第9話

 私は爆音の音楽が鳴る中、いつもより少し早く目が覚めた。それから朝ごはんを食べて、準備をして、家を出た。

 たまたま信号に引っかかってしまった時に、時間を確認すると、いつもよりも数分の余裕があった。

 集合場所である見晴らしのいい公園へ行くとそこには一人、同い年くらいの男子生徒がいた。

 とりあえずアタックをかけてみようと思い、「あのー、すいません」と声をかける。男子生徒は優しい声ではいと返事をした。

 私はなんだか聞き覚えのある声だなと思い、男子生徒の顔を覗くと、びっくりして思わず目を見開いてしまった。それは、今、私の目の前に三年前に死んだはずの計留がいたからだ。

「計留……?」

 私の声にピクッと反応した彼はゆっくりと私と目線を合わせて「時萌……!」と久しぶりに彼の口から私の名を呼ぶ。

「ありがとう。俺の手紙の欠片を探してきてくれて」

「いいの。私がやりたかったからやってただけだから」

 そして小さな声で、それにと呟く。だが彼にもその言葉は聞こえていたみたいで、それに? と私に訊く。

「計留の想いもちゃんと知れたからね」

 彼はハッとした顔をし、すごく小さな声でごめんと謝る。なんで? と訊くと彼はこう言った。

「本当は直接好きだって言いたかったのに、手紙だし。それ探してほしいって勝手なお願いもしちゃうし……」

 好きという言葉を聞いて、顔が真っ赤に染まっていくのを感じたが、私はそんなことを気にせず、彼に問う。

「私はいつ、その行いが悪いことだって言ったっけ?」

 彼がシュンとしてしまったので、私は顔を真っ赤に染めたまま、そう訊ねる。

「私は全然悪いことだとは思ってないよ。というよりも嬉しかった。私も計留のこと、好きだから……」

 好きという言葉を発した瞬間に彼は笑顔になった。それにつられて私も笑顔になる。

「でも、私はあと五ヶ月で死んじゃうんじゃないの?」

「あー、その件なんだけど、あれって結構現実味のある話じゃん? でも、あの夢は正夢にならなかったんだよね」

 疑問に思った私は「どういうこと?」と訊くと、彼は「試してみただけ」と簡潔に答える。

「俺も死にたくはなかったけど、時萌も巻き込まれてる話だからと思って土曜日に一人でお母さんから貰ったお金を持ってコンビニに行ったんだけど、結局車と接触して骨折したぐらいだったから死ななかった。でも、時萌に手紙を探し出してほしかった。それで俺の気持ちを知ってほしかっただけだった。三年間つらい思いさせて、ごめん」

 彼の話をしっかりと聞き、分かったと頷く。

「じゃあ、一つ約束して。私を助けたいっていうのは分かる。私だって計留のこと助けたいから。でもね、もしそれで本当に死んじゃったら、悲しむ人がいるっていうことを、どうか忘れないで。これが私との約束。これだけは絶対に守ってよ?」

「もちろん。時萌が言うなら守る。これから気をつけるね」

 私はありがとうと彼に伝える。

 すると、彼は笑顔でうんと頷いた。

 たった一つの夢で暗闇に呑まれそうになったが、正夢にはならなかった。それから手紙と口頭で互いの想いを伝え合い、また共に居られる。それが幸せでしょうがない。

 この幸せを噛み締めながら、これからの日々を過ごしていきたい。

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時を超えた世界の先に @sakugiriyukine

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