第4話 愛のカタチ
僕は〝ふう〟に〈僕の大事なモノ〉を言えなかった。
僕には大事にしているモノなんて浮かばなかった。
〝ふう〟は僕から大事なモノを貰って嬉しく思うのだろうか?それが〝ふう〟にとって大事なモノになるのだろうか?
昨夜から〝ふう〟は特に変わる事無く過ごしている。そして僕もいつもの様に〝ふう〟を見つめている。
2年も一緒に暮らしているのに知らない事だらけだった。僕は〝ふう〟に夢中になりすぎて自分の見えている部分だけを見てうぬぼれて来たんだ。
このぬるま湯の関係から脱出して進みたいと考え始めた。
それには、〝ふう〟が求めている〈僕の大事なモノ〉を見つけなくてはならなかった。
僕は模索しているうちに、今一番大事なのは〝ふう〟が側にいてくれる事だと気がついた。
好き以上で彼女にしたいとかいう問題では無く、ただ僕の側にいて欲しい唯一の人。
理由なんてそんなものは要らないくらい愛おしくなっていた。
〝ふう〟に僕は今の想いを伝えた。
「ふう、今僕に大事なモノは君だよ」
〝ふう〟は少し困った顔をしていた。
「私は私の手の中にいられない…」
そう言って握りしめていた手をそっと開いた。
僕は困惑しながら言葉を失った。
〝ふう〟の手の中には骨の様なモノが握られていた。
そして、〝ふう〟の腕には何箇所もリストカットの跡が見えた。
〝ふう〟には此処に来るまで深い闇の中の生活があったんだと思った。
兄は〝ふう〟の闇に気がついて出て行ったんだと分かった。
「…それは、骨なの?」
恐る恐る聞いてみた。
「そう。私の大事な人のモノ。彼は自分の大事なモノは自分だって言ったから…。」
僕の背筋が寒くなった。
その意味はそのままの意味なのか本当の事を聞く勇気は僕には無かった。
〝ふう〟は手の平をまた握りしめ外を見ていた。
僕には〝ふう〟の現実を見るんじゃ無かったと後悔していた。知らなくても良い事も世の中にあるんじゃないかと逃避し始めた。
「私には“好き”とか“愛”とか分からない。
だから、形にする事でそれを理解しているの。
オカシイかな…」
〝ふう〟はそう言って一粒の涙を流した。
僕は何も言ってあげられなかった。
翌日、部屋に〝ふう〟はいなかった。
ずっと待っていても帰っては来なかった。
僕はきっと一生〝ふう〟を忘れる事は出来ないだろう。
僕も〝ふう〟と同じで“好き”とか“愛”とか分からないから、〝ふう〟の言っていた気持ちが心に染みていた。
今〝ふう〟は何処にいるんだろう?
また会えるかな?
あの日、何で泣いたのか何時か聞いてみたいと思った。
ふう 桜 奈美 @namishi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます