしい、ということでしょうか?」

「ああ、私とリリアンヌだけでは正直手に余る」

「わかりましたわ。それで、何をすればいいんですの?」

「……文句の一つも言わないのか?」

「はあ? 文句を言われたいんですの?」


 いや、驚いた。まさかオルニールが愚痴も文句も言わないとは。


「ありがたい。助かるよ」

「ふん、本当にありがたく思っていただかなくては困りますわ」


 ……まあ、いい。気にしない気にしない。


「タマラも、協力してくれる?」

「私はお嬢様のメイドです。どこまでもお付き合いいたします」

「ありがとう」


 よし。これで協力者が二人増えた。まあ、二人増えたからと言って劇的に状況が良くなるというわけではないだろうけれども、気分的には少し余裕ができた。


「ありがとう、二人とも。心より感謝する」


 さて、ここからだ。どうやってレオとメイを支えていくかだ。

 

 あの子たちの幸せのために。

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