怪獣転生

聖龍教会

怪獣転生

【怪獣】というものは色々と多岐にわたるものになってきた。宇宙から来たやつ、核のせいで誕生したやつ、人間により作られたやつ、古代からずっといる巨大な生物。その奴らの中にも人間の味方をするやつ、地球の味方をするやつ、子供の味方をするやつ、異星人が操ってるやつ、全てが憎いやつ、人間を執念深く襲ってくるやつなどだ。


最近では昭和の怪獣映画の新作が出始めて世の熱は再燃している。

俺は先日、その新作を見てきて感動した。

【怪獣】という存在を再認識させられた。

【怪獣】はやはり人間の味方ではない、いや何者の味方でもない。自分中心、野生的で怒りを持って人間を襲わなければならない。

どんな強大な兵器でも軽傷を負うだけ、どんな手段を使われても死なずに生き残る。


それが【怪獣】なのだ。


それが【怪物】なのだ。


俺としての怪獣はここに確立された。


俺のオタク人生は怪獣から始まりアニメへと移行したがまた怪獣へと戻ってきた。


だがそこで俺の人生は途絶える。

怪獣を作り出そうと努力したが才能はないと自覚し諦めて普通に仕事して孤独死した。


「あぁ情け無いな、情け無い。」


目の前に何かがいると認識できる程度の存在がいた。


「自らの創造を完遂できずに死ぬなんて情け無い、自分が頑張れば書籍化できると思い込むのも情け無い。」


確かに昔の自分は自惚れて努力すればなれるだろうという軽い気持ちでいた。そんな軽い気持ちで怪獣小説を書いていたが当たり前に実らなかった。だから諦めてスーパー店員の道に行ったというのに今更そんなことを掘り起こされて情け無いとこいつに言われるのは腹が立つ。


「才能がないのなら死ぬ気で努力すれば良かったではないか、頑張れば書籍化できると思い込んでいたのに寝る時間を削ることもせずに頑張ったと言っていたお前が悪いであろうに。」


「そんなことわかってる…時間は巻き戻らない、巻き戻ったとしても自分にそんなことができる気がしない。」


「そういえば気がしないできないと我儘も言っておったな、そうやって仕事のチャンスも逃してしまった。」


そうだ、俺は何もせずに決めつけるし惚気るし低く見積りすぎるのだ。


「そんなお前に罰を与える。」


「なに?」


死んだ後にまで俺はなぜ罰を与えられなければならないのか。いや、俺は罰を受けなければならない、罰を受けなければ気が済まない。色々な人に迷惑や我儘をかけてしまったんだ、死よりも恐ろしい罰を受けなければならないのは当然のことだ。


「お前をお前が作り出した怪獣たちのうちの1匹にして異なる世界にて創造する。」


「なんだと?」


「その世界では怪獣に類するものが人類の味方になって手助けなどをしているような平和な世界だ。人類のペットになるかそれを破壊するかは君に任せよう。」


「そうかい…」


周囲は明るくひかりはじめてやがて自分の視野は暗くなり消えた。


この生が罰なのならば自分は人のためになることをしよう。暗闇の中でそう考えて生命として生まれるのを自分は待った。待って待って待ち続けてやがて自分はすでに生があることに気づく。何かの中に囚われている、いや産まれていないようだ。この時点では自分の怪獣が何かわからない。作り出した怪獣のほとんどは卵生だと仮定しただけで作られたものだからだ。


自分が生まれるのはあと何年だろうか、あと何日だろうか、あと何時間だろうか、それだけ自分は生まれるのが楽しみだった。前の人生では生きていても楽しくなかったが大好きな怪獣になれるのだ嬉しく思うよ。


だがあの存在は罪としてこの生命を生まれさせた。労働による罪の軽減はあるのだろうか?まぁいい、怪獣ならば全て跳ね返せばいいだろう。俺は力を手に入れたんだ。


ドクッンドクッンと心臓の鼓動が聞こえるようになった、誕生は近い。俺は精一杯に体を動かすと身を納めていた硬い殻を破り生命の第一歩として誕生した。


周囲は草々とした綺麗な原っぱだった。

ポツンと一つ産み落とされていたようで不思議と虫1匹いない静かな場所だ。


尻尾の感覚に手足の感覚、だがそれしかない。自分が作り出した怪獣には翼をつけるという縛りを創作し始めてすぐにつけたため自分は最初期の物になる可能性がある。


水面までおぼつかない足で向かうと自らの姿を見る、それは恐竜だった。身に覚えのない恐竜。姿はラプトル系統に似ているが決定打になる特徴のない適当に書いたような恐竜だった。


そうか、そうなのか。


俺はヤツの罰がわかった。


核による変異前提の生命だ。

恐竜の生き残りが怪獣になるパターンである。



それから10年は経った。自分の存在を自覚して人里を目指して川を下り海沿いを走り、やがて念願の人間に出会う。

自分の大きさよりも頭一つ分大きい人間。

彼らは軍人らしい。

二次大戦時のアメリカ軍の物に似ている衣服を着てボルトアクション式のライフルを主力とする分隊に出会った。

彼らは俺を見るやいなや喜んでいた。

どうやら俺に敵の殲滅を手伝ってもらおうという思惑があるらしい。初対面なのにそんなことをさせようとはこの世界の常識を疑う。


敵を殲滅した。

草原における狩りなどこちらの独壇場だからだ。考えても見てくれ猪ほどの大きさが車並みのスピードで飛びかかり仕留めてくる姿を。それはそれは恐ろしい物だ、すぐさま敵は恐怖から離脱していきバラバラに逃げたため各個撃破できた。

実に容易い。

米兵もどき共はお礼のようなものを言って船に乗ってどこかへと去っていった。


翌日、彼らはこの島を消し飛ばした。

新型爆弾による実験地がここに選ばれたのである。


なるほどね。

核による放射能汚染、それで俺の強化は完了した。皮膚細胞の異常分裂、遺伝子情報のエラー、怪獣映画によくある核怪獣の誕生だ。


俺には翼が生えた、もちろん先天性のものではないため使い物にならない。新しい前足として使用している。


体長は17m、ロボットアニメのロボット級には成長できた。俺は島を離れるため必死に泳ぐ。泳ぎ泳ぎ泳ぎただひたすらに泳ぎ続ける。


怪獣として人間を救うために、怪獣として人を殺すために。


この異常分裂による身体中の痛みを彼らに味合わせるために。



龍歴1946年

リカルダ合衆国による敵領土内諸島群における新型兵器【魔力弾】の使用。これにより魔力汚染が深刻化し世界はその地域を見放すしかなかった。近年減少傾向にあった【益魔獣】の存在が確認されたにも関わらず。

だが世界はリカルダに生かされている現状、リカルダに責任を負わせることはできず見て見ぬふりをしてその件は一件落着したかと思われた。


『こちらジャック!護衛艦艇の終結を要請!』


「間に合わない!対空銃座でもライフルでも構わん!持てる火器で応戦せよ!」


8月の夏、リカルダ合衆国内のカワイ諸島海域にて大規模な海戦が発生する。敵陣営には航空母艦3隻の損害がありリカルダ合衆国の勝利と思われた一方、海域から離脱中のリカルダ太平洋艦隊旗艦【航空母艦ジャック・スミス】が大型の生命体により破壊された。


彼は復讐のために本土に近づきつつある。


「カルロッタ沈没!目標本艦に向かい速度上げます!」


「急速退避ィ!衝撃に備えろ!」


新造のアルマダ、百戦錬磨の不沈艦カルロッタ

の戦艦2隻による殲滅作戦は両艦の沈没により失敗した。


旧式巡洋艦タラズによる無人特攻は艦首を食い破られて失敗。


駆逐艦隊による雷撃も叶わず


とうとう駆潜艇による機雷原も抜けられ


航空隊による空爆でも止められずに海軍戦力は役に立たなかった。


予測される上陸地点にて幸運艦と名高い重巡洋艦クライスが海軍最後の誇りとして配置され後方の沿岸には持てる戦車を全て並べた砲撃部隊が配置されている。


戦車の種類は統一されておらず旧式の37mm砲搭載のM1戦車や75mm搭載の主力量産型の戦車、90mm搭載の重駆逐戦車までもいた。


そのさらに後方には最後の悪あがきとして歩兵部隊所属から本格的な砲兵隊所属の動ける部隊をかき集めた迫撃砲分隊がいる。


ヤツが現れたのはクラリスの直下だった。

クラリスは重巡洋艦初の滑空をして浜辺に打ち上げられ、戦車隊の砲撃を阻んだ。


仕方なく射程ギリギリの迫撃砲分隊が射撃を開始するが命中弾は出ず浜辺に上陸される。


クラリスの落下の衝撃を生き残った砲兵が1番砲塔へ移動し砲撃を開始するが1番砲塔を食い破られて中の生存者は食われてしまう。


「化け物だ…あんなもの生物ではない!」


戦車は後退しながらの射撃を開始するが傷一つ負うことのない【怪獣】は動きの遅かった、速度が元々遅い戦車を踏み潰しながら市街地に入っていく。


砲撃に怯んではいるがどう考えてもダメージにはなっていない。まるで痛みには耐性があるかのような。


「く…くるぞ!」


避難誘導していた歩兵部隊が奴に鉢合わせてしまった。


ライフルで撃つが戦艦の砲を耐えるような化け物にそんなものが効くわけない。


だが万が一もあるため無駄な抵抗を続ける。


その時彼らの後ろの路面電車の線路上から砲撃がくる。


「装甲列車!?」


装甲列車の2門ある80mm砲による砲撃で【怪獣】は怯んだ。


その隙に歩兵部隊は装甲列車へと走るが最後方にいた仲間三人が一気に食べられてしまった。


「化け物めッ!」


装甲列車は線路を急発進し車輪を何度か空転させた後走り出した。


「急げ!」


再装填が完了して後方の2門も合わさり四門の80mm徹甲弾が腹を貫く。


「ギャァァァォォオォォォォゥン」


悲鳴のような咆哮をあげながら悶え苦しむ怪獣を置いて装甲列車は地下鉄へと逃げることに成功した。


別の場所から地上に出て街が見える山を装甲列車は登る。

そこは街の観光地として有名な場所で避難用の土地にもなっている場所だった。


周囲は紅く照らされている年に一度あるかないかの綺麗な夕暮れだった。

遠くに見える街はビルよりも少し小さな怪物により荒らされている。


そんなことを思っていると上空からエンジン音が聞こえる


「なんだ?」と列車の部隊員に聞くと陸軍による高高度からの絨毯爆撃が行われるという話だった。


陸軍の重爆が自国を爆撃するとは思わなかった。


怪獣の方を見ると投下された爆弾が夕陽に照らされこちらからは黒い影となって見え怪獣本体に直撃するのが見えた。


「命中!直撃だ!」


「海軍の中型爆弾とはものが違うぞ!城砦を破壊するための大型爆弾だ!」


他の兵士たちの歓声が聞こえるが一つの白い光線が空を真っ二つに切る。


言葉が出なかった。


爆撃機だったものが空から墜ちていく様は合衆国の終焉の火蓋が切られたように見えたからだ。


「ちくしょう!こんな、こんなのがっ!」


怪獣は空へ向かって大きな翼を広げてここ展望台からも聞こえる大きな勝利の咆哮をあげた。

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