第6話 役に立つんだよ!

 真っ暗だ。ただのメガネだ。


「いや、違う。俺は魔法のメガネだ」

 

 そう、魔法のメガネだ。

 

 今日は魔法の授業を受けた。そして、実際に魔法を見た。


 魔法には属性がある。そして、魔法使いには相性がある。


 俺に相性がいい属性はいったい何だろう? というか、俺は属性魔法を使えるのか?


 わからん。しかし、今日新しいことがひとつわかった。どうやら俺は自分で機能を追加することができるらしい。


 今持っている機能は通常のメガネとしての機能、望遠に拡大、そして暗視。そこに今日、魔力を見ることができる『魔力視』が追加された。いや、追加できた。


 見る。見ることがメガネの仕事だ。もしかしたら『メガネ』の範疇であれば機能を追加できるんじゃないだろうか。


「俺の知ってる、メガネ……」


 前世にはいろいろなメガネがあった。普通のメガネにサングラス、ゴーグルもメガネと言っていいだろう。そうなればVRゴーグルもメガネと言える。


 そんでもってフィクションにもいろいろなメガネがあった。レンズに地図やレーダーを表示できるメガネ、カメラや通信機能付きのメガネ、スクリーンに映像を投影したりできるメガネもあった。


 さて、どこまでいける? 


 いや、いける。


 なにせ魔法は想像を現実にするものなのだ。想像できるなら現実化できるはずだ。


 そう、できるはず。いや、はずじゃない。


 できる。


 やるんだ、コンチクショウが。


「まずは、魔法らしいものにしてみるか」


 魔法らしい物。となると、なんだ?


 ファンタジー世界のメガネ。そういう世界では大抵メガネは高級品で、レンズの研磨なんかには技術がいるとか、そういう設定があったりする。


 事実、こっちの世界でもメガネは高級品だ。そもそもレンズの研磨には熟練の技が必要らしい。つまりメガネのレンズはすべて手作業で作られているわけだ。


 それなら高いに決まっている。熟練の職人が丁寧に磨いたレンズを使っているのだから高くて当然。


 さらに俺は魔法のメガネだ。どうもレンズ自体に特殊な素材が使用されているらしく、かなりの値段がしたようだ。リリアンヌのような裕福そうな貴族が、高い、というんだから相当だろう。


 まあ、それが二つあるのだけども。超高級品の魔法のメガネを失くした時のための予備にともう一つ買えるほどの財力がリリアンヌの家にはあるらしい。


 もしかして、リリアンヌは超お金持ちの上級貴族の娘さんなのか? そういえばそこら辺のことはあまり聞いていなかったな。今度聞いてみるか。


 と、まあ、そんな話はおいておいて。機能の追加のことを考えよう。


「魔法らしい機能と言えば、鑑定か」


 鑑定。よくRPGなどで相手の能力を調べるあれだ。もしこの機能が追加できれば毒キノコを食べたり、毒草に当たったり、毒を盛られた時にも対処できるかもしれない。


「よし、やってみるか」


 時間はたっぷりある。そう、リリアンヌが目覚めるまでたっぷりだ。


 ほかにも考えてみよう。魔法的な能力なら簡単に追加できるかもしれない。


 他、他、ほかには――。


 ――――――――。


 ――――――。


 ――――。


 ――。


「おはよう、妖精さん」


 ……朝だ。夢中になっていたら、いつの間にか。


「おはよう、リリアンヌ。よく眠れたかい?」

「はい」


 明るい。やっぱり、明るいほうがいい。いくらメガネになったとは言え、あの狭くて暗いケースの中は居心地がいいものじゃない。


「今日の予定は?」

「今日の予定はありませんよ。お休みですよ」

「ああ、そうだったね。今日は家庭教師も来ない日だったか」


 ……お休み。前世で社会人になってからほとんど聞いたことがない言葉だ。


 ああ、あの時はどれぐらい休んでいなかったっけ? 1か月? 半年? 1年?


 いや、やめよう。あの時のことを思い出すのは。


 今は、ちゃんと休めるんだ。この幸福を噛みしめよう。


「で、今日は何をするんだい?」

「お勉強です」

「……休んだほうがいいんじゃいかな?」


 休みの日にもお勉強。うーん、いいことなんだけども、休みの日は休んだほうが。


「そ、そうだ。今日は私に付き合ってくれるか?」

「付き合う?」

「そうだ。試したいことがあるんだ」


 一晩、試してみた。おそらくできたと思う。


 ただ、俺は魔法のメガネとはいえ物しかない。俺と言う意思はあるけれども、自分に備わった機能を使用するには装着者が必要になる。


「朝食を食べ終わったら庭に出よう」

「はい。ふふふ」

「どうしたんだい? なにか変かい?」


 なんだ、突然笑い出したけども。


「いいえ、楽しいなあって」

「楽しい?」

「はい。なんだか、お友達ができたみたいで」


 お友達。


 そう言えば3カ月ほど一緒にいるがリリアンヌの友達というものに会ったことがない。


「私、目が悪くて、それで、相手に迷惑をかけてしまうから」


 ……優しい子だ。目が悪いことに負い目を感じてしまって、それで引きこもっていたのだろう。


「お友達になろうとしてくれた人はいたんです。でも、私に、勇気がなくて」

「そうか。なら、これからは違うな」

「……え?」


 違う。違うじゃないか。


「もう見えているだろう? はっきりと」

「……そう、ですね。そうです」


 そうだ。これからは違う。ちゃんと見えている。


「これから作っていけばいい。焦らずに、ゆっくり」

「はい。……あの」

「なんだい?」


 なんだろう? 言いにくそうに、もじもじしてるけども、トイレにでも行きたいのか?


「あの、妖精さん。私の、お友達に、なってくれますか?」


 ……クソが。俺の阿呆が。何がトイレだ。俺に手があったら自分の顔をボコボコにしてやりたい。


「ああ、いいさ。友達になろう」

「ありがとうございます!」


 ……頑張ろう。この子のために。


 俺はそのために生まれて来たんだから。

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