第7話 昨日考えた機能を追加だ
朝食。なんというか、格差をギジギジと感じる。前世の俺と今のリリアンヌの朝食を比べるだけで、なんというか、生活の質と言うものを思い知らされるような。
よく、あんな生活ができたもんだよ。前世の生活を思い出すたびにヤバいとしか思えない。
というか、覚えていない部分もある。おそらく働きすぎて頭が朦朧としていて、記憶もぼやけているんだろう。
本当にとんでもない生活だった。だが、今は違う。
腹もすかないし、疲れもしない。なんとなく寂しいが、前世での生活よりは格段にマシだし、格段に幸せだ。
「キミが起きるまでにいろいろと考えたんだ。私も魔法が使えないかと」
「魔法、使えるんですか?」
「いや、わからん。それを今から確かめようと思う」
朝食を済ませて庭に出た。やっぱりこの家の庭は素晴らしい。なんというか、天国に庭があるとしたらこんなだろうな、と思えるような美しい庭だ。
「まず、昨日追加できた魔力視の機能だ」
魔力視。その名前の通り魔力を視る機能だ。
「見えるか?」
「はい。機能と同じようにもやもやしたものが見えます」
よし。どうやら一度使った機能はまた使用できるようだ。
「次に『鑑定』だ」
「鑑定?」
「そうだ。詳しくは使ってくれ」
使えるかわからないけれども。
「……バラ?」
「バラだな」
……使えた。しかし、なんというか、なんだ。
「バラの上に『バラ』と書いてありますね」
「ああ、バラの上にバラと書いてあるな」
鑑定機能を使ってみたが、なんとなくしょぼい。目の前にあるバラの花の上に名前が表示されただけだ。
「もっとこう、詳しく表示されると思ったんだが」
もしかしたらこちらが詳しく知らないとダメなのか? そうなるとこの機能は使い物になりそうもない。
「他にもいろいろ見てみましょう」
「ああ。そうだな」
いろいろと試してみよう。判断はそれからでも遅くはない。
「お父様!」
「ん? なんだいリリアンヌ」
「……お父様ですね」
うん、お父様だ。お父様の頭上に名前が表示されただけだ。
「お母様!」
「何かしら、リリアンヌ」
「……お母様ですね」
うん、お母様だ。お母様の上に名前が表示されているだけだ。
「じいや!」
「なんでしょうか、お嬢様」
「……じいやですね」
じいやはじいや。いや、じいやってこんな名前だったのか。
「タマラ!」
「はい、なんでございましょう?」
「……タマラですね」
メイドのタマラもタマラだった。
「うーん、名前しかわかりませんね」
「失敗だったか……?」
何を見ても名前が表示されるだけだ。どうやらこの鑑定の機能は自分の知識に依存する能力なのかもしれない。
「そうだ。試しに私も見てみましょう」
そうだ。試しは試し。
……きれいな手だ。
「……私、です、けど」
……手の上に名前、の上に。
「属性、土、水……」
リリアンヌの相性のいい属性が表示されている。それにこれは。
「えっと、胸囲」
「み、見ないでください!!」
……やはりこの機能は自分の持っている知識に依存するらしい。
「うう、恥ずかしい……」
「すまない。とにかく次に行こう」
できれば偽物か本物かを鑑定できればいいのだが、今は比較できる物が手元にない。いずれ確認するとして、次に行こう。
「次は形状変化だ」
形状変化。これはもともと備わっていた機能だ。それを少し改造してみた。
「とりあえず鏡の前に座ってくれ」
部屋に戻って鏡を見て、確認。
「まずはレンズに色を付けて」
……よし、成功だ。
「わあ、青くなりました」
「次は赤だ」
次は緑、黄色、紫、黒。
「次は形だ」
形。丸メガネ、細長いメガネ、フレームレスのメガネ、黒縁に金縁に銀縁、とにかく思いつくものに変形、変形。
「すごい、本当に自由自在」
ゴーグルに変形しても能力は失われなかった。どうやらレンズがあり顔に掛けられる物はメガネとして判定されるようだ。
「最後は、これだ」
「お、重い」
VRゴーグル。とりあえず形状は変えられたが、中身はどうか。
「わわ、何か見えます!」
「……成功だ」
ゴーグル内に映像を映し出すことができた。成功、成功。
「すごい、なんでもできるんですね」
「なんでもではないさ。メガネができることだけ、だよ」
そう、メガネができることだけ。メガネの範疇に収まることだけだ。
それ以外は、まだわからない。俺の想像力次第かもしれない。
「音は聞こえるか?」
「はい、聞こえます」
ヘッドホンはないがどうやら音も聞こえるようだ。今はよくあるサバンナの風景を映し出しているが、これなら別の物もいけるかもしれない。
「な、何か始まりました」
あまり目に負担をかけたくはないが、ちょっと興味がある。
興味があるから仕方がない。
「これは私が眠りにつく前に流行っていたアニメと言うものだ」
「アニメ、ですか」
うむ、どうやらうまく行ったようだ。が、どうも映像が曖昧と言うか、ぼんやりしている。たぶん、俺の記憶を頼りに映像を映し出しているんだろう。だから、なんとなく曖昧なのだ。
「こ、これはなんですか?」
「これは海賊が活躍するアニメだ。まあ、メガネのキャラは少なかったからよく覚えていないが」
そう、メガネのキャラだ。大体、メジャーなアニメにはメガネのキャラは出てくるが、メインのキャラは少ない。もっとメガネキャラを増やしてくれてもいいだろうに、まったく、何がいけないんだ。
それにあれだ。メガネキャラがメガネを取る演出と言うか、せっかく掛けているのに外してしまったり、捨ててしまったり、なんであんなことをするんだ。
まあ、わかるにはわかる。変化を演出したいのはわかる。でも、だったらメガネじゃなくてもいいだろう。なんでメガネキャラがメガネを捨てて、メガネを外した私素敵じゃん! なんてやるんだよ。
メガネをしてても素敵だろうが! まったく、世の中間違ってる!
「あ、あの」
「すまない。少し、考え事を、な」
とにかく、成功だ。これにもいろいろと使いどころがあるだろう。
「そうだ、何か見たいものはあるかい? 今日は休日だからね」
「そ、そうですね。なら、その、何か魔法に役立ちそうなものを」
「魔法に、役立つ、か……」
うーむ、なかなか難しい。それに映し出される映像は俺の記憶にあるものだけになるだろうし。
まあ、とりあえず、あまり過激な物はやめておこう。となれば、女の子向けの作品になるとは思うが、さすがに女児アニメは守備範囲外だ。メガネのキャラが出てくれば別だが、記憶も曖昧といえば曖昧だ。
「すまない。少し考えてみる。今日はとりあえず、何か他のことをしようか」
「わかりました……」
うう、そんなに残念そうにされると心が痛い。なんとか記憶を掘り起こして、どうにかして見るしかない。
「とりあえず元の形に戻るよ」
VRゴーグルは重い。それさえどうにかなれば長時間使用できるんだけども。
「……重さ、か」
重さ。そうだ、重さだ。俺は魔法のメガネなのだから、重さも変えられるかもしれない。
まあ、今日はやめておこう。今日はお休み。リリアンヌの自由にさせてあげよう。
「さあ、休日を楽しもう」
「はい、楽しみましょう」
休む時は休む。なんでもメリハリが重要なのだ。
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