第5話『冬羽の運命を受け入れるまで』

 冬羽が生まれて数年後。千春は珍しく夢を見た。眼の前に立つ一人の男。構えられる銃。自分の額に撃ち込まれる弾丸。崩れ落ちる体。自分の顔を覗き込み、にやける男の顔。


 「おばあちゃん、大丈夫?」


 声をかけられてハッと目が覚める。ベッドの横には冬羽が立っていた。うなされていたのだろう、心配して見に来てくれたようだ。


 「冬羽ちゃん、心配して来てくれたのね。ありがとう」

 「おばあちゃん、嫌な夢でも見てたの?」

 「そうね、昔の嫌な記憶を思い出したわ」

 「大丈夫、夢はただの夢!現実には起きないんだから」

 「ありがとうね」


 目が覚めたとき、自分の顔を覗き込む冬羽の顔の口角が上がっていたのはただの見間違えだ。変な夢を見ていたから、それに影響されたのだ。そうやって片付けたかったが、背筋が凍る感覚はずっと消えなかった。


 「ごめん、ナツ。ちょっと研究室の機械借りて良い?」

 「良いよ。何か調べ物?」

 「うん、ちょっとね」


 悪い予感は的中した。あの日、秋介の頭を撃ち抜いた犯人は数年前、刑務所にて服役中に病気で亡くなっていた。犯人の魂の位置を追跡した結果、冬羽の位置と一致した。気がつくと自然と冬羽のところへ足が向かっていた。


 「おばあちゃん?」


 冬羽の声掛けに答えることなく無意識に冬羽の首に手を絡める。昔の病弱な手と違って今のアンドロイドの手は力強く冬羽の首を締め上げていく。


 …オマエガ…

 …シュウスケヲコロシタ…

 …ニクイ…

 …コロシテヤル…


 「おばあちゃん、く、苦しい…」


 ハッとして冬羽の首から手を離す。自分は何と愚かなことをしてしまったのだ。冬羽には何の罪も無いのに。こんなことしても何の解決にもならないのに。


 「ごめんね…ごめんね…」


 膝から崩れ落ち、冬羽をぎゅっと抱きしめ、千春は泣きながら懺悔の言葉を繰り返した。

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