お披露目パーティー ③
「ごめんね、ちょっと疲れたからゆっくりしたいな」
沢山の人と会話を交わすのは楽しい。僕は新しい知り合いが出来ることを苦には思っていない。とはいえずっと囲まれて喋っているのは流石に少し疲れてしまった。
僕がゆっくりしたいと口にしたら、周りがさっと引いていく。うん、ちゃんと僕の意見を尊重してくれるのはいいなぁと思う。
僕はそのままサシャと一緒に椅子に座る。女帝であるサシャの横に座らせてもらっている。基本的にこのパーティーは立食式のものなのだけど、僕は聖女だから座ってていいよって言われた。僕の欲しいものは全部持ってきてくれるって。
そういうわけで僕は持ってきてもらったものを食べる。
「美味しい!」
帝国にやってきてから食べるものはどれもこれも聖女だったころに食べさせてもらえなかったものが多い。だから全部美味しいのだけれども、こういうパーティーの場の食事というのも美味しいよね。
なんというか他国からも訪れている人がいるから、帝国特有のものというよりも色んな場所で受け入れられる食事が提供されている。他国の郷土料理的なものとかも城に仕える料理人たちが作っているみたい。
僕が食べたこともない料理もあって、美味しかった。
「サシャ、これ美味しいね」
「気に入ったならよかった」
「うん。僕、気に入ったかも」
僕が気に入ったと口にすれば、サシャはそれをいつもの料理でも出してくれると言ってくれた。
僕が食べたことのないような料理や飲み物って僕が想像しているよりもずっと多くあるんだなと思う。僕は王国から出たこともなかったから、余計に毎回、食べ物に新鮮さを感じたりしてしまう。
椅子に腰かけて、美味しいものを食べて、飲む。うん、美味しくて幸せな気持ちでいっぱいになるね。
「ウルリカ、この後、オペラだろう?」
「うん。僕、頑張って歌うよ。歌っている最中にお腹なったら嫌だからね、ちゃんと食べておくんだ」
オペラ隊に混ざって歌を歌うのは、もう少し経ってからだ。着替えたり準備はしなければならないけれど、その前に空腹は満たしている。だって歌っている最中にお腹がすいてしまったら大変だしね。
「ねぇ、サシャ。大体は僕のことを受け入れている感じだけど、やっぱりそうではない人もいるね」
「うむ。しかし実害は起こさせないから安心しろ」
「うん。そのあたりは全然心配していないよ。そうやって行動を起こそうとする人は多分、サシャと敵対しても問題ないって腹くくっている人だよね」
「それか何も深く考えていないようなやつらだな」
「何も考えずにサシャと敵対しようって思うの?」
「そうよのぉ。そこまでよく考えていないものというのはおる。そういう連中は自分が上手くいくことを信じ切っており、そのまま突き進む。そういう傾向にある者がおったら相談するのだぞ」
「うん。相談するね。僕一人だとそういう相手の対応をするのは難しそうだしね」
僕がどれだけ周りのことを把握できるか分からないけれど、それでも僕が観察して気になった人に関してはサシャやユエバードに相談しておこうと思う。もしかしたら僕の杞憂になるかもしれないけれど、それでもそうやって心配することは悪いことではない。
「歌うの楽しみだなぁ。こういう場で歌を歌うのって初めてだから結構、緊張してしまうかも」
「失敗したとしても何も変わらぬ。寧ろウルリカの可愛さが強調されるだけであろう」
「まぁ、僕がちょっと失敗しても問題ないかもしれないけれど、出来れば成功させたいなって思う」
僕が上手く歌えたら、きっとサシャや周りは褒めてくれるだろう。エブちゃん先生にも喜んでもらえるかなと、そう思うだけで頑張りたいと思う。
練習では幾ら失敗してもいいかもしれないけれど、本番は成功させた方がきっとかっこいいもんね。
「うむ。なら頑張るとよい。我は見守っておる」
「うん。サシャが見守っていてくれていると思うと、なんていうか凄く心強い気持ちになるよ。僕の歌、皆、気に入ってくれるといいなぁ」
今、この場でサシャに対する歌をお披露目出来ないことに関しては僕の力不足だなと少し落ち込むけれどやれるだけのことはやらないとね。サシャへの歌の作成は、次の機会にサプライズでお披露目出来ればいいなぁ。
「ウルリカが頑張っていることが分かれば、誰もがウルリカに夢中になるであろう」
「そうかな?」
僕は確かに可愛いけれど、誰もがというのはちょっと過大評価かななんて思ったりする。
「うむ。ウルリカは可愛く、それでいてまっすぐで、一生懸命であろう。それでいて歌声も愛らしいものだ。だから大抵のものはおぬしのことを好ましく思うであろう」
「なら、嬉しいなぁ。僕はサシャも同じようなものだと思うよ。サシャはね、かっこよくて可愛くて、素敵な女の子だもん。それでいて女帝として頑張っているから皆好きになると思うもん」
互いにそういう風に言いあうのってなんだか楽しい。
なんだかこうやって互いのことだけを二人で語ると、周りに沢山人がいる状況なのにまるで二人きりのようなそういう気分になる。もちろん、実際はパーティーが行われている最中で、周りには沢山人がいて、僕らに対して驚くほどに視線を向けられているわけだけど。
そうやって会話を交わしていると、そろそろ僕はオペラ隊の元へ向かわなければならなくなった。
開始の時間までにはまだあるけれど、着替えはすまさないといけないからね。
それに直前の合わせもあるし。
「じゃあサシャ、僕、行ってくるね」
「うむ。いってくるといい。ウルリカの歌を我は楽しみにしておる」
サシャにそう言って見送られて、僕はそのまま騎士に連れられてその場を後にするのであった。
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